第17話
俺は、炉に張り付いて武器屋の工房に籠っているアトモスさんの代わりに出来る仕事をエリンさんに聞いて、農夫と狩人に運搬係・屋根や建物の補修と多岐にわたる仕事に追い回された。
その間シーフィーは、エリンさんと宿屋の女将のマリエラさんに料理を教わったり、雑貨屋のグリッドさんに簡単な計算と文字を教わったりしながら過ごしていた。宿屋のご主人のカリッダさんは、賑やかで嬉しいと夕飯に魔蒼鹿の煮込みを大盛にしてくれて、俺の腹は久々に満腹状態になっていた。カリッダさん曰く、この街には8人しか住人がおらず、会っていない人では病気などで寝込んでいる人が2人と薬師が1人いるらしい。薬師は、街でも滅多に見かけることは無く、雑貨屋のグリッドさんにしか心を許していないらしい。「老人は、何かと頑固でいかんな」と笑って、すっかり髪の無くなった頭を掻いていた。
他の人たちは、とうの昔に街を出て行って、今いるのは街を出ることを拒んだ老人だけだそうだ。何故出て行かなかったのかと、俺はうっかり不躾なことを聞いてしまった。
「ん~、まぁ、故郷だしな。それに、他の所では、俺たちはよそ者のお荷物老人だろ?そんな扱いされたくねぇし、お前さんたちの飯も作らねぇとな」
カリッダさんは、そう言って笑って俺の杯に自家製の葡萄酒を注いでくれた。俺は礼を言って飲み干すと、食事と風呂を済ませて舟をこぎ出したシーフィーを連れて部屋に戻った。
優しい人たちだ、だからシーフィーも生きてこれた。きっと誰もが、色々なことを経験してきたのだろう。酸いも甘いも乗り越えてゆっくり生きる、そんな生き方もかっこいいなと思えた。俺は、今までの死ぬための生き方を、少し恥ずかしく思った。明日は、アトモスさんの武器屋に行く日だから早く起きようと決めて眠りについた。
「お邪魔します。」
そう言って扉を開けると、アトモスさんは受付の机に突っ伏していた。
「よう。来たな。出来たぜ、たった今な。こっちに来て見てみろ」
机に顎を乗せて、一気に老けた顔をして、片手を上げて後ろの工房を指し示した。
工房に入ると、剣立てに一振りの剣が黒い鞘に収まっている。
重厚感のある黒檀の鞘に銀で蔦模様が細工されていて鞘だけでも目を引く。柄もしっかりと長さがあり、鍔は大きめに作られて、全体の対比と攻撃を受け止める実用性も兼ねているように見える。柄頭は大きく丸い形をしており、重さがある様に思う。重心の平衡を考えてこの大きさなのかと思うと、剣自体の重さも中々な様だ。俺は厳かな気持ちで歩みを進めて、立て置かれた剣をそっと手にした。
「重い」
第一声は、それだった。ずっしりとした重みが、怠け切った俺の腕の筋肉に挑んでくる。鞘を含んでいるとしても、俺が鬼だとしても、重量級の剣だろう。
スッと滑り良く引き抜かれた剣先は、突きを繰り出せば相手の鎧すら突き抜けそうなほどに鋭い。俺の身長に合わせて作られていて丁度良く扱いやすい長さだった。刀身の太さも厚みも申し分のない、両刃の長剣。流石、稀代の英雄。扱いやすさと、必要な重みなどの諸々をわかっている。剣先を上に向けて両手で柄を握ると、馴染みが良く長さや太さも俺の手に吸い付く様に握りやすい。巻きつけてあるのは、随分頑丈そうな革だが、何の革か分からなかった。剣先を下に向けて柄頭を見ると、ただの球体ではなく飾り模様の中に開く細工がしてあった。留め具を外して開けてみると、中に魔石をはめ込めるようになっている。本当に何から何まで、よくわかっている…敵わないな…そう思って、剣を鞘に納めた。
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