騒ぐ小さな探偵たち
綺麗に整えられた部屋の中で、椅子に座っていた黒髪の少女は目を見開いてうろたえた。
そして、首から下げているペンダント型端末が宙に映し出している上下の画面のうち、上の映像を凝視し続ける。
(ん、ん!? 今のは一体? 先生のサプライズ……?)
黒髪少女は十代前半の姿をしていて、身長は百五十五センチメートルはあった。
眉まで前髪を垂らし、後ろ髪はうなじまで伸びている。
黒い瞳を目の中に宿し、目尻が少し垂れさがっていた。
赤いカジュアルな衣装を身に
黒髪少女は下画面をつついていき、授業でメモを残していた電子ノートを閉じていく。
それから、上画面を指で操作していくと、画面に三人の生徒が拡大されて表示されていった。
「ねぇ、さっきのアレなんだったの?」
赤髪の少女は肩をすくめながら硬い笑みを浮かべる。
『先生が操作を間違えたんじゃないかな?』
赤髪少女も十代前半の容姿をしていて、百五十五センチメートルくらいの身長。
前髪は目の上まで垂らし、後ろ髪を背中上部まで伸ばしている。
目は薄黄色をし、目尻はやや吊り上がっていて、中心に縦に細めの線が入っていた。
また、頭部と両側頭部の間から三角形の猫耳が一対生えている。
黒いラフな衣装を身に着けていて、首から星形のペンダント端末をぶら下げ、シャツの正面には猫の顔が描かれていた。
そして、腰の下あたりから四十センチメートルほどの尻尾が伸びている。
茶髪の少女は腕を組みながら顔をしかめた。
{きっとクラッキングを受けたんだよ!}
茶髪少女は十代前半の姿をし、百五十センチメートルほどの身長。
前髪を眉まで垂らし、後頭部に後ろ髪をまとめて作った大きな尻尾をぶら下げている。
茶色い瞳を目に宿し、目尻は少し垂れ下がっていた。
それから、控えめな衣装で全身を包み込んでいて、首から三角形のペンダント型端末を垂らしている。
青髪少女は真剣なまなざしを作りながら、人差し指を立てた。
【それを言うなら、ハッキングね】
青髪少女の姿も十代前半をしていて、身長は約百五十五センチメートル。
目の上まで前髪を伸ばし、両側頭部に後ろ髪をまとめた長めの尻尾をぶら下げている。
青い目をしていて、目尻は僅かに上がっていた。
そして、白いカジュアルな衣装で全身を着飾っていて、四角いペンダント型端末を首から下げている。
「ハッキング? クラッキング? うん?」
【ハッキングは悪意のないシステム改変など、クラッキングは悪意のあるプログラムへの侵入など、だよー】
『ミャッ!? シュリ、詳しいね』
シュリと呼ばれた青髪少女は少し口角を上げながらたじろぐ。
【え? みんなこれくらい習ったよね?】
{興味なかったから、そこまでは……}
「わたしも覚えてなかった……」
『ボクも忘れてた……』
「ンベルはそもそも授業を聞いてなさそう」
ンベルと呼ばれた赤髪少女は尻尾を下げ、目を見開きながら動揺する。
『えっ!?』
{確かに、なんとなく授業中に居眠りしてそう}
『そんなことないよ……』
【そっか、みんなあんまり興味ないんだね】
「あはは、ごめんね」
【でも、サオリの考えは一番可能性あるよね。今日は先生の誕生日だから、誰かが仕掛けたとすれば辻褄が合っちゃう】
サオリと呼ばれた茶髪少女は、小首をかしげた。
{え、ウチ?}
『サオリは勘が鋭いね』
{え、たまたまだよ。なんとなくハッ――クラッキングされたんじゃないかなぁって思っただけ}
「うんうん。サオリはさっき鋭い勘を発揮したよね。……でも、一番最初に疑問を抱いたのは少し怪しくない?」
{ん、ウチ!?}
『サオリ、クラ――ハッ――クラッキングの犯人なんじゃないの!? ホノカ、シュリ、一緒に問いただそう!』
ホノカと呼ばれた黒髪少女は首と一緒に両手を高速で横に振る。
「いやいや! たとえそうだったとしても、詰め寄ったら
【そうだよね。というか、サオリを犯人に仕立てようとしているンベルが実は犯人だったり? 一番可能性が低いと思わせておいて、実は?】
{だよねだよね! ウチもシュリと同感! ウチを
『ミャッ!? 違うよっ! ただ、ホノカの考えに納得できたから純粋にサオリが犯人なんじゃないかなーって思っただけで』
【うーん、焦って言い訳して、犯人の目星をそらそうとしているね?】
「待った待った! そもそも、可能性の話で、まずわたし達三人の中に犯人が居るという前提もおかしいからね」
{三人? ……ホノカが犯人じゃないって確定事項なの?}
「え!? いや、そういうつもりじゃなくて。ただの言い間違い。……わたし達四人」
『言い直すの怪しい! まさかっ!?』
【真面目そうに見えて、実は……?】
