第16話 迫る時

本当に俺がリーダーとしてやっていけるだろうか。不安は日に日に大きくなっていく。気づけば新しいパーティー結成は明日となっていた。


「なんだか心ここにあらずって感じだなぁ。本当にやっていけるんか?」


ベーブが俺の様子を心配して声をかけてきた。戦闘で支障が出ているわけではないが、やっぱりメンバーには気づかれているようだ。


「やっぱり不安になりますよ。ベーブさんもこのパーティーを結成した時はそうじゃなかったんですか?」


副リーダーのベーブとジョンはこのパーティー結成時のメンバーだ。もう一人いたらしいがそのメンバーは既にこの世にはいないとのことだ。そして何人か入ったり抜けたりした後、今のメンバーになった。


「まぁ、その時はジョンについていって支えることしか頭になかったからな。もう一人のエリンってやつもしっかり者だったから俺はあまり気負わなくて良かったんだよな。こいつらなら大丈夫っていう謎の安心感があった。ま、今のあいつに比べたらみんなひよっこだったがな」


「そうだったんですね・・・リーダーはどう思ってたんだろうか」


「聞いてみたことはあるがそんな特別なことはないぞ。他のどのパーティーにも負けない優しさと強さが欲しかった。それだけだとよ」


(優しさと強さ、かその強さってのはきっと力だけじゃないんだろうな)


「おっと、そういえば今日はお前達の巣立ち祝いをするんだったな。こうやってお前と話すのも今日で最後なのかと思うと寂しいな」


「もう会えないってわけじゃないんですから。どこかで会ったときはこうして話しましょう」


「へへっ、そうこなくっちゃな。よーし、今日は飲むぞー」


「この前みたいに酔いつぶれるのは勘弁してください・・・」


ベーブは部屋へと戻っていき再び一人になる。今は一人になると寂しく感じるので誰かにいて欲しいかったがそんな弱気なことは言えない。だが静寂に耐えきれなかった俺は街に足を運ぶことしかできなかった。


(このパーティーを抜けてもしばらくはこの街を拠点にすることには変わりないけどいつまでもここにいると仕事を取り合うことになるよなぁ。4人目のメンバーが入ったら別の街に行くことも考えないと)


今拠点にしている町、ポパロはこの国で中くらいの規模の街だ。冒険者として困らない程度の仕事はあるが、いつもそういう訳ではない。依頼が少ない期間が続けば当然取り合いということも起こる。そんなときにジョンのパーティーと取り合うようなことはしたくない。


(他のメンバー次第になるけどどちらかのパーティーが街を出たほうがいい状況になったら俺達が譲るのが義理を通すってことだよな。流石にこれ以上迷惑はかけれないし)


当てもなくうろつくがただ時間だけが過ぎていく。気づけば約束の時間が近づいていた。はっとした俺は急いで居酒屋へと向かう。なにもする気の起きないこの時間から解放されるだけで嬉しくガラにもなく気付けば足早に向かっていた。



「おぉ、やけに早いな。一人でいるのが寂しかったのか?」


同じく時間より早く来ていたベーブに見透かされる。今日の俺そんなにわかりやすいのか。


「まぁそんなところです。もう中に入ってもいいんです?」


「いや、さっき確認したけどあと10分くらいは駄目らしい。気長に待とうや。ここで急いだってなにも変わらねぇ」


普段ベーブにそのように言われることはないので今日の俺はよっぽどなのだろう。この調子が明日まで続けば2人だけでなくジョンやベーブ達も不安にさせてしまう。今日中に気持ちの整理を終わらせようと決心した。


2人で店の中へ先に入り、他のメンバーを待つ。時間が近づくにつれ続々とメンバーは揃っていき、開始10分前には全員が揃う。


「じゃあこれからコウキとアヤ君の新たなパーティー結成とケンイチのパーティー加入を祝います。乾杯」


リーダーの乾杯の号令に続き他のメンバーも乾杯と続く。その後は各自思い思いにおしゃべりしたり目の前の酒や食べ物を思い思いにしている。そんな雰囲気のおかげで徐々に調子が戻ってきた。


大分出来上がったメンバーもいる中、リーダーがこちらへと向かってきた。


「最初の方は見てられなかったけどもう大丈夫そうだね。安心したよ。これからも君のことを心配するけどこうやって面向かって言うのは今日が最後だからね。これから旅立つ君には一つだけ。頑張り過ぎないこと、これだけだ。あとの細かいことは君なら大丈夫だ」


「そんな、買い被りすぎですよ」


「いやいや、そんなことはない。将来的には君をこのパーティーのリーダーにする予定でいたからね。今は経験の差で俺がやっているだけで適正は君の方がある。君にリーダーを渡す時を楽しみにしてたんだけどそれは叶わぬ夢になったけどね」


そんなことを思っていたのか。全然そんなそぶりを見せなかったから全くの予想外だ。


(リーダーは俺を買ってくれているけどやっぱり貴方には勝てませんよ)


「すみません。それは俺としても叶えてあげたかったんですけど・・・」


「まぁ大丈夫さ、ケンイチ君もいるしこのパーティーはまたここから始まる。君の目標であり続けれるように頑張るよ」


「いつか、並びたてれるようなパーティーに・・・その時はまたこうやって語らいましょう」


「楽しみにしているよ。じゃあ俺はこの辺で、ベーブが呼んでるから相手してあげないと」


リーダーと話したことで肩の荷が下りた気がする、やっぱりあの人はすごい。なぜかついていきたくなるカリスマのようなものを持っている。俺もそうなりたい。


弱気だった時の俺はどこへ行ったのやら。俺は前半の分の借りを返すかのように残りの時間楽しみ尽くした。


そしてとうとう終わりの時間が訪れる。またベーブは酔いつぶれていて何人かに身体を支えられている。


最後の方は俺とアヤで話していたこともあり、一緒に店を出る。そして宿の方へ向かっていこうとしたが足が止まった。


「せっかくだからちょっと遠回りしないか?」


「別にいいけど・・・どうしたの?」


「ちょっと来てほしい場所があるんだ」


不思議に思うアヤだったが進んでいくにつれ、何かを察したようだ。そう、ここは俺とアヤが出会った場所だ。


「全く、こんなところに来てどうするつもり?」


「あの時はこうなるなんて思いもしなかったからな。まぁそれは今はいい、一つだけ聞きたいことがあるんだ。俺への配慮は一切抜きでこうなったことは後悔していないか?一生俺がスキル解除しないか怯える生活でいいのか?」


「なんだそんなこと・・・後悔なんてしてないわ。馬鹿みたいに優しい貴方だから怯えることもなく私は安心してやっていけると思ったのよ。これからもよろしくね」


彼女の言葉で俺の心は完全に固まる。そしてなんだか恥ずかしかった。それはアヤも同じだったようだ。

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