第15話 結果と過程

道を駆け上がるところまでは1回目と同じだ。問題はここから、徐々に減速していきそして先程と同じあと5メートルといった場所で止まる。この瞬間、俺とコウキは彼女の真下めがけて氷魔法を発射し、平らとは言えないまでも一応足場らしきものを作る。


そして僅かに落ち始めていたアヤの身体は足場に支えられる形で止まった。後は一踏みで5mほどを駆け上がるだけである。


一息ついた後、足場に向けて勢いよく踏み込み、再び駆け上がる。彼女が足を離すと同時に衝撃に耐えられなかった足場とその下に続いている道は砕けてしまった。もう後へは戻れない。失敗すれば大怪我してしまうかもしれない。


そんな俺の心配をよそに再び速度を得たアヤはなんとか崖の上まで登ることに成功する。俺やコウイチも驚いていたが彼女自身が一番驚いていた。いや、なんでだよ。


その後、崖の上にある頑丈そうな木にロープを巻き付けてここまで下ろしてもらった。こうなってしまえばあとはロープが切れることにだけ注意すれば薬草の採取は簡単である。依頼書に書いてあった数を優に超えて採取し、無事にアヤが崖から降りてきた。これで依頼の内容は完璧である。


「正直この作戦を聞いたときは正気を疑ったがなんとかなってしまったな。アヤには驚かされっぱなしだ」


「いやー、なんとなくできそうかなーって思ったんで。他に案があればやるつもりはなかったよ」


「それにしてもあまり危険なのはこれっきりにしよう。回復魔法を使えるから即死以外だったらどうにでもなったけどこんなこと続けてちゃいくらアヤがすごいとはいえ、いつか取り返しのつかないことになりかねない」


「それは俺も思うな。俺も勢いに乗ってしまったがこの依頼、別にこの3時間で集めきらなくても失敗にはならない。リーダー達もそれはわかっていると思う。こんな時間設定にしたのはもしかして頑張っても駄目なことがあるってのをわからせるためだったり・・・?」


まさかぁ、と思ったがリーダー達と合流後に本当にその通りだった。そして俺達が集めきったこと、集めた方法を伝えると驚いてたし呆れてもいた。


「ちょっと無茶しすぎだね・・・アヤ君が何でもできるからそれが災いになることが来なければいいんだけど。とにかく、無茶はほどほどにね」


ちなみにリーダー達は3個集めていた。依頼内容では20個だったから本来は半日くらいかけて集める予定だったらしい。


「予定より大分早いけどもう集め終わったから何もなければ戻ろうと思うけどどうする?」


ここに来るまでに魔物とも十分戦っているので戦闘の経験をするという目的の一つも達成されている。これ以上ここに居続けるのは無駄に感じるが・・・一つだけ疑問になっていることがあった。


「リーダー達がどうやって薬草取っていたのかだけ気になります。せっかくの機会だから1回でいいので見てみたいです」


「なるほど。たしかに、君達にベテランのやり方というものを見せてあげるいい機会でもあるな。よし、1回と言わず見せてあげようじゃないか」


本来、これ以上ここに留まる理由はなく、ここでその手段を見せてくれるのは完全に俺達3人に対して経験を積ませるためだ。そのことは2人もわかっていてとてもありがたそうにしていた。



リーダーの案内で俺達と合流する前に薬草を集めていた場所にたどり着く。俺達が採取した場所と同じく崖と見間違う程の旧勾配だ。特に俺達と違う条件で集めていたわけではないようだ。


「さて、ここからゆっくり登っていくんだけど。どうしたと思う?」


あまり無茶なことをしてないことは想像できるが有効な方法は少なそうだ。何か無いのだろうか・・・


「そんなに難しいことじゃないよ。ハーケンを入れてもいい場所を見極めるんだ。まぁこの崖だと慣れてないと難しいけどね」


そして色々な場所叩いて安全な場所を見つけて打ち込む。地味だが確実に登っている。それにロープが切れる心配も少ない。実にベテランらしい確実な方法だ。


「やっぱり近道とかってないんですね」


「近道使った君達が言っても説得力ないよ。まぁこんな感じだ。上まで上がれば効率も上がるけど岩の質が悪くてあまりうまくいかなかった。もう少し上までいけてれば効率よく集めれたかもしれないね」


リーダー達の集め方もわかったことで今度こそここでやることは完全になくなり、下山を開始する。これでも予定より6時間も早く、結果だけ見れば順調そのものだ。


(これからは俺がああいった選択を取っていかないとみんなを危険に晒すかもしれないんだ。リーダーとしてまだまだ未熟なのはわかっているけどしっかりしないと)


色々思うことがある中、依頼主の待つ街までの道中を進んでいく。行きで魔物に出会いすぎた反動か、帰りは殆ど遭遇することはなく、行きよりも早く街についてしまった。


「帰りはあっという間だったな。まぁ特に帰りは疲れてるから楽な方がいいんだけど」


「そうですね・・・」


「どうした?元気がないのか?疲れているのならさっさと休もう」


「いや、そういう訳じゃないです。今日すぐにこの街を出るんですか?」


「うーん、俺は依頼主のところに行くからなぁ。そうだ、君も一緒に来るか?」


確かに、依頼主との交渉を俺がやることも十分ある。というか俺ができないというのはパーティーとしておかしい。


「ぜひ同行させてください。今しかできない貴重な体験です」


「よし、じゃあ他のみんなは明日の出発まで解散。今日帰ることもできたけどせっかく宿取ってるんだからゆっくりしよう」


本来ならば戻ってくるのは夜になるはずだったが予想をはるかに超えて採取が終わってしまったため、宿の予約を取り消して変えることもできたが、宿にも迷惑がかかるし急ぐ理由もない。お互いにとって損のないようにしていくことも大切なことだ。



依頼主に薬草の採取がもう終わったことを伝えると大変驚かれていた。数時間の差ではあるが、これほど早く戻ってきた者はいないという。


そしてここからは真面目な話だ。持ってきた薬草を見せ、状態を確認してもらう。一通り見てもらったが問題はなかったようだ。さらに、追加で持ってきた分も買い取ってくれるとのことで予定よりかなり多くの報酬を貰うことができた。


「君達に頼んでよかったよ。また必要になった時は指名しようかね」


「また頼っていただけると嬉しいです。では、この辺りで」


依頼主に挨拶をして館を後にする。正直俺は殆ど見ているだけだったが得るものは多かった。


「まぁこんな感じだ。君もすぐにできるようになるよ」


そう、これからは俺がやらなければいけないのだ。その時が近づいてきている事実を受け止めきれず不安が急に大きくなってきていることを感じた。

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