第3話 救われた者?
「・・・高過ぎてなんと表現していいのか分からない。私の才能値は36しかなかったからそれを考えると倍以上ってことになるわ」
よく今までその才能値でやって来れたものだと俺は驚く。それほど低い才能値でやっていこうと思えば小さいころから相当な努力をしなければ特化してもついていくのでさえやっとだからだ。
「そうか・・・そんな苦労をしていたのか。俺の想像もできないような苦労をしてきたんだな」
いかに自分が恵まれた環境で恵まれた人達だけを相手にしてきたかということを理解し、なんだか申し訳なくなる。
「じゃあ早速スキルを私に使って貰えるかしら?」
「あ、あぁ。じゃあ早速スキルを使う。スキルを使うこと自体久しぶりだからちょっと手間取るかもしれない。そこに立っててくれ」
アヤを俺の指定した位置に立たせ、俺はスキルを発動する。
「スキル、才能固定発動」
アヤの周りに魔法陣が敷かれる。これでOKだ。
「よし、このまま少し待っていれば完了だ。あと10秒ってところだ」
そして10秒後、魔法陣は消え去る。同時に、アヤは倒れこむ。
「なんだか、ちょっと辛いわね。自分の身体が自分じゃないみたいに」
前に自分にスキルを発動させたときはそんなことはなかったため焦る。だが、彼女の違和感も少しすれば収まったので一先ず安心する。一体何が原因だったのだろう?
「よし、これで終わりだ。これからの君の努力は多少報われるだろう」
「ほ、ほんとにこれだけで終わり?なんだか拍子抜けするわねぇ。でも本当に感謝するわ。今日はもう遅いから明日本当に上手くいってるか確認するわ」
「そうだな、万が一上手くいってなかったらその時はもう一回やらなければいけないかもしれないからな。じゃあまた明日、俺は憩いの宿にいるからなんかあったら来てくれ」
そう言ってその日はアヤと別れた。色々とあったけど俺のスキルで1人の人間が救われたのでなんだか嬉しい気分になった。すべてを救うことはできないけど目の前で悲しんでいる人を放っておくことは俺には難しいことだからな。
宿に戻ると俺の帰りが遅かったことを心配してくれていたメンバーに問い詰められる。
俺は帰り道で起きたことを説明する。他人の迷惑になるようなことをしていたわけではなかったので特に怒られたりするようなことはなかった。
「にしてもお人好しだね。貴方の気持ち一つでそのアヤって少女の運命が大きく変わってしまう。下手をすればそれを理由に脅すことだってできるんだ。彼女にしてやったことの大きさをもう少し考えたほうがいいよ。今更スキルを解除するなんてできないからある意味一生彼女の面倒を見るようなもんだ」
大げさな・・・と思いたかったが、よく考えれば彼女の人生は今俺の掌の上にある状態なのかもしれないという事実が俺の胸に突き刺さる。
(あの場は流れでやってしまったが軽率だったのかな?でも見捨てることはできなかったし・・・明日会えたならその辺も話し合ってみないといけないな)
「そう・・・ですね。次彼女に会ったときにそのことも含めて話し合ってみます。俺の軽率な行動で厄介ごとに巻き込まれる可能性がでて申し訳ありません」
「まぁまぁ、頭をあげて。その少女は話しを聞く限りでは真直ぐな頑張り屋さんって感じだから君がしっかりしていれば多分大丈夫なはずだよ。急に力を得たことに驕るようなことでもない限りね」
「その心配はない・・・はずです。最悪俺やその周りに危害が加わる可能性があったらスキルを解除すればそれ以上の脅威になることはないはずです。その時は俺が責任を持ちます」
「そこまでの覚悟があるなら俺からは何も言うことはない。あとは2人で決めてくれ」
パーティーのメンバーに今回のことを話す機会があったのは幸運だった。あのまま寝てしまってアヤとの間でトラブルが起きてしまった時、俺はどうするべきなのか正しい判断ができなかったかもしれない。だがこうやって自分のすべきことをしっかりと示してくれたおかげで俺はもしそうなったとしても覚悟を持って行動ができる。
話終えた途端に急に眠気が襲って来る。緊張の糸が切れたのもあるがそもそも時間が遅すぎる。俺はそのままベッドへと倒れこみそのまま眠りへとついた。
次の日、パーティーメンバーに起こされる。今日は休みだってのに起こされるのは珍しいな。寝ぼけながら俺は質問を投げかける。
「どうしたんですか?緊急クエストでもでましたか?」
「いや、そういうわけじゃない。君にお客さんだ」
ぼーっとしている頭を何とか起こす。そして昨日のことを思い出し、慌てて身支度をする。
「そんなに急がなくてもいいって言われてるからもっと落ち着いて」
先輩に宥められて俺は落ち着きを取り戻す。ゆっくり準備を終えた俺は外で待つ彼女のところへと向かっていた。
(昨日かけたスキルが上手く発動してなかったのか?)
「やぁ、昨日はどうも。こんなにすぐ来るなんて何か問題でもあった?」
それに対してアヤは剣を構えた。おいおい、スキルが上手く発動しなかったからってそれはないだろ。
しかし、俺の予想とは異なる言葉が彼女から発せられる。
「とりあえずそこで見てて」
何を始める気なんだと思ったが、直後彼女の姿が消えた。そしてすぐ目の前まで迫られていた。
咄嗟に攻撃を受けようとしたが間に合わない。そう判断するには十分な速さだった。だが俺に向かって剣は振り下ろされることはなかった。
戸惑う俺が落ち着くまで待ってくれたアヤから衝撃の内容が語られる。
「今日試しに魔物を狩ってみたらこうなっていたの。貴方のスキルのせいでこうなったんでしょうけど何か思い当たることはない?」
さっきの素早さも理解できなかったがもっと理解できないことを言われて俺はめまいがしそうだった。
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