第9話 決意と行動
「言いにくいことだが、このまま俺とアヤがこのパーティーに居続けることはお互いのためにならない。だから昨日アヤと話し合ってパーティーを抜けようと決めた。もちろん、これは俺だけの問題じゃないから皆の意見も聞きたい」
「コウキの言った通りです。細かい話はあるけど概ねその認識です」
リーダー以外のメンバーは少し驚いているようだった。まぁここ3日くらいの間に急に一人の少女が来たかと思えばメンバー1人を連れて行きますなんて冗談きつい話だ。
「じょ、冗談ってわけじゃなさそうだな。まぁ確かにリーダーの言い分もわかる。だけどそんな急に今まで一緒に戦ってきたパーティーを捨てれるのか?」
「もちろん、できればそれはしたくなかった。ここで学べることはまだまだあると思うしみんな優しい。俺にとってはこの上ない場所だよ」
「ならどうして?そこの嬢ちゃんには悪いがまた俺達と一緒にっていう選択肢もあったじゃないか」
「・・・俺はこの才能値というものに縛られた世界に疑問を持っていた。今ここで彼女と別れてしまえばその疑問が一生解明できないまま終わってしまうような気がするんだ。所謂ただの思い込みってやつかもしれない。だけどここで後悔はしたくない。それだけだ」
自信をもって言ったつもりではあったが最後の方は少し弱々しくなっていた。やっぱり心のどこかでこの選択に対する恐怖というものがあるのだろう。
「他に何か言いたい人は?」
沈黙の時が流れる。僅か10秒ほどだったがその時間は何時間にも感じた。
「何もないようだね。俺から一つ。君のことだ、こうすることはなんとなくわかっていた。今までの君は充実していたがどこか物足りない、何かを追っていたように感じる。そんな君に対して俺は何もできなかった。そんな君を引き留めるのはできない。新しい場所でも頑張ってくれ・・・と言いたいけど本当に君ら2人ですぐにやっていけるのかは不安だ。1か月程はお互いの準備のために引き続きここで頑張ってほしい。以上だ」
話し合いは終わり、ぞろぞろと宿に戻っていくが足取りは重い。だがここでゆっくりとしている時間はない。2人だけのパーティーでは負担が大きい。ましてアヤは戦闘以外がからっきしだ。戦闘面以外をサポートできるような人を探さなければいけない。
(今まで依頼主との交渉とか、戦闘の作戦とかも全部リーダーがやってたんだけどそれも俺がやらないといけないんだよな。まだ経験の浅い俺にできるだろうか?いや、やると決めたんだ。弱気になっちゃいけない)
それからの数日は依頼の合間を縫ってひたすら新しいパーティーに同行してくれる人を探した。しかし、中々思うような人は集まらない。それもそのはず、経験の浅い2人で構成されたパーティーについていくという人はそうそういないからだ。
「困ったねぇ、中々来てくれそうな人いないもんね」
アヤと俺は揃ってため息をつく、断られた人数はもう数えていない。声を掛けれる対象が減ってきているのもだが、1か月という期限が近づいてきているからだ。
「焦ってもしょうがない。諦めずに続けよう」
そして声をかけては断られる。そんな日々が続いていた。もうこの街では見つからないのでは?そう思い始めていたある日、ついに手応えを感じる人に出会う。
「・・・というわけで戦闘よりもサポートや戦闘外の交渉や斥候等を行える人を探しているんだ。戦闘ももちろんできるに越したことはないが」
「なるほど、そういうことね。それならば役に立てそうだわ。私、戦闘はあまり得意じゃないからどうしても敬遠されがちで困っていたの。斥候については・・・これから努力してみます。時間はかかるかもしれませんがモノにしてみせます」
「よし、じゃあ実際に3人で依頼を受けてみようか。リーダーには一言言っておくから適当な依頼を探してくれ」
2人に託し、俺はリーダーの元へと向かう。これは彼女を試すためでもある。
リーダーに話を付けた俺は2人の元へと戻る。依頼を受ける場所がすぐ近くにあったのでこれで必要な情報も含めて全てやってもらえなければこれからが不安になる。
