第7話 お披露目

今日も目覚めがいい。ちゃんと布団で寝て疲れも十分に取れたからな。しかし、俺のすぐそばにいる少女はそうではないようだ。


「おい、起きろ。そろそろ準備しないと遅れるぞ」


「うぅ、あんまり眠れなかった。いびきとかかかれてたら一睡もできなかったかも・・・」


ご機嫌斜めと言ったところであるがすぐに準備を始め、10分程度で終わらせてしまった。切り替えが早いな。


「よし、じゃあみんなと合流するぞ。朝食はそれからな」


パーティーメンバーと合流した俺達は朝食を取りながら今日の方針についてざっくりと説明を受ける。今日中の討伐が目標という話になったので少し驚いた


「今日中って・・・あくまで目標だけどもうある程度の目星でもついているのか?」


「君達が起きてくる前に少し聞き込みをしてね、そこで有力な情報を手に入れたんだ。もう少し聞き込みはするけど新しい情報でもない限り方針は変わらないかな」


そして一時間程魔物に関する情報を集めるが目新しい情報はなかった。


「そろそろいいかな。じゃあ出発にしよう。いつも通りだけど前衛に彼女が加わっていることを忘れないように」


チラッとアヤの方を見て出発の合図をした。


大蛇の目撃情報が多い地点は村から3キロくらいの場所だ。あまり人が多く立ち寄ることはないが放っておくのは危険だ。魔物が大きくなるにつれ縄張りも大きくなる。村が縄張りの中に入ってしまえば村は壊滅的な被害を被るだろう。


途中までは普通の魔物を時々見かけたが村から1キロ程進んだあたりから魔物の気配がパタッと消えてしまった。どうやら縄張りに入ったようだ。


周囲を警戒しながらゆっくりと探索を続ける。しかし、姿をすぐには現してくれない。向こうも警戒しているのだろうか。


このまま気を張り続けるのは良くないと判断したのだろう。見張りと休憩に別れてしばらくこの場に留まることにした。


しばらくすると見張りの一人が何か見つけたようだ。全員に構えるように指示する。


「そのまま構えたままで移動だ。ここよりもう少しした場所のほうが開けてて戦いやすそうだ」


ここは森の中のため、剣を振るうには多少不便だ。魔法を使うにしても火を使うと火事になる可能性もある。だからその森の生態系を守りながら戦うときはなるべく広い場所で戦うに限る。


微かな気配を感じつつ俺達は無事に広場と言えるほど場所で陣取る。ここまで襲ってこなかったのは幸運だ。最悪この場所へ誘導しながら戦う可能性もあった。


「中々姿を現さないな。俺達を警戒しているのか?」


「ありえなくはない。俺達は6人でまとまって行動しているから自分を狩りに来たと本能的に感じているのかもしれない。このまま待っていてもいいがこの緊張感をずっと続けるのも勘弁だな。こちらから仕掛けるか」


そう言って気配のする方を指さす。姿は見えないが確かに居ることはわかる。


「この方向になにか攻撃魔法をしてみようか。もちろん、火を使うのは禁止ね」


パーティーの魔法使いであるナオはすぐに魔法を発動させる。この人の魔法を発動させる早さは毎度驚かされる。


魔物のいる方向に向かって大地が盛り上がっていく。そして10秒も経たないうちに魔物の叫び声が聞こえてきた。突然の出来事に驚いたのだろう。そして叫び声が収まったかと思うとこちらへと同時に向かって来たようだ。


「上手くおびき寄せたようだな。じゃあある程度近づいたら一撃入れてやつを怯ませてくれ。後は俺達がなんとかする」


そして広場へと大蛇が現れる。先ほどの攻撃にかなり怒っているのか鬼気迫る様子だ。しかし、先程の一撃のせいか妙に警戒しているようにも見える。


「すぐに突っ込んでくるかと思ったけどまぁいいわ。じゃあ皆さん、今から行きます」


アヤはそう言うと、剣を構える。何やら集中しているのだろうか、そして彼女の様子が変わったと思った瞬間、大蛇めがけて目にも留まらぬ速さで距離を詰めて大蛇の胴体に一振り、そしてすぐに撤退。この間1秒といったところだ。


俺は2回見た光景だが、他のメンバーは想像以上だったのだろう。戦闘中にも拘わらず呆気に取られていた。


いや、もう戦闘は終わっていたのだが。


戻ってくるアヤを見たリーダーは戦闘状態を解かない様に言うが直後、大きな音を立てて倒れる魔物を見て唖然としていた。そして近づいて魔物の死亡を確認するとなおのこと驚いていた。


「なんだよ、これじゃ俺達が来た意味ねぇじゃねぇか。ま、楽だったと言えばそうだけど」


「すごい、アヤさん。あの魔物を一撃で倒すなんて。正直30分くらいはかかると思ってました」


アヤの予想外の活躍にメンバーからの質問攻めを受けている。こんなに褒められることはなかったのか嬉しそうだ。だがリーダーは何とも言えない表情をしていた。


「やっぱり危険すぎますか?」


「うーん、そうだな。あれを俺には制御できない。正直俺の目では捉えられなかった。君も初めての時はできなかったと言っていたが俺の場合は傍から見ていたから君とは少し状況が違う。もう何回か見ても変わらないようなら・・・少し考えさせてくれ。とりあえず他にも同型の魔物がいないかの調査を頼む。俺とナオでこの魔物の後始末をする」


そしてリーダーとナオを残し、俺達は周囲の調査を再開した。先の戦いでアヤ一人でも余裕なことはわかったがまだ予断を許さない状況ではあるからだ。


休憩をはさみながら3時間ほど調査を行ったが大蛇の気配は全くなかった。そしてリーダー達と合流するために大蛇を倒した場所まで向かっていた。


「結局あの一匹だけか、それにしてもあの一撃、何度思い出しても身震いするほどだ。一体どれだけの研鑽を積めばああなるんだ」


「その頃は努力してもしても置いてかれる恐怖とずっと戦ってたからあまり思い出したくはないわ。それに今コウキのスキルを解除されたらどこにでもいる剣士くらいになってしまうもの」


「そ、そうか。まぁでも極端すぎるんだよな。弱いのと強すぎるの、その間くらいってのがあればよかったのになぁ」


その考え方は一理ある。どこまで加減できるかは分からないが今の彼女は強すぎる。上手く力の調整ができなければ嫌でも目立つだろう。それならもう少し常識の範囲内での強さのほうがいいのかもしれない。


「ま、リーダーがどう思うかは知らねぇけどよ、ここでまた一人になるってのは嫌だろ」


「もちろんです。せっかくコウキさんに貰ったチャンス、ここで自ら手放すようなことはしません」


まぁ彼女がそう望む限り、最悪の結果になることはないだろう。そしてリーダー達と無事合流し、村へ討伐の証を持って無事帰還したのだった。

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