第14話

俺はフッと目を覚ました。胸が苦しい、重たくて、生温い…ん?生温い?

頭だけ起こして胸を見ると、うつ伏せの大の字で涎を垂らしているシーフィーがいた。夜食に持って来ていた皿を見ると空になっていて、果実水の入れ物も中身が減っている。夜中に起きて、食べて飲んで、何故俺の上で寝るんだ…

そっと頭を撫でて、頭を枕に戻した。なんて夢を見ていたんだ…俺は、どうしたいんだろう…この子と居れば、わかるだろうか?最後の言葉は、俺の願望か?

天井を見ながらため息をついて、シーフィーを俺の上からどかすことにした。

起きて顔を洗って服を着替えると、前払いしておいた金額の中に朝食が含まれていると知って、シーフィーは飛ぶように下に降りて行った。もちろん俺は、呆れ顔で後を追った。

しっかりと朝食を食べたシーフィーは、ご機嫌で女将に挨拶をして宿を後にした。

「シーフィー、美味そうに平らげてたな。大きくなれるな」

シーフィーの頭を撫でて、教えて貰っていた武器屋への道を歩くと何人かの住人と出くわす。皆、朝も夜も早い様だ。

「プルトさん、武器買うの?私、お皿見たいから、雑貨屋さんの方に行きたい。後で行こうね」

分かったと頷いて武器屋に入ると、アトモスさんが俺とシーフィーを出迎えてくれた。

「おぅ、おはよーさん。よく寝れたか?」

アトモスさんは、シーフィーの頭を撫でながら俺の方を見て何かを確認するように聞いてきた。

「夢見は、良くなかったですよ。シーフィーは涎を垂らして寝てましたけど…」

俺は、どう答えていいか分からずシーフィーを引き合いに出してしまって、凄い目で睨まれた。

「ところで、何故あなたがここに?」

俺は苦笑の末に、シーフィーの恨みがましい顔を無視して、アトモスさんに話しかけた。

「ん?そんなん、俺の店だからに決まってんだろが」

ん?言葉がうまく頭に残らなかった…なんですと?俺の店?

「アトモスさん、解体はどうしたんでございましょう?昨日は解体をしてらっしゃいましたが?」

訳が分からなさ過ぎて、俺の言葉が変な感じに丁寧だ。

「あん?ありゃ、趣味だな。組合も機能してないようなもんだし。買取も俺の善意ってやつだ。冒険者辞めてから本格的に鍛冶に目覚めてな、一応これが今の本職なんだわ」

確かに組合の機能は殆どなくなっているらしいが、趣味であの動きは無いだろう…だが、英雄に剣を打って貰えるなら、それはそれで嬉しいな。

「俺に剣を一振り、お願いできますか?」

「そのつもりじゃなきゃ、ここを教えねぇよ。打ち合わせだ、こっちに来い。あ、シーフィーは雑貨屋に行ってていいぞ?少しかかるからな」

シーフィーは少し考えてから頷いて、後でねと言い残して武器屋を出て行った。

「お願いします」

俺は妙に緊張して、ぎくしゃくとアトモスさんを追って中庭に辿り着いた。

「で、先ずはこれで素振りを100回だ。その後、俺と打ち合うぞ。いいから早く始めろ」

アトモスさんの言葉に頭に疑問符を浮かべた俺に、アトモスさんが問答無用で少し重ための長剣を投げてよこした。俺は、疑問に思いながらも言われた通りに素振りを始める。その間、アトモスさんは何も言わず、ただ俺を色々な角度から眺めていた。

訛った体で素振り100回は、少し筋肉に負荷を感じる。じんわりと汗が出てくるころに100を数えた。一息つき間もなく、アトモスさんの大剣が俺の手に握られた長剣を穿った。咄嗟に長剣で受け止めたが、角度が悪かった。俺の手首には、しっかりとしびれが走る。大剣が長剣を穿った瞬間に殺気を感じて、体は勝手に臨戦態勢を取っていた。

「本気で行くぞ」

アトモスさんの一言を皮切りに、打ち合いは始まった。

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