第5話 底知れぬ力
宿へと戻った俺に対し早速メンバーの一人が詰め寄ろうとするが俺の表情を見てすぐさまやめてくれた。
そして頃合いを見測り、宿に残っているメンバーを全員集めて今日あった出来事について説明した。
「なるほどね、昨日言ってた想定の中で一番悪いものを引いてしまったか。まぁ彼女が悪い人じゃなさそうってのは救いではあるけどね」
「コウキが出て行ってから軽く聞いたけど面倒事持ってきたな。まぁあの娘結構可愛かったから俺はパーティーに入れることには賛成だ。戦力的にも期待できるって話だからコウキ次第だけどな」
「彼女の実力を見てみるまでは私からは何とも言えませんね。コウキが言うには全く反応できないほどの速さだったとのことですが・・・」
「ま、リーダーが戻ってきて話して明日実際に会ってみるまで分からねぇな。とりあえずこれで終わり。コウキは今日中にリーダーに話しておけよ」
とりあえずメンバーに話せたことにほっとする。賛成か反対かは分からないが肩の荷が少し降りた気がした。
夕方、リーダーが戻ってきたので同じように今日の出来事を説明する。昨日の出来事も知らなかったのでかなり驚かれたが真剣に聞いてくれた。こういうところもちゃんとしているから頼もしいんだよな。
「とりあえず今何が起きているのかはわかった。皆も言っていたが明日実際に会って実力や態度を見てからだ。それ以上のことはここでは決めれない」
「やっぱりそうですよね・・・わかりました。俺も俺なりにどうしたいかについて考えます」
「そうしてくれ。メンバーの意見も大事だが君がどうしたいかが一番だ」
翌朝、早くに目が覚めた俺は軽く身体を動かすために外に出た。まだ誰も起きていないだろうと思ったが一人の少女が外で待っていた。
「そんなに早く来なくてもよかったのに。それとも待ち切れなかったのか?」
「別れた後に気付いたけど具体的な時間指定してなかったじゃない。だからこうして早く来るしかなかったの」
言われてみればそうだ。でもそれならその場で言って欲しかったな。まぁ別れた後に気付いたのかもしれないけれど。
「すまない。忘れてた。みんなが起きてくるまで時間があるから昨日の技もう少し見せてくれないか?」
「わかったわ。あれから使ってなかったからまだ私がどれほどかっていうのは私自身よくわかってないのよ。ここで大きな音を出しても迷惑だから魔物でも狩りに行く?」
「そうだな、それくらいの時間はあるだろう。書置きするからちょっと待ってて」
そして彼女と魔物を一狩りしてくることを書き残して着替えた。
「待たせたな。じゃあ行きましょう」
この街の周辺の魔物の強さは平均的と言ったところだ。数がそれなりなので魔物を狩るだけでも生計を立てることはできる。そのため、彼女の実力を見るには丁度良かった。
程なく魔物を発見する俺達。俺は彼女へ合図を送る。まずは一人で戦わせてみよう。数は多くないのでいざとなれば俺一人でもどうにでもできる。尤も、そんな心配はしていなかったが。
一呼吸置いたアヤは思い切りよく踏み込む。その瞬間彼女の姿が消えたように見える。これは昨日も見た光景だ。だが二度目なのでギリギリ捉えることはできた。
しかし、そこからが驚きだった。流れるような身のこなしで次々と魔物達を葬っていく。実に鮮やかな剣裁きだ。今の動きを見ただけで彼女が今まで相当の努力をしてきたことがわかった。
動きに見惚れてしまい、ぼーっとしている俺に気付づく。
「どう?すごかったでしょ?」
なんとも自慢げだ。まぁあのような動きができて嬉しく思わないような奴はほとんどいないだろう。
「昨日見せた動きですら全力じゃなかったのか?あれを超えてくるとは思わなかった。素直に感動してしまったよ」
手放しで褒める俺に照れてしまったのだろうか、少し顔を赤らめる。
「ま、当然よ。今まで頑張ってきた努力を考えればこれくらいできないとね。もちろん貴方のスキルあってなんだけど」
彼女の実力は大体わかった。次は連携・・・と言いたいところだがこの強さを前にこの辺りの魔物達相手では連携する意味がない。もっと強い魔物を相手にしないとだめだな。
「そうだな・・・俺の意見としては君の実力はこの辺りの魔物じゃ測れない。だから俺達のパーティーに同行して強い魔物を相手にしてもらうしかないかな・・・そろそろ戻ろう、これ以上ここで戦っても意味が無いからな」
「はーい、結局無駄足だったのね・・・なんだか申し訳ないわ」
(はぁ、段々体が慣れてきているからなのか昨日より滑らかに動けてた感じがする。もしかしてまだ100%の力を出し切れてないのか?末恐ろしい娘だよ)
宿の前にもうメンバー達が揃っていた。そんなに時間が経っているとは思えないけど・・・
「すみません。待たせてしまいましたか?」
「いやいや、まだ時間はあるよ。僕たちもそこの彼女のことが気になってね。いつもより早く起きてしまったんだ。では改めて、俺はジョン、このパーティーのリーダーだ。君のことはコウキから聞いてるよ」
「初めまして。私はアヤです。コウキさんから聞いているなら改めて言うことはないかもしれませんが今日はよろしくお願いします」
「そんなに硬くならないで、こっちが困っちゃう。さて、早速だが本題に移ろう。君はコウキのスキルでとてつもない強さを手に入れた。それは間違いないか?」
「はい、その通りです。先ほどもコウキさん立会いの元、魔物達を狩ってきましたから実力は彼に聞いてください」
「ふむ、コウキ、どれくらいだった?」
「昨日言った通りですが、今日見た光景としては8頭の魔物をものの10秒で片付けていました」
俺の報告にメンバー全員が驚く。想像以上だったようだ。
「な、なるほど。まぁ我々も直接見てみなければいけないな。では次の質問、君はこれからどうしたい?」
「そうですね、あなた方のパーティーに入れてもらうか、コウキと一緒にパーティーを組むか。少なくともコウキの目の届かないところで剣を振るうのは危険だと思ってます」
「君の方からそういう風に言ってくれてよかったよ。ここでの回答次第ではお別れだったからね。そうだな、一先ずこれくらいかな?他に聞きたいことある人いるか?」
幾つか質問はあったがどれもしょうもないものだった。
「じゃあ実際に君の動きを見せてもらおうか。遠くの村で魔物討伐の依頼を受けているんだ。君も同行してもらう。そしてここに戻ってきたときに今後について伝えよう。それでいいかな?」
「はい、短い間かもしれませんがよろしくお願いします」
「うん、じゃあ出発しようか。予定より一人多くなった分のお金はコウキが払ってね」
うぅ、まぁそうなるな。今回の旅費結構高いんだよな・・・
そしてアヤの実力と適正の試験を兼ねた魔物討伐の旅は始まったのだった。
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