第2話 救われぬ者

近づいていくうちになんとなく状況が分かってきた。声から察するに男と女が何かで揉めているらしい。そして女性の方は悲痛な叫びといった感じだ。あまり放置していてはまずいと思い足早に声のする方へと向かった。



「だから、お前はもうクビだって言ってるだろ。このパーティーみんなで決めたんだ。お前が諦めてくればそれで終わりなんだよ」


「私に才能がないから?今まで追いついていけるように必死に努力したし雑用だってやってきた。私の今までの貢献はなかったことにするの?」


「お前には感謝しているよ。今までお世話になった、それは認める。だが、これからも俺達のパーティーに居続けていいかと言われればそれは別だ。雑用なら誰にでもできるし戦力的にはもうどうしようも無い程の差がついていることはお前もわかっているだろう?これ以上一緒に冒険をするのは無理なんだ。お前のやってる努力がもう限界ってこともわかってる。だから諦めてくれ・・・」


リーダーらしき人は苦しそうに突き放す。その言葉が決め手だったのか少女はこれ以上何も言い返すことはなくその場を去った。


「・・・つまらないものを見せてしまったな。まぁこうするしかなかったとだけ思ってくれ」


途中からいた俺に対し、こう言い残すと残りのメンバーと一緒に少女と反対方向に向かって進みだす。


こういうことは珍しくない。才能の無い者が努力で差を埋める。これは可能なことではある。但し、才能の差があまり大きくない時の話だ。ある程度離れてしまうと努力にかける時間はその分増えていき、他の活動にまで影響が出るレベルになる。そうなれば当然迷惑をかけることになるので差は埋められない。あとは悪循環が続くだけである。


(こう目の前で見せつけられるとな、やっぱりこの世界は何かが間違っていると思う)


ぽつんと一人になった夜道で考え込む。とはいえ、何かが思いついたわけでもない。とりあえずさっきの少女を追いかけることにした。


既に3分ほど経っていたから見つけれるか不安だったが思いのほか近くにいたので助かった。しかし、近づいた後何を話すか何も決めていなかったがここでじっとしていても余計に怪しいのでとりあえず流れに任せて話しかけた。


「・・・さっきのやり取り、偶然だったけど見させてもらった。俺はこの才能が全てっていう世界は何かがおかしいと思ってる。君の話を聞かせて欲しい」


何だ?新手のナンパか?それにしてはダサいな?そう思い恥ずかしくなったが向こうは余裕がなかったのか素直に頷いてくれた。


「あのパーティーには1年くらい前に入ったわ。その時も才能が無いから厳しいって言われた。その時は努力で何とかするからって必死にお願いして何とか入れて貰ったの。私は15になる何年も前からずっと特訓してきたから同年代の人達よりはずっと強かったけどそんな同年代にすらあと3年もすれば完全に抜かれるでしょうね。それ程までに私は才能がないの」


「でもあの人達は私をちゃんと見てくれた方よ。頼み込んだとはいえパーティーに1年も居させてくれたからね。まぁ結局一番頑張った剣術ですら差は詰まるどころか広がるばかりで迷惑かけることのほうが多かったんだけど・・・ぐすっ、私にもっと才能があればよかったなぁ」


そう言うと泣き出してしまった。やはり才能がないことを今まで我慢しながら頑張ってきたからだろう。そんな彼女を見ると心が痛む。俺の才能の少しでも彼女が持っていれば・・・。


そうは思うがこのような事は先程も話した通り、珍しいことではない。この世界は持つものに優しく、持たざる者には厳しい世界なのだ。でも・・・


「なるほど・・・今まで俺の想像もつかないくらい苦労をしてきたんだな。その悔しがり様を見ていればわかる」


「わかるって・・・本当にわかってるの?その身なりからして貴方は才能を持っている側なんでしょ。どうせ心のどこかで私をあざ笑ってるんでしょ?」


「そ、そんなことはない。でもこうやって話は聞くことはできても結局何もしてやれない。君を傷つけるだけだったかもしれない。そこまで考えが及ばなかった。申し訳ない」


「はぁ、なんだか気の抜ける男ね。なんだか今の状況が馬鹿らしく思えてきちゃったわ。私だけこんな風に話したのは不公平だから才能のある側の話を聞かせない。それでフェアってやつよ」


一応落ち着いてくれたから結果オーライ?まぁ確かにここで別れてしまっては彼女の話し損だから俺の話もするか。


そうして、俺の冒険者になってからの歩みを彼女へとする。順調そのものといえる内容に嫉妬されるかと思ったが彼女から見れば周りみんながそう見えているのか黙って聞いてくれた。


「はぁ、やっぱ住んでる世界が違うわねー。貴方の1時間は私にとって何時間なんだろう?今までは冒険者として頑張ろうって思ってたけど馬鹿らしくなってきちゃった。何か才能の無い私でもできること探そうかな。いや、今更そんなものを始めようにも才能が無いから難しいかな・・・」


才能が低いなりにこの世界で生きていく方法は一応存在する。それは努力の方向性を一点に集中させ、その分野で戦えるようにすることだ。


普通の人はすべてのリソースを1点にだけ集中させることはあまりせず、ある程度のことを一通りできるようにもするからだ。だから、一点だけ極めるというのは人の多い街などでは有効な手段となる。


しかし、彼女は今まで冒険者として、それも剣術だけにほぼ全てのリソースを割いてきた。他の冒険者は魔法も使えるようにしてたりする中彼女はひたすら剣を振るった。それでも追いつけなかったから別の道をとなるのは自然だが剣術以外はさっぱりの才能がない少女がここから他のことをするというのは正直厳しい。スキルや才能関係なくできる雑用が精々と言いたところだろう。


そんな彼女を不憫に思った俺は自分の持っているスキルのことを思い出す。


「ちょっと、いいかな?えーと名前は何だっけ?俺はコウキ。今更名乗るのも変だがな。そして君に1つ提案したいことがあるんだがいいかな?」


「一応話だけは聞くわ。ここで会ったのも何かの縁だろうからね。私の名前はアヤよ。早速あなたの提案ってのを教えて貰おうかしら」


「俺はスキル持ちなんだ。そしてそのスキルは才能固定、要するに指定した対象の才能値を固定値にしてしまうんだよな。君の才能値ってのは知らないがこのスキルを使えばこれからの君の努力が多少は報われるんじゃないかと思う」


急にそんなことを言っても信じてくれるだろうか。不安になったが、今の彼女は藁にもすがりたかったのだろう。そんな突拍子の無いことを言う俺のことを信じてくれた。


「そんなスキルがあったなんて・・・でもそのスキルでどのくらいの才能値になるのかしら。少なくとも貴方自身には使ってなさそうだからそんなには高くなさそうね」


「そうだな、ちょっと低いかもしれないが80だ。まぁギリギリ一般レベルってところだ。これならやっていけるだろ?」


才能値を聞いた彼女は何とも言えない表情をしている。まぁ80って微妙だよな。


「なんか微妙だったよな?期待させてすまん」


しかし、彼女の口からは俺の予想とは異なり全く別の言葉が返ってきたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る