作戦失敗!

CHOPI

作戦失敗!

 「大好きだよー」

 「はいはい、ありがとう」

 「えー、つめたーい」

 「いつもだろ?」

 「……、そんなとこも好き、悔しい……」

 私が伝える『大好き』は、キミにどのくらいちゃんと伝えることが出来ているのだろう。常に言葉にしているはずなのに、私の中のキミへの気持ちはどんどん膨らんでいく一方で。この気持ちに、際限ってあるんだろうか、なんて思う。それでも急速に増えたりすると、抱えきれなくなる気持ちは、自然とこぼれ出して言葉に変わる。それはキミに何となくあしらわれて、無意味に消えていくような気がするんだけど。


 周りの友達からは『そんなに好きって言ってると、安心から浮気されちゃうよー』とか『いい加減にしないと、飽きられちゃうよー』とか言われるけど、あふれ出しちゃうんだからどうしようもなくて。キミの姿を見るだけで、キミの笑顔を見るだけで、キミの声を聞くだけで。もはや条件反射じゃないかって思うレベル。考えるよりも先に出る言葉。「好き」「大好き」。


 「たまにはさー、向こうから言われたくない?」

 何気なく友達から言われた言葉。んー、なるほど。確かに言われてみたい気もする。……っていうか、あれ?もしかして私、今まで……。

 「……そう言えば。今まで『好き』言われたことない、かも」

 「え!?あんたあれだけ言ってるのに!?」

 「たぶん……ない」

 友達は『あちゃ~……』って言いながら額を抑えた。同時になにか変なスイッチが入ったようで。

 「……ちょっと、色々仕掛けてみますか!!」

 謎のやる気に満ち溢れていた。


 「どう?今日の格好、良い感じ?」

 「……別に、悪くないと思う」

 「そう?よかった!」

 友達が謎のやる気を出して計画してくれた、『好きって言わせてやる大作戦!』と言う名のデートプラン(迫力に負けて言えなかったけど、ネーミングセンス無さ過ぎると思った)。いつもとは違う雰囲気の服装でまずはジャブ、らしい。

 「この先の喫茶店のコーヒー、好きだったよね?」

 「まぁ、うん」

 「寄って買っていこう!」

 言葉の端々で、まずは私に対して、と言うよりも『好き』って言葉を引き出すところからよ!なんてアドバイスを受けた。だからまずはキミが好きな喫茶店を目的地にして、色々話しかけてみるんだけど……。

 「そう言えば、そこのサンドイッチも好きって言ってなかった?」

 「言ったっけ?美味しかったのは覚えてるけど」

 「それも買お!」

 ……全然上手くいかない、と言うか。考えて会話しなきゃいけなくて、結構大変。一個の事しかできないタイプの私は、もう会話を考えるだけで必死もいいところ。

 「そっちは?何にするの?」

 「私はミルクティーにするー」

 「だと思った」

 2人で歩く道は、もうそれだけで充分幸せで。でもいつもと違うのは、頭で考えすぎてどうしても楽しむ余裕がない。


 ようやく着いた喫茶店でコーヒーとミルクティー、それからサンドイッチを買って、喫茶店近くの公園のベンチに座る。喫茶店内でも良かったんだけど、何故かキミは『テイクアウトで』って言って、この公園に連れてこられた。まぁ、今回のデートプランは場所に拘るというより『好き』って言わせるためのプランだからそこは別にいいんだけど。


 横並びに座って次の会話を必死に探していると、キミの方から話しかけてきた。

 「……なんか今日変じゃない?」

 「え、そう?」

 「なんか言われた?友達とか」

 「え?いや、別に何も?」

 嘘も方便、とは言うけれど。私にはあまりにも向かない言葉。キミはため息をついて『相変わらず噓下手だな……』とぼやく。

 「で、何?何言われた?」

 追い詰められて隠せるほど器用じゃない。居心地の悪さから俯いた。視線の先はさっき頼んだミルクティー。氷が揺れるのを眺めながらぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。

 「『好き』って言われたことない、って話になって。

  そしたらあの子が色々アドバイスくれて」

 目の前から聞こえるため息の音。

 「そんなことだろうと思ったわ」

 「……怒った?」

 「別に」

  それから少しの沈黙。

 「……ねぇ、こっち見て」

 不意にキミが優しく言うから、視線をミルクティーからキミの顔へと移す。……良かった、とりあえず本当に怒った様子はないみたい。と思ったのも束の間だった。優しく頭を引き寄せられて、ふわり、私は飲んでいないはずのコーヒーの味が口に広がる。

 「!?」

 「……顔がうるさい」

 「あ、え、あ、だめ……」

 ぷしゅう、って音がした気がした。私いま、絶対顔真っ赤。思考停止。そんな私を見てキミはいたずらに笑う。

 「ごめんね、無言実行タイプで」

 「うぅ……ずるい……」

 「でも?」

 「好きだよ……」

 『やっと今日一発目の好きが聞けたわ』なんて、楽しそうに笑うキミ。やっぱりその笑顔も、その声も、全部、全部。

 キミの全部。

 「大好き!」


――――


(オレの事を『好き』って笑う)

(キミの笑顔が『好き』なんだ)

(なんて、言えない分の、想いを込めて)

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