第2話 衝撃
週明けの月曜日、なぜか私は
「それって、お笑い芸人さんのグッズだったのね。
亜美が私のアクリルキーホルダーを見ながら、「あまり芸人には詳しくない」と言って自嘲気味に笑う。それなのに『クリームたい焼き』の動画を観てくれたらしい。
「
「亜美もそう思う?」
「うん、なんとなく」
コントの内容ではなく、三人の関係に注目するところが亜美らしい。ファンの中でも尚人と真由香の関係は何度も話題になっている。本人たちが頑なに恋愛にだけ触れないところが逆に怪しい。
「あっ、来たわ!」
亜美が小さく呟いて見つめた先には
「本当に先輩もファンなんだ……」
私はキーホルダーを隠すように付けているが、先輩は堂々と目立つところに付けている。それだけで何だか格好良い。ふわふわと綿菓子のように可愛らしい先輩が同じ人を好きだと思うと、好きでいて良いのだと勇気が湧いてくる。
「頑張れ!」
私が先輩に見惚れていると、亜美が突然背中を押した。私は慌てて柱に捕まったが、スクールバッグが手から離れて廊下を滑っていく。
呆然と見つめていると、私のバッグが狙い澄ましたかのように精進先輩の目の前で止まった。先輩は驚いて固まっている。
「すみません!!」
私は慌てて駆け寄ると、ガバリと頭を下げてバッグを回収した。
「私は大丈夫よ。気をつけてね」
先輩はすぐにふんわりと笑って許してくれる。イズミ中学のアイドルは、天使のように優しい。私はもう一度謝って逃げるようにその場を離れた。
「
亜美が後ろから追いかけてきて申し訳なそうに眉を下げる。亜美は私と精進先輩を引き合わせようとしたらしい。
「怒ってないけど、危ないから気をつけてね」
「うん、ごめんね」
亜美は良い子なのだが、後先を考えないところがある。反省しているようなので、今回は目をつぶることにした。
その日の夜、お風呂からあがると父に呼び止められた。
「通知が来ていたぞ」
よく分からないまま渡されたタブレットを見ると、【クリームたい焼きからの重大なお知らせ】という言葉が飛び込んてくる。
「え!? お父さん、ありがとう。借りてくね」
私は父の返事も待たずに、タブレットを持って自分の部屋に駆け戻った。『重大』と書いてあるし、何だかドキドキしてしまう。椅子に座る時間も惜しくて、部屋の入り口で再生ボタンを押した。
【皆さん、こんばんは! 『クリームたい焼き』です!!】
いつもと同じ
私の心臓が嫌な音をたてる。いつもは真由香を真ん中にして三人並んでいるのに二人しか映っていない。尚人のはしゃいだような声は入っているが、画面の中にその姿がないのだ。しかも、真由香が翔真くんにぴったりとくっついて座っている。
【なぜ、俺たち二人だけを映しているかと言うと……】
いつもなら一言も聞き逃さないのに、その後の言葉が入ってこない。聞こえているのに、頭が理解するのを拒否していた。
真由香が左手の薬指につけた指輪を視聴者に向けて見せている。二人の幸せを象徴するようにダイヤモンドがキラリと光った。
「尚人と付き合ってたんじゃなかったの……」
画面の中の翔真くんの笑顔が霞んでいく。タブレットに涙がポタリとこぼれ落ちて、袖で慌てて拭った。手が触れたのか動画が閉じてしまったが、もう一度再生する気にはなれなかった。
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