第6話 同行者

今回の依頼は村の近くの森に住み着いた大蛇を討伐してほしいという依頼だ。村にも冒険者はいるがまるで歯が立たなかったらしくこちらまで話が来たということだ。


本来ならば5人で向かうはずだったが今回はもう一人、普段は見ない顔が混じっている。


「さて、村に着くまでに今回の依頼内容の確認をしておこう。今初めて聞く人もいることだからね」


馬車に乗ったはいいが、村までは半日ほどかかる。本格的に魔物討伐を行うのは明日だ。


「今回の依頼は大蛇1匹ってことになっている。だけど油断してはいけない。もしかしたら複数いることだってあり得るからだ。専門の人が調査してない時はその情報が間違っている。その可能性は常に持っておくように」


「それで具体的な作戦なんだが・・・村の人に大きさやどんな技を使ってきたか聞くまでは決めにくい。だが村に着いてすぐに戦闘ということもある。その場合は俺とコウキが前線で大蛇の気を引く。その隙に君が一撃くらわしてみてくれ。その後は俺達の邪魔にならないところで見ていてくれ。後はなんとかする。もちろん、ピンチになりそうなら助けを呼ぶかもしれないが多分そうなることはないだろう」


「わかりました。できれば村の人に色々話を聞いて作戦を立てたいんですけどね」


「他に何かあるか?無ければあまりゆっくりはできないかもしれないが休んでいてくれ。見張りは交代でする」


馬車は結構揺れるため、寝るのは正直無理だ。でも休まないわけにはいかないため見張り以外は横になる。


(やっぱり何度乗っても慣れないなぁ)


揺れる馬車はゆっくり進んでいく。ゆっくり進むんだからもう少し揺れはどうにかして欲しいが道も整備されていないからどうやっても無理なのだ。


そして無事に村にたどり着く。辺りはもう暗くなりかかっている。予定より少し遅い到着だった。予定より1人多くの人を運んだせいだろうか?既に外を歩いている者はほとんどいなく、これでは聞き込みは明日だな。


宿は5人分で取っていたから追加で取ろうとしたが既に満室だった。


「困ったね、とりあえず6人分の料金払えば6人で泊まってもいいとは言われたんだけどねぇ、2人部屋2つと1人部屋1つで取ってたんだけどどうしようか」


「私のせいでみなさんに迷惑を掛けたんだから私は野宿でも・・・」


「いや、それは駄目だ。この辺りにいる魔物のことを考えると一人で行動するのはやめた方がいい。ということでだ、一人用の部屋に君とコウキで何とか泊まってくれ。君達のせいでこうなった責任は君達で取ってくれ。部屋は見させてもらったけど2人なら多少不便かもしれないが十分に休めるくらいの広さはある。じゃ、後は明日ってことで解散」


言い返す暇もなく決まってしまった。呆気に取られている俺とアヤをよそに他のメンバーは部屋へと入っていった。


「はぁ、まぁ仕方ないな。俺達も部屋へと行こう」


部屋の中を見た俺達は少しほっとした。ベッド以外のスペースもちゃんとあって十分横になれるからだ。ベッドで2人で寝ることもできるが流石にそれはやめておこう。


「思ったよりも広くて良かったわ。じゃあどちらがベッドで寝るか決めましょうか」


「話し合いってわけにもいかないし何か勝負でもするか。負けたほうが床で寝るってことで」


「面白いわね、じゃあこれなんてどうかしら?」


そう言ってトランプを取り出した。


「お互いに1から13までのカードを1枚ずつ持った状態でスタート。お互いに1枚ずつ出して数が大きい方が勝ち。これをお互いのカードがなくなるまで繰り返して最後に勝った回数が多い方がゲームの勝者とする」


なるほど、弱いカードを相手の強いカードにぶつけて逆に強いカードを弱いカードにぶつけない様にすればいいのか。


「わかった。それでいい。じゃあ早速始めようか」


13枚のカードをお互いに持ち、ゲームは開始された。


(まずは1枚目だが・・・どうする?まだお互いに何も情報がない状況、下手に大きな数を出して裏目を引くのは避けたい。だがそれを読んでくるかもしれない。うーん、考えても仕方ないな。ここは無難な数を選ぶか)


俺が最初に選んだ数は9、相手も無難な数を選んだときに大体勝てるからだ。


そして1回目のカード公開、俺の数は9、アヤの数は・・・10だった。


(やられた。俺が無難な択を選ぶってのが読まれたのか?初めてこのゲームをやる人の思考に乗せられたってことだろう。次からはそれを踏まえて数を選ばないと・・・)


「ふふん、これで私が一歩リードってところかしら」


「まだまだこれからだ。さ、次」


2回目、俺は4を選択する。まだ情報が欲しい、極端な数字はまだ出すべきではないと思ったからだ。


俺がカードを出したのを見ると彼女もカードを出す。そういえば1回目も俺の後に出していたな。


そして2回目も俺より1つだけ大きい数字を出される。流石に何かが怪しいと感じた。


(まさかイカサマでもしているのか?カードはアヤが用意したものだからありえるな。ちょっと試してみるか)


俺は気づかないふりをして次の勝負に出る。次に選ぶカードは12だ。だがこれと重ねて1のカードも出す。もしも俺の出すカードが分かっているなら俺から見れば1だが彼女から見れば12になっているはずだ。


そしてばれない様に重ねてカードを出す。そしてお互いに裏返す。


俺の予想通り彼女の出したカードは13だった。そして俺もカードを裏返す。


「ふふん、これで大体私の勝ち・・・と思ったけどこれはしてやられたわ」


なんとか取り繕うがこれで確定だ。動揺する隙をついてこっそりと12のカードを手元に戻した。


ここで問い詰めてもいいがどうしようか。まだ勝ち数では負けているからなんだかんだ言い訳されては面倒だ。どうせなら徹底的にやってしまおう。


「なぁ、カード同時に出すようにしないか?さっきの3回とも俺の後に出していたの別に結果が変わるわけじゃないけどなんだか不公平に感じるたからさ」


ぎくっ、としたのを俺は見逃さない。だが気づいてないふりをあくまで・・・まぁ向こうも今ので確信しただろうが。


「そ、そうね。次からはそうしましょう」


明らかに動揺している。多分こういう駆け引きは初心者で苦手なのだろう。だからこういう手を使ったのだろうが・・・


(もうちょっとわかりにくくすればこの勝負中くらいはごまかせたかもしれないのに・・・負けより1回勝ちが多ければいいだけなのになんでこうも勝ち数に拘るんかねぇ)


その後は俺の怒涛の反撃で最終的に引き分け2の6勝5敗となり俺の勝ちとなった。


「これに懲りたらイカサマはする相手を選ぶように。あと相手に不審に思われない程度にしないと他のやつにやってもすぐにばれるぞ」


「はい・・・すみません。この間読んだ本に載ってた方法試してみたんですけど相手の手札が分かるとなると調子に乗ってしまいました。最初から冷静さを失ってた私は最初から負けてました」


今の1勝負だけで彼女が大きなものを賭けているような場所でこのようなことをする勇気はなさそうということが分かる。そもそもそういう場にはいかなそうだけど。こういったお遊びのような勝負でちょっと自慢でもしたかったのだろうな。


「じゃあ俺の勝ちってことで、敗者は床で寝てくれ」


「今度は絶対負けないんだから・・・」


また何か企むつもりだろうか。まぁその時は迎え撃とう。再戦時の計画を練る彼女をよそに俺は眠りについた。

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