第20話 山小屋を目指して

依頼をこなすため、俺達は山を登っていた。周りに人影など無く、時折聞こえるのは魔物の唸り声と風切り音だけだ。


「うぅ、思ってたより寒いわね。準備してきてて良かったわ」


ミサキは震えながら愚痴をこぼしている。なんだかんだまだ余裕そうだ。俺とアヤは冒険者として何度もこういった山登りはしているためこの程度なら余裕である。


(しかし、まだ登り始めて半日と経ってないのに中々過酷な場所だな)


この過酷な環境のせいか魔物の強さも明らかに周囲よりは強い。おそらく数少ない安全な場所を争って優秀な個体だけが生き残っているからだろう。


「いい経験になるな。こんな魔物は普通の任務受けてるだけじゃ中々出会えないぞ」


「依頼内容を聞いたときは想像してなかったけど嬉しい誤算ね」


一番近くの村でこの山について情報を集めると魔物の強さからあまり立ち入らないらしい。依頼主はそういった注意はしてくれなかったのだが報酬の多さから察することはできたのでこれは俺の見落としでもある。


険しい山の中を進んでいったが困ったことが発生した。というか入山したときからこうなることはわかっていたんだが。


そう、安全に一夜を過ごせる場所が見つからないのである。洞窟のような場所でもあれば一息つけるのだが都合よく見つけられたら苦労はしない。


段々と暗くなっていく中、俺達は焦りだす。このまま朝まで耐えることは消耗が激しいのでできれば避けたい。何かいい方法は無いのだろうか・・・


悩むが足を止めるわけにはいかないので進み続けていたが、ミサキが何かを思いついたようだ。急にピタっと足を止める。


「なんだ、急に止まって。良さそうな場所見つけたか?」


「そんな場所あったら苦労しないわ。でももしかしたらいけそうな案を思いついたの。休める場所がなければ作ればいいんじゃない?」


突然の提案にはっ、っとする。確かに、その考えは思いつかなかった。そして真っ先に思いつくべきだった。


「もう暗くなりかけているしそうしよう。他にこの山に来た人がどうやって一夜を明かしたかは分からないが今の俺達にできるのはその手が最善だと思う。あとは作れそうな場所を探すことに集中しよう」


探す対象を変えると案外すぐに見つかる。よく見ると同じような景色は何度も見たような気はする。


「さて、どうやってここをいい感じにするかだけど。やっぱりここに穴を開けるしかないか。アヤ、この辺りに人が一人通れるくらいの穴を開けて欲しい。だけど力を入れ過ぎて山を壊してはいけないから加減してな」


「はーい。でもこのままじゃ剣が耐えきれないわ。ありったけの補助魔法をかけてね」


俺は補助魔法をかけ始めたが、ふと見るとミサキも同じようにかけている。そういえば戦闘は苦手だから補助魔法も使えないと思っていたがそうじゃなかったのか。


「おおお、補助魔法かかりすぎて剣が光ってるよ。こんなの見たことがない」


過剰ともいえる補助魔法に驚くアヤ。安心しろ、俺も驚いている。


「よ、よし。じゃああの辺りをサクッとやってくれ」


広場の奥の一か所を指さす。ここにいい感じの穴があれば魔物に襲われにくそうだ。


アヤは俺の指さした場所めがけて一振り。心なしか若干手加減しているように見えた・・・のだが。


剣がぶつかった場所が衝撃に耐えきれずに砕け散る。ここまではよかったんだ。広がっていく亀裂はどこまでも続いていき、ばらばらと崩れていく。明らかに山が威力に耐えきれなかったように見える。


ポカーンと立ち尽くす3人。目の前にあるのは砕けた岩が集まった脆い小石でできた山だった。


「どう・・・して・・・」


アヤとミサキは失敗した現実に向き合えてないが、俺はそんなことよりも気になることがある。


補助魔法をかけ過ぎたのだろうか。それにしても威力がおかしい。アヤの実力もあるがやっぱり怪しいのは補助魔法か?


「ミサキ、君の補助魔法。何かあるのか?」


俺の質問にドキっとしていた。やっぱり何か隠しているな。


「な、なによ・・・はぁ、アヤさんの実力でごまかせると思ったけど予想以上すぎたわね。貴方の補助魔法が余計だったのかしら。わかったわ、とはいっても私に特別なスキルがあるわけじゃないの。ただ補助魔法に特化させた生き方をしただけよ」


「才能値の割に実力が低すぎると思ってたけどそういうことだったのか・・・でもその補助魔法ならどこでもとは言わないけど欲しいパーティーもあったはずだ。どうして一人でいたんだ?」


「あー、私お金には困ってないんだよね・・・実家がお金持ちってやつ。だから補助魔法のこと隠して適当に戦わなくてもなんとかなるパーティー探してたんだけど中々見つからなかったんだよね」


なんとも面倒な奴である。まぁおかげで俺達のパーティーに入ってくれたんだけど。


「あ、今まで通り私は戦闘には参加しないよ。危険なのは御免だからね。補助魔法をかけることは別に構わないけど戦闘時以外で」


折角戦力の大幅増加が期待できたがこればっかりは諦めるしかないか・・・長く旅を続けていればそのうち気変わりするかもしれないし。


「それはそれとして、これどうするの?流石に派手にやり過ぎて魔物達も寄ってきそうだし別の場所探しましょ」


確かに、こうしている間にも日はどんどん落ちていっている。暗くなる前になんとかしないと。


別の良さそうな場所を探し、今度はミサキだけが補助魔法をかける。そして山の斜面にいい感じの穴が開き、やっと息をつける場所を確保する。


「ふぅ、どうなることかと思ったけどこれで休めるな。一応見張りで1人は起きていてもらうがしばらくは俺がしよう。2人は休んでいてくれ」


日が昇るまでの間交代しながら見張りを続ける。疲れは残っているが何もしないよりは遥かにマシだ。あと半分くらい、今日中には辿り着きたいな。

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