第8話 宴の裏で

村へと帰還した俺達は村人に歓迎された。今まで大蛇に怯える日々が続いていたが解放されたからだ。そして今日は宴じゃと村長が言ったため、村人は慌ただしく準備をしている。


「やれやれ、夜まで遠くには行けないな。とりあえず適当な魔物でも狩って村に肉を提供しようか」


「それがいいかも。村長さんに宴用の魔物の肉を狩って来るって伝えてくるから先に行ってて」


もちろん、肉の入手だけが目的ではない。アヤの実力を測るためでもある。大蛇との戦いは一撃で終わってしまったため、今度は色々な状況で戦わせてみる。


どんな状況でもアヤは次々に魔物を倒していく。その度に驚くメンバー、もういいだろとは内心思っていたがまぁ気持ちはわかる。


そして日も暮れてきたため、倒した魔物を村まで運ぶのだが、あまりに数が多かったため運ぶのには苦労した。このパーティーの数少ない欠点である収納魔法で使える容量が少ないことがここで響いてしまった。


そして山積みになった魔物を見た村人はとても喜んでいた。まぁこれだけの肉があればしばらくは食うのに困らないからな。それにしても少しはこの量が異常ってこと突っ込んでもいいんだけど。


そして宴は始まった。俺達に食べきれないほどの料理がふるまわれた。その原因は俺達が魔物を狩り過ぎたことにもあるのだが・・・


周りが騒いでいる中、俺はリーダーに呼ばれる。真剣な話をするときの顔だったのでなんだか嫌な予感がした。


「まだ確定ってわけじゃないけど俺個人としては彼女を連れて今までの様にってのは無理があると思う。彼女の力はもっと別の所で使った方が彼女自身のためになると思う。どうしてもと言われたら断るわけにもいかないんだけど最後には別れることになると思う」


昼間の様子からそのような答えを出すことは想像できた。だが実際に言われると来るものがあるな。


「・・・わかりました。みんなには街に戻ってから伝える感じですか?」


「そのつもりだ。君としても何かしらの答えを出してくれ。彼女には先に言っておいた方がいいかもね。君に任せるよ」


俺はこれ以上言い返すことができなく、ただ頷いた。


(どうするべきなのだろう、俺一人ではどうこう考えていても仕方ない。こういう時はさっさと相談するに限る)


俺は皆と楽しんでいるアヤの元へと向かう。


「話があるから少しいいか?」


「なんだ?告白でもするんか?」


周りは宴の雰囲気に呑まれているため、俺を茶化す。だがすまない、今の俺はそんなノリではいられないんだ。


「うーん、ちょっと違うかな。お楽しみのところ悪いけど少しだけ付き合ってくれ」


「何を急に改まって・・・まぁいいわ。ここでは話せないようなことなのね。みんなを心配させても行けないしさっさと済ませましょう」


そして村はずれの人気のない場所に2人で向かう。


「で、話ってのはなに?」


そして俺はリーダーに言われたことを話していった。


「はぁ、そういうことね。あなた一人じゃどうするべきかわからなくて相談に来たと・・・そうね、ここのパーティーに置いてもらえたらいいなとは思ってたけど難しいのね。確かに、今回のような魔物の討伐ばかりをするならこの力は必要ないわ。逆に私が出しゃばると他の人の経験の機会を失わせることにもなる。そういった諸々のリスクを考えるといつまでも居続けるってのは無理ね・・・」


「そうなんだ。だからこれからどうするか、今の話も踏まえたうえで君の意見が聞きたい」


「はぁ、貴方の意見はどうなのよ。私はこうしたいってのはあるけどそんな他人任せな人はいやよ」


中々痛いところを突かれる。確かに、俺の気持ちは・・・


「リーダーの言う通り、このまま居続けるのは難しい。だがここで君と別れてスキルを解除するのも惜しい。じゃあ答えは一つしかない。俺と一緒に旅に出よう。もちろん、君が良ければだが」


「こんな状況でそんな言い方するなんてプロポーズみたいね。まぁ人が来て誤解されないうちに私の意見も言いましょう」


「ここで貴方のスキルを解かれるのは嫌だけど、今まで組んできたメンバーと別れるのは貴方にとってはいいことなの?私の心配をして今の答えを出したのならもう一度考え直して。私といることがあなたにとっての最善かどうかはあなたが決めることよ」


確かに彼女の言うことは尤もである。でも俺はそんなにドライな奴じゃないんだ・・・


「確かに、ここで君を切り捨てれば今まで通りの生活に戻れるだろう。でも俺は今の世界は何かがおかしいとずっと思っていた。このまま戻ればその謎を一生解明できないまま終わってしまう、そんな気がするんだ。だからここでその機会を逃したくない」


「そう、なら後悔はしないでよね。明日のメンバーに話すタイミングが終わればもう戻れないわ。それでもいいのね」


正直どちらがいいのかは分からない。だが、少なくとも今の俺はこのままでは最後に後悔する。そう思っていた。


「そうだ・・・もちろん明日の話し合い次第でどうなるかは分からないからな。そろそろ戻らないとな、変な噂立てられても困るしな」


そして宴の場へと戻っていった。何人かにいじられたが適当にあしらった。そして皆に交じって終わりの近づいた宴を楽しんだ。


翌日、二日酔いのメンバーもいる中、馬車へ乗り、街へと戻る。行きと違い、見張りができない人がいるので俺は最後まで見張り役をする羽目になった。後で何かしらの見返りが欲しいって思ったけどこれでお別れなのかもしれないよなぁ。


そして街に無事に戻り、宿で一休みする・・・のがいつもの流れだが今回は違う。


「みんな、旅から戻ったばかりで疲れがあるかもしれないが少し集まってほしい。なんとなくわかっている人もしれないがアヤ君に関することだ」


「おいおい、あの動きを見ただろ?戦力としては問題ないんじゃないか?」


「もちろん、それに関しては十分すぎるくらいだ。だが、それが問題でもある」


そしてリーダーは自分では扱いきれない事、このパーティーの行動範囲からして彼女がいると依頼が簡単にこなせてしまい個々のレベルアップの妨害になる可能性があること、実力差があり過ぎる者達が集まるのは最初はよくても後々リスクとなることを述べた。


最初は疑っていたメンバーもリーダーの説明を聞くと考え込んでいる。思い当たる節はあるようだ。


「だが、これは俺の意見に過ぎない。皆の意見もだが当事者である2人の意見が一番大事だ。彼らがどうしたいのかそれを知らなければいけない」


皆の視線が俺とアヤに向かう。ついにこの時が来てしまった。俺は覚悟を決めて前へと進む。

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