第25話 順調

その後の俺達は順調そのものだった。新しいメンバーの追加はないが依頼の失敗もなく、パーティーの名前も徐々に広まっていった。


「いやー、今日も依頼を無事に終えれたことに乾杯」


「アヤ、ちょっとは落ち着きなさい。私達の名も少しずつ認知されてきたからあることないこと言われるリスクだってあるのよ」


「まぁ、ここにはそんなことを言う人もいないだろうから少しは気を晴らす場所があってもいいと思う。他の人に迷惑を掛けない範囲なら好きにやってくれ」


今日は初の護衛の依頼を受けて無事に達成し、その記念に呑みに来ている。3人という人数で不安がられたが俺達の実力を見ると評価は一変し、普通の冒険者10人より頼りになると煽てられる有様だった。そこまで買ってくれなくてもいいんだけれど。


ここ数か月でうちのパーティーは戦力的、機能的にも大きく向上した。まず俺とミサキが収納魔法を無事に使える様になった。これによって荷物運搬はもちろん、魔物の肉なども採取できるようになったので収入も幾分か増えた。そのせいで少し浪費癖とまではいけないけど支出は増加傾向ではあるが・・・


アヤの剣技はさらに磨きがかかった。以前でも見切れる人はほとんどいなかったが、今では毎日見ている俺くらいしか追えれる人はいない。他のことを極めさせてもいいが、なんだか俺もアヤも楽しくなっている。ミサキは呆れた様子で見ているが無駄なことをしているわけではないので特には言ってこない。



「そういえば、アダマンタイトの精錬、そろそろ仕上げに入ったか?」


「そうね、あと2、3日と言ったところかしら。途中までは簡単だったけど純度が上がっていくにつれて難しくなってて中々思うようにはいかなかったわ。完成したら教えてあげるから期待してて待ってなさい」


ミサキはできないことはできるとは言わない。だから期待して良さそうだ。そうなったら使い道も考えないとな。


「リーダー、明日もまた依頼受けるの?」


「あぁ、そのつもりだ。資金は順調に溜まってきているがまだまだ足りない。各々の技術アップもだが装備なども更新していかなければいけないからな」


「はーい、いつになったらゆっくりできるのかなぁ。もうちょっとゆっくりしたいんだけど」


「確かに、最近ちょっと詰めている感じはあるな。よし、今回の依頼が終わったら1週間くらいの休みを取ろうか。その代わり報酬の多そうな依頼を選ぶけどな」


「別に疲れが溜まっているわけじゃないからちょっとくらい日数のかかる依頼でも大丈夫だわ」


「私もです。寧ろ1週間も休ましてくれるなんていいんですか?」


「アヤはもうちょっと休むことを覚えよう。今まで大変だったのはわかるがここでもその調子だと困る。ここに入ってからもう数か月になるんだからそろそろ慣れて欲しい」


「はい・・・気を付けます」


アヤはいつもどこか焦っているように見える。やっぱり今まで染みついたものは中々取れるものではないのだろう。


「さ、この話は終わり。辛気臭くなってもね。もっとポジティブにいこう」


盛り上げ役もいない中、飲み会は静かに進んでいく。そういえば前のパーティーではベーブがいつも盛り上げてくれてたっけ。そして終わりの時間が近づいていく。



「さーて、今日はこれくらいにしておこうか。なんだか足りない気もするけどこのメンツじゃ静かな感じになるのも仕方ないか」


「そうよ、正直飲み会よりも美味しい店に行く方がいいかもね。今度こういう機会があったら考えておきなさい」


そうは言われたが意外と難しいものだ。前のパーティーではとりあえず居酒屋ということが多かったから普通の店というものに詳しくない。調べておかないとな。


「あの、それなら次にこういう機会があれば私に任せて欲しいです」


「ほんとか?それはありがたい」


「アヤのオススメする店かぁ、ちょっと想像つかないわね。楽しみにしておくわ」


思わぬ助け舟に救われる形となり、内心ほっとする。これで次の慰労会までは大丈夫だ。


「明日はまた依頼を受けに行くが寝坊しないようにな」


「大丈夫よ、アヤが起こしてくれるから」


「アヤ、ミサキが寝てたら叩き起こしていいぞ。俺が許可する」


「そ、それだけは・・・わかったわよ。自分で起きるから」


ミサキはアヤが起こしてくれると高を括っていて寝坊寸前まで寝ていることがたまにある。当然俺も知っていることだからある時、アヤにミサキを叩き起こしてもらったことがある。その時のミサキは今までに見たことのない慌てっぷりで傑作だった。その時のことが未だに堪えているのだろう。この話をすればいつもの調子をやめて素直になるのだ。


「はぁ、戦闘しなくても文句言われないパーティーでラッキーと思ったけど失敗だったかしら?」


「冗談でもよしてくれ。このメンバーだけのうちはいいが新しいメンバーが入ってからもそのような態度をされると俺も考えを改めないといけない」


「わかってますよー。ここ追い出されたらまた探すのは面倒だからね。それに今の待遇結構いいでしょ?貴方達が私を頼っているように私もここに頼りになりたいの。だからメンバーが増えたときはそれなりの態度をするわ」


「・・・信じてはよさそうだな。今の言葉を忘れないように」


果たしてミサキの調子は新規メンバー加入時に変わるのか、変わるとしてどのように変わるのか。全く想像はつかない。


(やっぱりもっと厳しくするべきなのかなぁ?俺が強く出ないことをいいことにミサキはずっとこのままなんだけど今更変えるわけにもいかないからなぁ。新規メンバーが来るまではこのままでいくしかないか)


若きリーダーは扱い方の分からない少女に今日も振り回され・・・ているのかもしれない。

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