しかし、彼女は問題なく、必要な情報を完璧に揃えていた。
「おぉ、予想以上だ。今までこういうことを専門にやってきたのか?と思うほどだ」
「そんな・・・そういえばまだお互いにちゃんとした自己紹介をしていませんでしたね。丁度いい機会ですしここでしちゃいましょう。私はミサキ、よろしくね」
「俺はコウキだ。そしてもう知ってると思うが彼女がアヤだ。戦闘の中心は彼女になる。俺は戦闘や支援など必要に応じて色々する。そしてリーダーでもあるから何かあった時は俺に言ってくれ・・・とは言ってもまだ3人のパーティーだからなあまり気張らずにやっていこう」
アヤとミサキは俺が離れている間に色々話していたようで大分仲良くなっていた。最初から仲が悪かったら先が思いやられるので良かった。
そして依頼をこなすために俺達は村へと向かう馬車へ乗りこむ。その村まではかなり遠く、片道で1日半もかかってしまうようだ。俺達は荷物の護衛も兼ねることで何とかその日のうちに乗せてもらうことに成功する。
「さて、一先ず乗ってしまえば少しはゆっくりできるわね・・・」
目的地までは遠いのでゆっくりと馬車は進んでいく。途中一泊するまでの間は俺が中心となって周囲を警戒する。その間2人は色々と楽しそうに話していた。一体何を話していたのだろう?
そんな疑問はその日の番、野営をするときになってようやくわかる。見張りがアヤと交代になり、ミサキとじっくり話す機会が訪れたからだ。
「アヤと随分楽しそうに話していたな。何を話していたんだ?」
「そうですね・・・全部は話せませんけど貴方に出会ってからのことや、生まれてから苦労した話とかがほとんどですよ。貴方のこと相当褒めてました。優しいんですね」
「優しい、か。あいつの目にはそう見えたのか。まぁおかしくはないか。安定していた状況を捨ててまでこうやって一緒にいることを選んだのだからな。でも俺のやりたいこと、それも聞いただろ?それについてはあいつと君はどう思うんだ?」
「アヤさんは貴方に恩返しをしたいからついていくという感じでしたね。私は・・・まだ答えを出せていません。才能値によって埋められない差があるのは事実ですけど私達が動いたところで世界が変わるかどうかも分からないしそれが原因で新たな争いが起きるかもしれない。だけどそんな考えを持つ人が実際に行動するってのはあまり見ないことだからちょっと興味は湧きました」
「そうか、ということは君は才能値ではそれほど困って無さそうだな」
「はい、118はあるので人並み以上にはあります。戦闘向きじゃない性格なことをよく惜しまれました」
才能があっても戦闘に向かない人というのもいる。彼女みたいな例がそうだ。まぁ才能があって傲慢な奴らの100倍マシだ。ああいう奴らは本当にどうしようもない。
「まぁそれについてはアヤが全部やってくれるよ。君には君のできることを伸ばしていけばいい」
「それ、一番気になっていたんですけど、戦闘ならアヤさんって一人でなんでもできるって程に買ってますけどほんとうなのでしょうか。正直実際に見てみないと不安で不安で・・・」
「あー、そうか。まだ見たことがないのか。俺も含めて2人でどれくらい戦えるのか、この依頼中にわかるだろう。だから心配しないでくれ」
そして次の日、村にたどり着く前に俺達の腕を見せる機会が訪れる。野党に囲まれたのだった。不安がる行商人とミサキ。まぁ無理もない、数は俺達の5倍だからだ。
「よーし、俺達の実力を見せるいい機会だ。さっさと片付けてしまおう」
「昨日の見張りからあんまり休めてなくて眠いわ、さっさと片付けるわ」
「なにをごちゃごちゃと・・・、圧倒的不利な状況でおかしくなってしまったか?今すぐ荷物を差し出すなら命までは取らねぇ、早くしろ」
「そんなことするわけないじゃない、うるさいからさっさとかかってきなさい」
今の一言で野党の頭は完全にキレたようだ。合図とともに一斉に襲い掛かり、戦闘が開始した。
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