第14話 挑戦
薬草採取のため山へと向かう一行。その一人一人は手練れで待ち構える魔物どもを物ともせずひたすら進んでいく。
ジョンをリーダーとするパーティーだ。その中に俺やアヤもいる。
昨日とは異なり、俺が魔物を倒す機会もあったがコウイチとの関係は相変わらずギクシャクしたままだ。
「俺の実力を見せても駄目だと思うんです。アヤの規格外さを見せるしか彼を納得させることはできない。そう思うんです」
「・・・確かに、そうかもしれない。おーい、みんな聞いてくれ。これからしばらくはアヤくんに魔物を倒してもらおうと思う。みんなは地図見ながら進むことだけ考えてくれ」
「お、久しぶりにアレが見れるのか。楽しみだな。今度こそ見切ってやる」
「あまり派手にやらないでよね」
アヤの本気を見たことのあるメンバーは一人ですべての魔物に対処することに否定することはない。しかし、コウイチは・・・
「ちょ、ちょっと待ってください。リーダー、いくらなんでも一人で全てってのは無理ですよ」
「まぁまぁ、君は彼女の実力を知らないからそんなことが言えるんだ」
納得はしてなさそうだったが最後はリーダーが押し切った。
間もなくアヤは魔物を発見する。そしてあっという間に倒してしまった。その光景を見ていたコウイチは呆気に取られる。
「いや、いやいや。今のは何かの見間違いだ・・・」
いや、ちゃんと見てただろ。
そんな彼をよそに出会った魔物達を淡々と倒していくアヤ。流石に3匹を倒した辺りから目の前の光景を認めだした。そして俺の方を何か怖いものを見るような目で見てきた。
「あれは化け物だ。俺が10年頑張ってもたどり着けない場所にいる。リーダーの言っていたことは本当だったのか?」
「そうだ、扱いきれないと判断したリーダーは仕方なく俺がアヤを監視する形でパーティーを組む方がお互いのためになると判断したんだ。とは言ってもあの動きを見ないと信じれないのは当然と言えば当然だ」
「すまない。俺が完全に悪かった。才能値に胡坐をかいて女を連れて自立したがる調子に乗った冒険者だと思っていたが全くの見当違いだった。そしてその様子だとお前はあの動きが少なからず見えているようだ。今の俺にはそれはできない。完全に俺の負けだ」
(勝ちとか負けとかじゃないんだけどな。だけど悪いやつじゃないってことも確認できたし、俺の代わりになるくらいの実力は今まで見せてもらったからわかっている。でも思ったよりひどい評価だなぁ)
「・・・俺はこのパーティーにまだ恩を返せないうちに抜けてしまうような薄情者だよ。理由はどうであれ良くないことをしたとは思ってる。君にはそんな俺の尻拭いをさせてしまう。俺は最初から負けているよ」
そしてコウイチとの誤解は解け、その後は順調に進んでいき、ついに山のふもとまでたどり着く。
誤解の溶けた今、アヤ一人で魔物を狩るようなことはしない。一人一人のレベルアップもパーティーを運営するうえで大事な要素だ。徐々に強くなっていく魔物達を相手に各々いい経験を積むことができていた。アヤを除いては。
薬草採取できる地点にたどり着くと二手に別れて捜索を開始した。採取できたできなかったに関わらず3時間後にこの場所に戻る。何かあった時は空に向かって合図を送る。出発前から言われていたことを再度聞かされる。こういった場所で別行動をするときは事前に決めごとをしていないとややこしいことになるからな。
薬草採取の効率的には別れたほうがいいが、それは同時に戦力が分散されるということでもある。今までは魔物達に後れを取ることはなかったが、それは7人いたからというのもある。しかし、いつも万全の状態で戦えるとは限らない。足りないものがある中でも冒険者はなんとかしていかなければいけないのだ。
(こういった一見無駄になるかもしれない想定の積み重ねがいつか役に立つかもしれない。冒険者とは最初は勢いで何とかなるかもしれないが続けるとなると知識と経験を積み上げていかないと待っているのは破滅の未来だけ・・・かもしれないな)
俺とアヤとコウイチが同じグループとなってリーダー達と別れて薬草採取を開始した。このメンバーになった理由は戦力的な問題と俺に経験を積ませるためだろう。
