第13話
これは夢だな、多分。こんな非現実的な場所は、行ったことがないが…なんで、こんな何も無い白一色の場所にいるんだ?俺は、宿屋で寝たはずだ。いや、夢なのだから時間も空間も関係ないのか…夢なら、何かあってもいいと思うのだが…いや、思考するための夢なのか?訳が分からん!俺は、ここでどうしたらいい?
「混乱してますね?当たり前ですけど」
「そりゃ、混乱もするだろう!ここはどこで、何をしたらいい?なんでここに居る?答えをくれ」
俺は、混乱の最中に男とも女とも聞こえる霞の中からの声にイラついていた。
「別に何もしなくてもいいし、何かしたいことをしてもいいんですけどね。まぁ、導きが無いのは困りますよね。とりあえず、話し相手を連れてきましょうね」
霞の中の声は、それきり聞こえなくなった。しなくてもしてもいい、とは?俺は混乱が増して、地面に座り込んだ。本当にあるのかもよくわからない地面の上で胡坐をかく俺の前に、ポンっとシーフィーが現れる。
「プルトさん、私はさ、生きていたいんだよね。美味しいもの食べたいし、知らないこと知りたいし、見てないものが見たい。プルトさんは?」
突然、俺を見上げがちに翡翠色の瞳で見つめてくる。
「ごめんね。そばに居られなくて。寂しい思いをさせたわね。辛かったでしょう。こっちにいらっしゃい?これからは一緒に居ましょう?」
今度は突然、後ろから優しくて懐かしさを覚える声の女性に抱きしめられる。
「お前が生まれたから、カリナは死んだ!俺が求めなければ!お前が生まれなければ!」
遠くで母を亡くした悲しみで自死した父が、俺を責めて泣いている。
「ピィーーーーーーーー」
俺の頭上を、俺のせいで石を投げられて死んだ大切な友達だった小鳥が飛んでいる。
「お前が!カリナが!私の可愛い弟を殺した!私を殺した!お前など!お前など!」
父と離れた場所で、俺が花瓶で頭を殴って殺した叔母が、俺を罵っている。
「なぁ、お前のせいじゃないぜ?俺たちは、上手くやれてただろう?ちょっと失敗しただけだ。気にするなよ?お前のせいじゃないぜ?」
俺の斜め前に、初めて組んで俺を庇って死んだ先輩冒険者が慰めてくれていた。
何なんだ…どうして、こんなに悲しいのか嬉しいのか憤りか分からない気分にならなきゃいけないんだ。夢なら、もっと幸せなものを、聖白月下の花畑とか、美味かったキッシュとか、そういうのを出してくれよ!俺は…俺は、どうしたらいい?誰か教えてくれ。辛いんだ、寂しいんだ、悲しいんだ、死にたいんだ!
「本当に?死にたいの?それなら、おすすめは、樫の木の向こうの沢の近くの大木の枝だよ。ちゃんと、首が吊れる」
俺を見るシーフィーの声は悲し気で、瞳は大粒の涙を今にも零しそうに揺れていた。
「おいで、それが望みなら。受け止めてあげる、連れて行ってあげる。悲しくない所まで」
優しい声の顔の見えない女性は、両手を開いてシーフィーの隣に立っていた。
「楽になりたいのか!お前のせいでカリナは死んだのに!カリナはお前を生かしたのに!逃げ出すのか!」
父は、女性の隣で怒鳴っている。
「死んでしまえ!お前など!母の腹を食い破り、父の生き血と涙で喉を潤す怪物め!」
父の隣で、叔母がわめいている。
「ピッピピピ」
俺の肩に、小さな青い鳥が止まって頬ずりをしてくれる。
「良いのか?あの小さい子が、泣いているぞ?ちゃんと見ろ。逃げるなよ?」
先輩冒険者は、反対側の肩を叩いて俺にシーフィーの方を向かせた。
シーフィーの姿に重なって、真っ白な服の女性が見える。その隣には同じような顔の女性がもう一人。それぞれが、右手と左手に真っ白な花を持っていた。
「行かないで。一人にしないで。そばにいて」
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