雨の音さえあれば

図書館で借りた本を繰っていると

読んでいたページに

うっすらと翳が落ちた

雨が降り始め

ベランダから射し込む光が

弱くなったせいもあるが

心が曇ったからでもあった


東京最後の野犬の話だった


埋め立て地の荒涼の中で

生き抜いてきた犬が

毒を喰らって死んだ話だった


こちら側の者として

弱々しく受入れるしかないのだろう

暗い野性の森から迷い込んできた

荒々しいものが棲む余地などないことを


こちら側は

文化的で清潔で闇を嫌う光の国なのだ



雨の音が激しくなってきた


重く湿った空を背後に残し

雨音のトンネルを抜けると

そこは暗い森の入口だった


硬直して横たわる犬がいて

細かい雨が降り注いでいた


毒を洗い流すかのように

しずかにやさしく

雨は降り続いた


https://kakuyomu.jp/users/rubylince/news/16818093086172849687

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