第19話 出発の前に
「荷物よし。途中の村で買い足すものも含めたらこんなところだろう。各自、これが1人分だ。俺の収納魔法で入れれる分以外は持ってもらう」
あれから収納魔法を中心に訓練していたため、容量は少ないが少しは使えるようになった。まだまだ十分とは言えないが、ないよりは全然マシだ。
「うぅ、結構重いわね」
「まぁ手前の村までは馬車が出ているからな。そこまでは大丈夫だ」
「早く私も使えるようにならないとなぁ。それにしてもリーダー、もう使えるようになるなんて・・・ちょっと嫉妬してしまうわ」
「私も使えた方がいいのかな?」
「うーん、そのうち収納魔法で荷物を十分に持てるようになるだろうから今は技を磨くことに集中してくれ。アヤがどこまで強くなるのか俺としても少し楽しみなところではあるからな」
ミサキはこれ以上強くするつもり?って顔していたが別におかしなことではないだろう。今俺とミサキは単純な戦力でなく、パーティーとしての利便さをあげることにリソースを割いている。その分誰かが強くならなければいけないのだ。
馬車に揺られながら着々と目的の場所へ近づいていき、出発から5日後、ついに最寄りの街にたどり着く。
「ここからが本番だな。向こうの小屋でゆっくりできるか分からないから最悪1週間はここに戻って来れないと思ってくれ。だから今日は休もう。明日の朝出発だ」
ここまでは人の行き交う場所を通るだけだから誰にでもできることだが、ここからは違う。困っても誰も助けてくれない場所をひたすら進んでいかなければいけない。まぁ2日もあれば着くから本当に何もないって程じゃないがな。
「さて、俺も休むか」
宿のベッドに腰を下ろし、馬車疲れの身体を横にする。すぐ寝るつもりはなかったのだが気づけば意識はなかった。
翌朝、ノック音で目が覚める。寝坊したかと思ったがまだそんな時間ではない。安堵の後、ゆっくりと扉を開けるとアヤがいた。
「こんな時間にどうした?」
「時々は私の成長を見てもらいたいです。自分のスキルをかけている人がどうなっているのか知らないのは無責任でしょう?」
「・・・そうだな。だけどこんな時間じゃなくても」
彼女の言うことは尤もだが、こんな朝早くなのは非常識だ。まぁ毎朝訓練をする習慣が抜けない彼女からすればそれが普通なのかもしれないが。
「さぁ、行きましょ。今しか機会がないもの。これからしばらくはゆっくりなんてできないからね」
彼女に連れられて村の外の広場で彼女と対峙する。そういえばこんな感じで向かい合うのはあの日以来か。
「あの時みたいに踏み込んでみてくれ。今度は受け止めてみせるよ」
「簡単に言ってくれるじゃない。じゃあ容赦はしないわ」
辺りが緊張に包まれる。彼女にはああやって強がって見せたが、正直自身はない。だが俺は疾風果敢のリーダーだ。メンバー相手に情けない姿でいることはできない。
俺はアヤの身体の動きを全神経を集中させて観察する。こちらとの距離を詰める際に必ず必要な動作がある。ほんの一瞬の溜め動作、これを見逃してしまえば対処はできないだろう。
静寂の時間が流れていく。流石にアヤも慎重になっている。俺のことを警戒してくれる程度には買ってくれているのは嬉しいよ。
僅かな身体の動きに気付くがこの動きはフェイクだ。実に上手い技だが、何度も彼女の動きを見てきたおかげかこの程度ではもう騙されはしない。
いつ来るかわからない状況が続き、集中が切れそうになる。彼女の方がプレッシャーは少ないはずなのだが俺と同じように疲れている。どうしてだろうか。
コウキ視点ではいつ攻めるかという主導権を持っているのはアヤだったがアヤ視点ではいつ隙を見せるのか。となっていたので主導権がコウキにあるように見えたのだ。
そのため、お互いに動けない時間がただ流れていく。
「・・・これじゃ埒が明かないな。本来の目的を思い出そう。合図を出したらお互いに距離を詰める。これで行こう」
アヤもこの提案に同意する。そして俺の合図とと同時にお互いに接近し、剣と剣がぶつかった。
普通に詰められるよりも更に速い速度でぶつかったためお互い衝撃に耐えられずに後ろに下がる。だがいつまでも下がっていてはその隙にやられてしまう。俺はなんとか3歩下がったところで踏みとどまったがアヤは1歩早く動き出せていたようで対応が遅れる。一度アヤに優位な状況を作られてしまったら最後、後は徐々に押されていき間もなく降参するしかなくなった。
「俺の負けだ。一歩の差というものを思い知らされたよ。大分身体の使い方に慣れてきたかな?」
「そうね。やっぱりわかる人にはわかっちゃうのね。まぁあそこまで対応されると思わなかったから驚いているのはこちらもよ」
「そんなに舐めないでくれ。俺だって頑張ってきたんだ。それにリーダーとしての意地ってのもあるからね」
「ふふっ、じゃあ今日はこの辺で。それにしても最初の数分の駆け引き、あれは想像以上に疲れたわ。山登りに影響が出ないか心配になるレベルだわ」
それに関しては同意だが、そんなことは言ってられない。
「さっきのことを理由に疲れたなんて言ったら許さないからな。まだ出発まで時間はある。ゆっくり休め」
2人の去った広場には風が吹いていた。さっきまでそこで死闘があったと誰が思うだろうか。
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