第21話 山小屋を目指して2

帰りにこの場所を再び訪れる可能性が高いと判断し、印をつける。あまりいい場所ではなかったがこれ以上は今は求めることができない。


そして昨日よりやや軽くなった足をまた動かし始める。もたもたしている時間はないからな。


「なんというか魔物の傾向とかは全然変わらないよな。結構歩いているはずなんだけど」


「ここで生きていける魔物が少ないってことなのかねぇ。あまり興味はないんだけど」


「こういう過酷な場所で魔物の傾向が変わるときと変わらない時の違いとか調べれば面白そうだけどな」


「そういう見方なら興味を引くわね。とりあえずこの辺りの環境と出現する魔物を記録しておこうかしら」


「ぜひやってもらいたいね。戦闘に出ない分色々頑張ってもらわないと」


「はぁ、もうちょっとサボらせてもらいたいなぁ」


ぼやいてはいるが手はちゃんと動いている。自分の置かれている立場はちゃんと理解しているようだ。



今日中には怪しいか?と思い始めたころ、小屋の近くから見えるであろう景色が開ける。まもなく山の中に似合わぬ人工的な光を発見する。


「やった。あそこだ。しかも人がいる気配もある。休ましてくれるかどうかは分からないけどこれで依頼自体は達成だ」


俺は嬉しさのあまりついはしゃいでしまう。2人はすこし冷ややかな目で見ていたが嬉しい気持ちはわかってくれているはずだ。


「ううん?コウキよく見て。見える位置に小屋はあるけど崖があって回り道しないとだめだわ。目途は立ったけど喜ぶのはもうちょっと早かったわね」


束の間の喜びはあっという間に冷める。確かに目的の場所は見えた。だが今日中に行けるか分からない程には回り道をしなければいけないことに気付いたからだ。


「すまない。気を取り直してまた進んでいこう。多少無茶をすることになるかもしれないが今日中に行きたいのでペースは上げる」


「はーい、私も目の前に見えてるのに辿り着けない状態が続くのはなんだかじれったいから賛成よ」


「おなじく、ささっ早く行きましょ」


2人の同意も得て再び歩を進める。多少開けた場所ではあったが魔物の数は妙に少ない。もしかしたら小屋の住人が定期的に狩っているからなのだろうか。


そんな疑問もあったがたどり着いた後に聞けばわかる。とにかく一刻も早くあの小屋にたどり着く。それ以外は些細なことだった。


ペースを上げた甲斐もあってなんとか暗くなる前に小屋の前までたどり着くことに成功する。これ以上暗くなると足場すら怪しくなってしまうので灯りを灯さなければいけない。しかしそうすると魔物達に自分達の居場所を教えるようなものだ。そのような事態にならなくてほっとする。


俺は小屋の扉をノックする。しばらく返事がなかったので再びノックをする。


2回目のノックの後も中々返事が返ってこなかったのでもしかしたらいないのか?という疑念が出始めた頃、ようやく中からドタドタと音が聞こえてくる。どうやらこちらの存在に気付いたようだ。


開いた扉から中を除くとそこには髭を長く伸ばした老人がいた。その老人は突然の来客に驚いていた。


「すみません。ピーターさんのお宅で間違いありませんか?」


「・・・あぁそうだが、なんか用か?」


「二コラさんからの預かり物を持ってきました」


「ふぅむ、あいつからか。たまたまこの山に迷い込んだわけじゃなさそうじゃな。こんなところで立ちっぱなしもなんだ、上がってくれ」


ピーターと思われる老人に招かれ、俺達は小屋の中へと入る。1人で住む用なのか4人もいると若干手狭だ。


「さて、詳しく教えて貰おうか」


「これを貴方に渡すように頼まれました。中身は何か知りませんが」


「お主ら、ちょっと待っててくれ。あいつからの贈り物の中身を向こうの部屋で確認する。戻ってくるまでの間ゆっくりしててくれ」


急いだ様子でそそくさと隣の部屋へ行ってしまった。仕方ない、戻ってくるまで待つしかないな。


お茶やお菓子が出されていたわけでもないのでひたすら暇な時間が流れる。部屋に置いてあるものも一通り見てはみたが面白そうなものはない。


3人とも早くしてくれーと心の中で叫びたくなった頃、ようやく戻ってきた。


「いやー、待たせてすまない。中身は言えないが随分昔からあいつと話し合ってたものでね。つい夢中になってしまった」


「それはいいんですけど・・・とりあえず受け取ったことを示すものをいただけないでしょうか?ニコラさんにはこう言えばいいと言われました」


「あー、はいはい。これでいいかな?」


何を取り出したかと思うとハンコだった。ちょっと身構えたのが恥ずかしい。でも誰にも気づかれてなさそうだからセーフかな。


そしてニコラさんとの契約書に判を押した。


「これでいいはずだ。万が一なくしてもいいように君にも押しておこうか?」


余計なお世話である。だが雑な返しをするわけにもいかない。ここにいるのは依頼主の友人でもあるからな。


「いえ、大丈夫です。この通りうちのパーティーは優秀なんでね」


「そういえばあんたら・・・昨日ものすごい爆発音がしたんだがよう無事だったな。来た方向から考えると丁度その辺りにいたんじゃないか?」


あの一撃の衝撃音がここまで届いてたとは・・・それよりもどう説明すべきか、老人の質問にたじろぐのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る