二人の実力と出られない部屋
「見っけたっ!」
クロエのその声に反応した多脚の蔦の魔物は、ビタンビタンとその触手みたいな蔦を揺らし、飛び跳ね滑るような勢いで床を駆け出し襲ってくる。
少し距離があるが、地面を滑走する魔物の蔦は、まるで蛇のように左右に蠢きながらこちらに迫ってくる。
「火の玉ボールのー乱れ打ちっ!」
パーティの先頭で仁王立ちしたロリなクロエが、両手を突き出してそう叫んだ。
今の彼女は、頭と手首と足首以外、全身植物柄タイツセクシー透け透けボディストッキングというか、オープンボディストッキング風というか、そんな黒色のバトルドレスの上に水色のぬののビキニにパレオ付きといった格好だ。
「火のタマタマになってるぞ」
「い、いーの! 麻理は細かいんだから! 京! 見てよ! これ作曲と同じようにすれば簡単だよっ! ファイヤーおたまじゃくしーっ! ヤーハハー!」
作曲と同じように、の意味は俺にはわからないが、確かに彼女の放つ火の魔法は、まるで楽譜を踊る音符のようにして、五線譜みたいに何本も襲いくる蔦に着弾し燃やし、黙らせている。
魔法にはイメージが大事だと言ったことを彼女はそうやって実現したようだ。
びゅんびゅんと射ち出される火の玉が魔物を次々と燃やしていく。
しかし、位階差のせいか、それらの傷はすぐに再生されてしまうが、邪魔な蔦の動きを止めるには充分だった。
「よし! 止まった! クロ、下がれ! また落っこちないようにな!」
「それは言わなくていーの! スィッチ!」
「応! 京介見ていてくれ! きぇぇええ!」
本来スィッチは後ろにいる麻里が言う役目だが、まあ余裕があるし構わない。
麻里の持つ剣にも火の付与魔法を施していた。それを自在に振り回す彼女により、最後は全て焼き切り払われ、魔物は消滅した。
彼女らが二人だけで蔦の魔物に挑むのはこれで三度目になる。
アタッカーの麻理と遊撃のクロエ。
一度二度と繰り返してコンビネーションを確認すると、元々の素養のせいか、すぐに魔法とバトルドレスを使いこなしていた。
「どうだった?」
「いや、まだだ。無駄撃ちが多いぞ」
「麻理もスィッチって言ってないじゃん」
「すまん、興奮して忘れていた」
連携の確認をすぐさま行う二人が何とも頼もしい。しかし、人族の傑出した才能とは本当に何だったのだろうか…話しながらとか召喚当時の俺より余裕過ぎるんだが。
そんな今の俺のポジションは前回の支援魔法使いからさらに格下げされ、完全にポーターとなっていた。
勇者からポーターか…それもアリだな。それに育成ゲームみたいで後ろから眺めるのは楽しいかもしれない。先頭以外のポジなどあまりなかったから新鮮だ。
「はい、京。スプレー缶」
「こっちもだ、京介」
「ああ、ありがとう」
どうやらまたスプレー缶をドロップしたようだ。何か貢がせている魔道具ゴロのようだが構わない。すぐにベコリベコリと魔力を吸い出しておく。
そして一旦足を止め、警戒はクロエに任せて麻理にもバトルドレスを施していく。
スプレー缶は先程の場所では思っていたより集まらず、量が足りなかったので、麻理には少しずつ足していった。彼女は足りているところを伸ばす方向にし、スピード重視の紋様を脚に施していた。
今の麻理は、腰から足までの植物柄レースの穴あき黒パンストに白銀の踊り子のビキニといった装いだ。
結局、麻里には温泉水を飲ませなかった。一人くらいそのままの状態の人がいないと、知り合いに会った時に困るかもと懸念したからだ。
裸の付き合いも痴態も経験したからか、彼女達はあまり自分達の格好に疑問を持っていなかった。
まあまあ痴女っぽいんだが。
ま、いっか。
まだ内太ももが残っているし、入れてしまおう。
「ほ、ほら京介、お姉ちゃんの体にいっぱい落書きしていいから…な?」
「……」
「ラクガキとか失礼過ぎだよね。というか同い年だからね」
「あ、いや、すまない。あまりにも似たシチュエーションを昔見たことがあって…やってみたくなったのだ」
「あー…、ボクわかっちゃった。シルフの好きなやつだ。セイレーンもだけど。あいつらはほんとにまったく」
「莉里衣が止めないからな」
「やっぱり百合の園は解体しよう。ボク、前から思ってたんだ」
「どうせまた莉里衣に丸め込まれるだけだろ」
「そうなんだよなぁ…はぁ…」
