第22話 帰りはあっという間
「ナンノコトデショウネ・・・」
「そうか、気づかなかったのか。あんな大きな音、この山に住み始めてから50年になるが初めてだったわい。なにはともあれ無事でよかったよ」
この場合の無事とは物のことだろうか、それとも俺達だろうか。
「それよりも今日泊まる場所がなくて困ってたんです。もしよろしければ一晩泊めて頂けないでしょうか?」
「おぉ、そうか。ここまで大変だったじゃろう。たまにここを訪れる者はおるんじゃが皆疲労困憊といった感じでの。そういう人たちのために休む場所を作ったのじゃ。お主らもそこで休むといい。お代はいらんよ、後でニコラのやつに貰うからな」
なんとか休める場所を確保できたことに安堵する。もしもここで追い出されたら日が昇るまでの間魔物にいつ襲われるとも分からない状況が続いていたためとても危険であった。
(こやつら他の客人に比べて元気過ぎるな。さっきの反応と言い何か隠していそうだが・・・まぁいい、これを安全に届けてくれたからの)
緊張の抜けた直後の俺達はピーターの目が疑いの目を向けていたことに気づかなかった。
翌朝、昨日とはうって変わって目覚めの良い朝を迎える。でも今日はまたあの環境で寝なければいけないと思うと少し気分が沈む。
ピーターの住んでいる小屋の隣に客人が一晩寝泊りする用の小屋が併設されている。寝泊りする以外の機能はほとんどないが逆にそれに関しては不満はない。そしてまた俺達は下山しなければいけない。ピーターへ挨拶をしたらすぐに下山しようと思っていたのだが・・・
「まぁ、お主ら。ここで急いでもそんなに変わらんじゃろ。昨日はあまり話もできなかったことじゃし少しこの老人に付き合ってはくれぬか?最近あまりここを訪れる者がおらんのでのう」
俺としてもなぜこんな場所に1人で住んでいるのか。どうやって生活しているのかはとても気になっていたので話をするならむしろ歓迎だった。
「わかりました。お互いに満足するまで話し合いましょう」
「ほっほ、ありがたい。じゃあこちらから幾つか質問させてもらおうか・・・・・・」
俺達はつい熱中してしまい、気づけば3時間程話続けてしまった。今から動き始めても昨日の地点までは暗くなる前にたどり着けない。これでは困ったと説明したところ、もう一晩泊っていいと言われた。
「いやー、すみません」
「あんたたちだけ楽しそうね・・・まぁ時々為になる話も幾つかあったけど」
アヤは途中から外に出て剣の修行をしていた。流石に話の内容が合わなかったのだろう。
「久しぶりに楽しませてもらった。これはささやかながらお礼じゃ」
ピーターはある塊を取り出す。俺は最初何か分からなかったがミサキはとても驚いていた。
「これってもしかしてアダマンタイトの原石?精錬してみないとどれくらいの大きさになるかわかんないけどここで見れるとは思わなかったわ・・・」
「実はこの山にも微量じゃが採取できるんじゃよ。場所は教えんがな」
「そんなことしませんよ。安心してください」
「そ、そうよ。私達は陽炎のメンバーだったコウキがリーダーなんだから。そんな依頼主との関係を悪くするようなことはしないわ」
「ほう、陽炎か。20年ほど前にそんな名前のパーティーが来た気がするのぉ」
えっ?と思わず声がでてしまった。ここに来たことがあることもだがそれよりも覚えていたことの方が気になる。
「そうじゃそうじゃ、思い出した。やけに礼儀正しい奴らだったからよく覚えておる。たしかリーダーはジョンと言ったかのう」
「その時も今回の様に何かを運んだのですか?」
「何で来たかは覚えてはおらぬが、ここに来る人は大体ニコラに頼まれて仕方なく来た人ばかりだな。おそらく彼らもそうだったはずじゃ」
「いや、驚きました。世間は思ったより狭いのですね。今日は興味深い話を色々ありがとうございます」
俺達はお礼を言って昨日泊った小屋へと戻る。そして日が暮れるまでの間アヤと共に魔物を狩り続けた。
さらに翌日、ピーターとお別れし、下山を開始する。帰りは一度来た道を戻るだけだったので楽だった。相変わらず夜は辛かったが先が見えているため行き程の苦労は感じない。
無事に下山を終え、最寄りの街までたどり着く。帰りは順調すぎてあまり覚えていない程だ。
「なんかあっけなかったわねぇ。ま、これくらいの方が楽でいいんだけど」
「そうだな。1回目にしては攻めすぎた依頼だったと思うから次はもう考えてから決めよう・・・まだ依頼主のところに戻ってないから本当の意味では終わってないけどね」
依頼自体は達成したが報酬は依頼主のところへ戻らないと貰えない。当然だがすぐに貰えないというのはなんだかもどかしい。さっさと貰って次のことに集中できるようにしよう、と思っていたが・・・
「依頼主のところに戻るのもいいけどさ、この街で受けれそうな依頼って無いかな。まだ資金に困ってるわけじゃないし報酬がよさそうなのは受けてもいいんじゃない?」
「おいおい、さっき俺が言ったこと聞いてたのか・・・まぁいい、せっかくこの街に来たんだしちょっとくらい見てもいいな。今日明日はここでゆっくり観光がてら見回ってみよう」
なんとなく依頼主の元に戻るのが遅れそうな気がしたが案の定そうなるのであった。
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