第3話 同士
翌々日の放課後、私はどんよりとした空気を引きずっていた。大好きな
いつもなら水曜日なので動画に備えて急いで帰るのだが、なんとなく帰る気になれなくてグダグダと教室にいる。昨日は心配した
「やっぱり、あなたも『クリームたい焼き』が好きなのね」
声をかけられて顔をあげると、
「精進先輩?」
「良かった。私のことを知ってるのね」
精進先輩は「不審者だと思われたらどうしようかと思った」と言って、にっこり笑った。
「この後、何か予定ある?」
「いえ、特には……」
「クリームたい焼きのやけ食いをしてるの。あなたも参加しない?」
精進先輩は返事を待たずに私の手を取って歩き出す。
「えっ? え!?」
私は慌ててバッグを持って後に続いた。
「一緒に食べてくれる人を探してたのよ」
亜美に押されてバッグを飛ばした日、先輩は私のキーホルダーに気づいていたらしい。思い出して一年の教室を覗いたら、暗い顔をした私がいたので誘ってくれたようだ。
「私で良いんでしょうか?」
「もちろん。ちょっと教室から遠いけど、ごめんね」
そう言って精進先輩が向かったのは、普段あまり立ち入らない旧校舎だった。一階に調理室があるからか、甘い匂いが漂っている。先輩は迷いのない足取りで二階の端にある誰もいない教室に入った。
「もうすぐ追加分が焼けるはずだから、座って待ちましょう」
どうやら、すでにたい焼きをいくつか食べた後らしい。最初は友人たちが付き合っていたが、もう食べられないと言って帰ってしまったようだ。
このスリムな体型でいくつ食べたのだろう。精進先輩は私の視線を受けて、いたずらっぽく笑った。
……
「だいたい、『重大なお知らせ』って言って期待させておいて、結婚の報告なんて酷いわよね?」
「先輩の言うとおりだと思います」
たい焼きを待ちながら、精進先輩がさっそく愚痴をこぼす。先輩は動画の内容が信じられなくて三回も見てしまったと教えてくれた。私は一回目すら最後まで見れていないが、先輩の気持ちもよく分かる。
「いつもイチャイチャコントを
「翔真くんが好きな素振りは全くなかったわよね」
「ですよね!」
先輩が同士だと分かって、私も思いっきり愚痴を吐き出した。先輩も大きく頷いてくれている。
「でも……あのコントって良いですよね」
「分かる。二人を見る翔真くんのなんとも言えない表情が可愛いのよね」
「そうなんです」
愚痴ならいくらでも出てくるのに、翔真くんを嫌いにはなれそうにない。先輩と顔を見合わせて、ため息交じりに笑い合う。
先輩と語り合ったおかげで、暗い気持ちがいくらか薄らいでいた。
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