第7話
人に化ける能力が、シーフィーの養い親にしかない稀な能力で良かった。
しかし、本当に数奇な運命の人…いや、緋猿侯だったようだ。
俺が、なんだかんだと考え込んでいるうちに、シーフィーは俺の足の上で眠ってしまった。カクンと首を曲げて苦しそうなシーフィーを、横抱きにして俺の腿を枕に寝かせなおしてやった。
寝顔は、端正な顔立ちのただの痩せた子供だが…この子は、色々と不思議でならない。もっと、この子のことが知りたいと思う。どうか、この子に俺の不幸が降りかからない様にと、一度も信仰したことのない存在もわからない神とやらに祈っておいた。
「ン…??」
「起きたか。よく寝ていたな、クカークカーと鼾までかいて…」
笑いを拭くんだ俺の声に、寝ぼけまなこのシーフィーがムッとした顔で答える。
「おはよう、プルトさん。女の子に、いびきの話なんてしたらダメなんだよ?」
俺の足を枕にして、何度も寝返りをしながら鼾をかいていた少女がよく言う…
「いつの間に寝ちゃったんだろう…プルトさんは寝れたの?寝れなかったんじゃないの?ごめんね?」
「大丈夫だ。ちゃんと体は休息を取れている」
拗ねた素振りをしながらも心配してくれるシーフィーの頭を撫でてから、脇に手を差し込んで俗にいう「高い高い」状態で目線を合わせた。
「シーフィー、狩りでもして体の調子を取り戻したいと思うんだが、ここら辺にいる魔物はどこが溜まり場になっているかわかるか?」
ぎょっとした表情で固まっていたシーフィーは、ふと力を抜いて呆れ声で答えてくれた。
「突然持ち上げたら驚くから、今度から禁止ね。魔物たちは、昨日の樫の木の向こうにある沢の近くでよく見かけるよ。水飲み場みたいなのがあるはずだって、婆ちゃんが言ってたし」
「わかった。少し出かけてくるが、多分野垂れ死んだりはしないと思う。出来れば成果を持って帰るが、何を狙ったらいいと思う?」
そっとシーフィーを地面に下ろして腰を上げると、屋根の低い部分に強かに頭をぶつけた。驚いて頭を擦ると、シーフィーがバカを見る目で俺を見ていた。
「散々昨日小さい家だってボヤいておいて、それを忘れてるとか…どうなの?鬼って頑丈なんでしょ?私のお家、壊さないでね?というか、やっぱり痛い?欲しいのは、鹿か魔羊。生きたままなら馬だね」
俺の心配もしてほしい気もするが、実際俺の皮膚は人間より頑丈だし、寒暖差や痛みにも鈍感だからぶつけても痛みよりも驚いただけだと言うのが正解だ。
俺は、痛くないと言い捨てるように外に出て、シーフィーに渡された布を持って顔を洗うことにした。
朝食は、水とはちみつ漬けの果物に黒パンで簡単に済ませた。俺は朝食を食べる習慣がなかったので、朝から甘いものを食べるのが少し辛い。出来れば果実水、なければ水を一杯で十分だ。
シーフィーがしっかりと食事しているのを見ながら、街に行くと言っていたのを思い出して予定を聞いた。
曰く、午後早めに出てクルミや薬草を採取しながら、泉周辺に群生している夜にしか咲かない花を目指して野営。翌朝、早めに出て昼過ぎに到着したら納品と買い物をして帰る予定だとの事。帰りは、朝早く出て、まっすぐ帰れば夜までには帰ってこれる様だ。
「そんな近くに組合があるような街なんぞ、あったか?」
この死の森周辺の地理には詳しくないが、その街の話を聞いたことがない気がする。
「西にね、古代の神殿迷宮の遺跡があるんだよ。その遺跡を守るように作られた街の名残の集落って感じかな。一応、組合はまだ健在なんだよ?めちゃくちゃ、さびれてるけど…遺跡の真後ろから、ぐるっと回って街に入るよ」
俺は、行けばわかるだろうと理解するための思考を投げ飛ばして狩りに出ることにした。昼には戻ると言ってシーフィーの家を離れると、一気に森に飲み込まれたような気になって、気を引き締めた。
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