第19話
「帰った。シーフィー、アトモスさんが呼んでる」
宿の女将マリエラさんとお菓子らしき甘いにおいの物体を作成していたシーフィーに声を掛けると、顔と手が粉まみれになったシーフィーがいた。マリエラさんはシーフィーに手伝いの礼を言って前掛けで顔を拭いてくれる。シーフィーはお礼と手伝えない謝罪をしてから手を洗ってから出てくると、「おかえり」とまだ粉の残る顔で笑う。こういうところは、とてもお利口さんな子だ。
何を作っていたのか聞きながら歩くと、夕飯用のキッシュのためのパイ生地作成の手伝いとみんなのおやつ用のお菓子を作っていたらしいと判明した。俺は、味見役として先に食べさせてもらえるらしく、お礼を言って頭を撫でる頃に、組合に到着した。
「連れてきました。アトモスさん?どこです?」
組合の扉を開いても受付に誰もおらず、俺とシーフィーは顔を見合わせて小首を傾げた。
「おぉ、わりぃ。待たせたな。飯食ってたんだ、こっちに来い」
奥の扉から大の大人がひょこッと顔だけ出して、手招きをする。まぁまぁ、微妙な可愛げの無さにこみ上げる笑いを何とか飲み込んで、奥の部屋にお邪魔した。
応接間になっていたらしい部屋に入ると、食事のいい匂いがしていた。来客用だろう机の上には沢山の食事が並べられていて、エリンさんが俺たちを早く座るようにと手招きしてくれる。2人で、席に着くと笑顔で目一杯の量を薦められた。
「わりぃな、待てずに先に食ってた。何はともあれ飯だ。しっかり食えよ、美味いからな」
アトモスさんは、ここぞとばかりに妻の料理自慢という惚気を炸裂させたいた。出てきた食事はどれもが文句無しに美味しく、和気あいあいとした時間が流れた。俺は、ふいにこんな食事はいつぶりだろうかと考えてしまった。恐らく、討伐後の打ち上げくらいしか大勢での食事はしていない。そして、家族との食事には一切覚えがない。それはそれでもの悲しい思い出だと、妙にしんみりとしてしまった。
パンパンになった腹を、シーフィーと2人揃って擦っているところに、アトモスさんが切り出した。
「さて、仕事の話をしようか。と、その前に…シーフィー、お前はこいつとこれからも一緒にいるつもりなのか?」
「うん。森の家は、そのまま置いておきたいけど、ボロだしね。そろそろ限界だと思ってたんだ。だけど、1人じゃあんまり遠くには行けないし迷ってたから、プルトさんに合えたのは、運命だったのかもね。プルトさんが許してくれるなら、一緒に行動したいと思ってるよ」
俺はシーフィーの言葉を聞いて安堵と共に、温度差があるような気がして不安になった。シーフィーはきっと、自分の成人までの精々10年未満で考えている。俺は、その時にこの子の手を離せるだろうか…この子に、何も押し付けたりはしたくない。俺のそばにいるも離れるも、この子に任せてあげたい。だが、俺の方が依存している気がしてならない。
「なら、大丈夫だな。こいつは出来ればお前さんと一緒が良いらしいからな。よろしくしてやってくれ。んでもって、それならそれで仕事は必要だ。シーフィー、冒険者証作るぞ。お前の分が無いと、こいつが困るからな」
俺の悩みやら何やらは、全部知らぬ存ぜぬとアトモスさんは話を進めていく。だが、どうやって作ると言うのか。組合でしか作れないはずだが…機能していないのでは?
「おぉおぉ、疑問符が頭に回ってやがるって顔だなぁ。どうやってかって?そりゃ、俺が作るのさ。俺が組合長で組合員で組合そのものだから、出来るんだぜ?すげぇだろ?なんでかって?そりゃ俺が国王の親友だっていう、ズルだな」
アトモスさんは、事も無げに言い切って笑った。
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