「今からリーダー達と合流するまでの間、俺が仮リーダーをする。それはいいな?」
特に反論はない。2人ともなんとなく意図を察している。
「じゃあリーダーと反対の方向、地図で言うとこの辺りだ。20分程険しい道を進むことになるから注意しながら進んでいこう」
俺は山のというより、崖ともいえる場所を指さす。このような場所でないと魔物達が食べてしまっているリスクが高いからだ。多少の危険を冒さないと目標としている量はこの短時間ではとても集めきれない。依頼書や本から集めた情報でそう判断した。
人一人がやっと通れるような場所を慎重に進み、なんとかたどり着く。崖を見上げると確かに依頼書に書いてあるものと同じ草が生えている。予想が当たってホッとするがここからが大変だ。崖に生えている薬草を傷つけないように採取しなければいけないからだ。
「流石によじ登って取りに行くのは危険すぎるな。地図である程度予想はできていたけどその想像を超えてきた・・・うーん、何かいい案があれば」
「上からロープでゆっくり降りていけばいけそうだけどロープが切れる可能性もあるしそもそもここから登るのは無理だ。そうなると時間が足りねぇ」
周囲を見渡してみるがまさに断崖絶壁としか言えない地形が続いている。このままここは諦めるしかないのか、そう思った矢先のことだった。
「私なら登れるかもしれない」
アヤのつぶやきに俺とコウイチは一斉に反応する。
「いや、ここを登る?流石にきつくないか?」
「ちょっと試してみたいの。流石に今のままじゃ登れないけどあの傾斜なら勢いをつければ・・・氷魔法であの崖に道を作って欲しいの。そうしたらここから勢いをつけて登り切ってみる」
なんとも突拍子な意見に気を取られる俺達。確かに、氷魔法である程度平らな道を作ることは可能である。だがその道を登るのはいくら何でも・・・
「まぁせっかくだからやってみるか。コウキ、俺は上の方をやるからここから真ん中あたりまでいい感じにしてくれ」
「本当にやるのか・・・この際だ、君の実力を余すことなく見させてもらおう」
そして崖に氷の道、それも登るための道を作るための作業に取り掛かる。中々崖の上の方まで上手く作るのには苦労し、途中作業を終えたコウイチにも手伝ってもらいながらなんとか制作を終える。作業開始から30分もかかってしまった。
「ここまでやったんだから決めてくれよ」
「2人はちょっと離れて頂戴、じゃあ行くわ」
俺達の作った道に向かってどんどん加速しながら進んでいき、ついに登り始めた。その勢いのままどんどん駆け上っていくアヤ、だが少しずつ減速していき、あと5メートルといったところで止まってしまい、今度は下り始める。
(まずい、このままじゃアヤが怪我してしまう)
そう心配したが上手く方向転換をして加速しながら駆け降りる。まったくいつも驚かされるな。
怪我がなかったことはよかったが、これで振出しに戻ってしまった。そう思っていたのだがあと少しでいけそうだったのも確かである。何とかできないだろうか。
「さっきと同じ位置までいけるっていうのならその地点に向けて君が止まった瞬間に氷魔法を撃ってさらに足場を作ってみる。それで駆け上がれるか?」
コウイチからの提案に驚く。こういった機転の効く奴でもあったんだな。
「悪くない、アヤもう一回できるか?さっきの挑戦で氷にダメージが結構入ったから次失敗したらまた1から作り直しになってしまうが」
「わかったわ。もう1回やってみる。今度はタイミングも大事になるわね・・・しかも今度は身体の向きも変えれないからリスクも高い。でもやるしかなさそうね」
後で考えればもっと現実的な策も思いついただろう。だがここにいるのは冒険者になったばかりと言ってもいいような奴しかいない。勢いで押し切ることもあっていいと思う。
2回目の挑戦、今度は失敗は許されない。準備が万全になったことを確認したアヤは先程と同じく道に向かって加速していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます