第6話
「食べ過ぎたか…すまない」
ほぼ空になった鍋を見て、やらかしたと思った。シーフィーの分を考えずに、スープを腹に収めてしまった。
「いいよ。たくさん食べてくれるのを見てるのは、気持ちのいいものだしね。気にしない。その代わり、明日か明後日には街に行くの同行してもらうよ?荷物持ち」
笑って許してくれたシーフィーの依頼は、もちろん快諾した。一宿一飯の恩義は、返すのが冒険者の礼儀だ。
考えれば少女一人分の備蓄など、俺が食べてしまえば一瞬で消えてしまうのも当たり前だ。
明日は、もう少し動けるようになると有難いな。魔物でも狩って売れれば、恩返しにもなるだろう。
因みに、シーフィーは、片付けも速かった。水魔法と光魔法で食器と鍋を一瞬で洗って、風魔法で乾かして終わりだ。消費魔力の少ない生活魔法とは言え、こんなに流れる様に魔法を使う7歳児は見たことがない。
ここでの生活が、この子に魔法を使いこなすように強要したのだろうか…
流石に、俺が横になるほどの場所は無く、玄関にもたれる様にして寝ることにした。
何も言わずにゴソゴソと俺の胡坐の上によじ登ってくるシーフィーに、何とも言えない切なさを感じる。この子は、やはりどこかに寂しさを隠しているのだろうか。
いたずらを見つかった子供の様な表情のシーフィーの頭を撫でると、照れたように笑ってすっぽりと俺の胡坐に収まった。
「シーフィーの事を教えてくれないか。依頼人の人となりを確認しておくことは、冒険者にとって大事な事なんだ」
俺は、冒険者ということにこじつけて話を聞くことにした。
「いいけど…楽しい話じゃないし、暇つぶしにもならないよ?」
シーフィーは、俺の胡坐の上で俺を斜めに見上げて答えてから、正面を向き表情少なに話し出した。
「私は、お母さんらしき女性と一緒にここまで来たみたい。私を拾ってくれたのは、ここに死に場所を求めてきた婆ちゃんだった。お母さんらしき人は、私を見つけた時には、もう死んでたって」
何故ここに来たのかは、遺留品も無く、わからなかったと言われたらしい。そこからは、養い親となった老婆としばらく暮らしたらしく、色々なことを教わったようだ。
「魔法は、小さい頃から婆ちゃんが教えてくれた。小さい頃から訓練したら凄い魔法が使えるようになるって言ってた。食べるものの見分け方も、魔物除けの作り方も、服の繕い方も、街への道も、全部教えてくれたよ。この前の冬に、死んじゃったけどね」
死に場所を求めて森に入って、子供を拾う…数奇な運命の人もいたものだ。俺も人の事は言えないな。死に場所を求めて森に入って、子供に救われているのだから…
「婆ちゃんはさ、死んでから知ったんだけど、魔物だったんだよね。」
…は?俺は、理解できずに硬直した。
「いや、わかるよ。驚くよね。私も、驚いて腰抜かしたもん。年老いて白くなってたけど、元は綺麗な朱色の毛並みだったと思うよ。死んで魔法が解けたんだろうね。猿だった…まさかと思って、泣きながら胸を開いたら魔石があったよ…」
それで、シーフィーは、魔石を持っていたのか。一つ、疑問が解けた。だが、更なる疑問が浮上した。
「ずっと、人間の姿だったのか?そんなことは、聞いたことがない…」
何故、緋猿侯と思われる魔物にそんなことが出来たのか…この辺りにいる魔物ではないが緋色の猿の魔物など、俺の知識では緋猿侯しか知らない。確かに珍しく、解明されていないことも多い魔物だが、人間に化けて暮らすなんてことが出来るのか…?そんなことが全ての緋猿侯に出来るなら、一大事だ。
「私が見ていた婆ちゃんは、ずっと人間だったよ。婆ちゃんも魔力が多すぎて生まれてすぐに親に捨てられたんだって。でも、魔法とちょっと使える特殊能力があったから生きてこれたって言ってた。それがきっと、人に化ける能力だったんだろうね」
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