「違う違う違うっ! どうしてそうなるかなぁ。わたし、ハッ――クラッキングなんてやったことないよ」
{じゃあ、今回が初めてってこと?}
『あぁ! そういうことなの!?』
【ホノカ……諦めな】
「えぇー!? どうして急にわたしが犯人の流れに!?」
{別に怒らないから安心して。白状した方が楽になるよ?}
ホノカは眉尻を下げながら口をとがらせる。
「うーん。わたしじゃないよぉ」
『ホノカがやってないという証拠はあるかな?』
「えっ!? そんな難しいこと言われても……」
【それじゃあ、ホノカが犯人になってしまうけど】
「どうしてー!? クラッキングの事を知ってたサオリが一番怪しいでしょ!?」
『うーん……やっぱりホノカが犯人じゃない気がしてきた』
{うぇっ、ウチ!?}
【やっぱり、一番最初にクラッキングと判断できたサオリが……】
{ウチもなんとなくで答えただけだよー! それを言うなら、クラッキングとかハッキングとか色々知ってたシュリも怪しいでしょ!?}
シュリは自分の顔を指さしながら慌てた。
【え、私!?】
「そうだよね。やけに詳しいのは怪しい匂いがぷんぷんしてくる」
目を閉じながら数回程、鼻で息を吸う動作を繰り返すンベル。
『ボクのお鼻もシュリの犯人の匂いを嗅ぎ取ってるよ』
{あれ、ウチ以外が犯人だとすれば、一番怪しいのがシュリに……}
【無い無い! ちょっと詳しいだけで犯人確定とか無いって!】
「うーん……わたし一個気になることがあるんだけどいいかな?」
『今日の夕ご飯のメニューが何かとか?』
{いや、話題が飛びすぎでしょ}
「うん、夕ご飯が何かも気になるけど、今はそうじゃなくて。シュリ、なんで先生の誕生日知ってたの?」
『あれ? そういえば、なんでシュリは先生の誕生日知ってたの?』
{んん? シュリ、やけに詳しいけど、どうしたの?}
シュリは目を見開きながらこわばった笑みを浮かべた。
【えぇっ!? 先生の誕生日くらいみんな知ってるでしょ!?】
「わたしは知らないよ」
『ボクも聞いたことない』
{ウチも分かんない}
【えー!? 先生が自分から言ってたよ!? みんな忘れちゃったの!?】
「あれ、シュリ……?」
『あっ、シュリ?』
{ん、シュリ?}
【違うって、私じゃないって!】
{そういえば、シュリって先生と結構仲が良かったよね}
「えっ、なにそれ新情報!」
『詳しく教えて!』
【いや、みんなも先生のこと好きでしょ!?】
{あー、思い出した……。シュリ、前に先生と個別授業してる時に話が盛り上がって、先生の家族の事をいっぱい話してもらえたってウチに話してなかった?}
「えぇっ!? なにその犯人に繋がる重要な手掛かりは!?」
『怪しすぎる! さあシュリ、白状しなさい!』
【いや、みんなも先生から個別指導受けてる時、色々聞いたりしてるでしょ?】
「うーん、わたしはそんなに……」
『ボクも詳しくない』
{ウチはシュリ経由でちょこちょこ}
ホノカ、ンベル、サオリは苦笑いを浮かべる。
一方、シュリは顔を引きつらせ、乾いた笑い声を漏らしていく。
【さっきまでみんなサオリが犯人だって疑ってたじゃん】
「さっきまでは情報が不足していたからね」
『犯人の尻尾が出て来たんだよ』
{さあ、シュリ、どうなの?}
シュリはしばらく少し下を見つめながら沈黙を続ける。
そして、こわばった笑みを作りながら頭を撫でた。
【バレちゃったー】
「【バレちゃったー】じゃないよ」
『どうしてこんなことしたの?』
{シュリは他人を困らせる人じゃないでしょ?}
【いやぁ……純粋に先生のお誕生日をお祝いしたかっただけなんだよ。でも、普通にお祝いの言葉を
四人は硬い笑みを作りながらうろたえ、しばらく口を閉ざし続ける。
それから、ホノカは微笑みながら静寂を
「うーん……確かに過激な演出だったけど、シュリの話を聞くと悪意は一切感じられないんだよね」
『
{そもそも、授業が終わった後だったから別にたいした被害も出てないし、責める必要もなくない?}
「うん。……この件は純粋なお祝いなんだよね」
『悪い事なんて何もなかった!』
{むしろ、ウチらの代わりに先生を祝ってくれてありがとうって言った方がいい}
【みんな……】
ホノカは明るい笑顔を浮かべる。
ンベルも尻尾をくねらせながら微笑み、両手を上げた。
サオリは口角を上げながら親指を立てる。
シュリは眉尻を下げながらたじろぐ。
それから、
かげきでしょうげきてき !~よたみてい書 @kaitemitayo
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