第3話

母には死相が出なかった。多少具合が悪いのはいつも通り、トイレで気を失っても、必ず目覚めた。だから、何も心配は無かった。車椅子に座って髪をとかして、ベッドの上を綺麗にして、トイレの便座に移動したら、私はトイレからベッドまでの床のゴミを取った。汚れたオムツを捨てたら、母の背中をお湯で濡らして絞ったタオルで拭き、浣腸をやるかの最終確認。いつもなら、立ってやらないようにと注意書きのある浣腸をわざわざ立ってやることが母の慣習だったが、始めて便座に座った姿勢で浣腸をした。母は全身を前に二つ折りにして、浣腸を後ろから入れられるようにしたのだ。いつもならやらないこと。もしかしたらあの時にもう死んでいたのかも知れない。でも、全く死んだという感じは無かった。

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