息止める幻

日差しが夏のように明るい午後

どこからか

縦笛の旋律が聞こえてきて

耳を澄ます

練習でもしているのだろうか

小さな指の動きを想像する


ときたま

車が通り過ぎる音がする程度なのに

静かではない昼下がり

自然の音を満載した風が吹き抜ける


インコの住処だったサンルームには

大きな木と小さな木の植木鉢がふたつ

その木の周りには雑草があふれんばかりだ


カタバミとオニノゲシとシンバラリア

水栽培で根が出た小さなドラセナの枝と

ヘタから育った人参の芽

すべての緑が生を謳歌している


ふと屋外のガジュマルの枝を眺める

あの高さの辺りでお昼寝していたな

インコの幻に一瞬息を止める


少しだけ呼吸を忘れたあと

息を吹き返して緑に慰められる

その頻度は段々間遠まどおになってきた

そうしてインコのいない世界になじんでゆく


悲しみは息を止めるものなのだ

だから苦しいのだろう


息を止めずに思い出すことができる日まで

ゆっくりと

少しずつ


https://kakuyomu.jp/users/rubylince/news/16817330656245321955

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