彼女達は女子校だったからか、同い年の男の子と交流したことが少なく、一応俺で良いなら何かお願い事をしてくれて構わないと言っていた。
すると、クロエは幼馴染として。麻理は弟として。そんな事を求められた。
出てからのことを言ったつもりだったが、そんなことを求められるとは思ってなかった。
娼館でのイメプならわかるんだが。
だが、ストレスで感情が破綻しても困るし、精神安定はダンジョンでは必須。そして何よりバトルドレスを安定して運用できるかかわからないからと拒否はしなかった。
巻き込んだことと、協力してもらう対価にしては安すぎるが、それで構わないそうだ。ちなみにデートは当然のオプションだと言う。覚えていれば全然構わない。むしろ楽しみだ。
しかし、俺の幼馴染達にその黒い爪の垢でも飲ませてやりたい。そうすれば対価貰いすぎ問題も解消し、良い塩梅になりそうなのだが。
それにしても…図案の意図など意味を体験せねば落書きにしか見えないし仕方ないか。施した紋様は文明未開のアレフガルドとはいえきちんとした意味も機能も持った柄なのだが。
まあ問題なく発揮してくれて良かった。
彼女達に施したバトルドレスはこのダンジョンから吸い取った魔力を収束し増幅させる。それに加え、速射性をアップさせた機能と簡単な初級攻撃魔法を爪と腕の紋様に搭載した。
とりあえず美脚をM字開脚したまま顔を赤らめじっとしてる麻理はずっと見ていたくなるくらい魅力的だがそのままでは可哀想だ。
はぁはぁ言ってるが、気のせいだろう。
黒く艶めかしい脚の間に頭から潜り込み、サーキットを変更しながら紋様を入れていく。女性特有のフェロモン漂う匂いもするが、気のせいだ。
「んんっ、んぁ、アんぅ!」
「色付け後に足したり変えたりはちょっと痛いかも知れない。我慢してくれ」
「い、痛いのは慣れてる。遠慮なく続けてくれ」
「…麻理ってちょっとマゾっぽいよね。修行狂いだし」
「……」
そうなると俺もそうなってしまうんだが。
まあいい。
「あぁ……どうして、こんなに…んはぁ…あぁ、きもち、いぃ……」
「なんか言ったか?」
「あ、いや何でも、な…んはぁ、ん、ん、お姉ちゃん、はぁ、はぁ、ん、頑張るから」
「…頼りにしてる」
ついでに水着の色も書き換えてしまおう。
しかし、麻理はこれで裸黒パンストに赤色ビキニというかなりマニアックな装いになってしまったが、本人は気に入ってそうなのでOKとしよう。
そうして俺達はダンジョンを走破していった。
◆
ダンジョンから流入する魔力を糧にする魔物達は、人型はともかく、基本的に配置されたエリアから離れることはない。
リポップはまたするだろうが、厚く配置された通りに進めばだいたいに先に進める。
そんな風に壁がぶち抜けないなら仕方ないと魔物を目印に進んでいた。その度に二人に戦わせて、俺は微弱な探知魔法を駆使し、脳内にマッピングしていた。
そして多くの魔物が殺到している部屋を見つけた。扉は閉まっているが、もしかしたら憩いランドに来ていた──巻き込まれた人達が籠城しているのかもしれない。
麻理とクロエには扉前の魔物の始末を任せ、トラップがあると不味いからと俺は一人その部屋に踏み入った。
そしてそこには見覚えのない10人ほどの女の子達が、少し小さめな蔦の魔物に張り付かれてぐじゃぐじゃになりながら横たわっていた。
全員奴隷みたいなぬのの貫頭衣姿だ。
ここまでの推測でしかないが、俺はある仮説を立てていた。魔物が魔力を有した俺に襲いかかるのはわかるのだが、なぜ魔力を持たない二人を襲うのか謎だった。魔物はその名の通り魔力を欲するのだ。
野生のように捕食するわけでも、ましてや種付けしてくるわけでもない。ただただ快楽によって失神させようとしてくるだけ。
この元世界の人間は魔力を持たない。だがおそらくこのダンジョン内部では違うルールがある。
つまりだ。外的な刺激を与え、夢の中に誘い、強烈な願いが溢れる瞬間を自ら作らせ、魔法の素というか、この元世界の魔力的なものを発生させ抽出し、それを捕食しているのではないだろうか。
最初にベッドで二度寝する時の違和感はこれだと思う。このダンジョンではおそらく寝てはいけないルールになっている。
いや、普通そうか。
ダンジョンで寝るのが当たり前だったからな…
しかし何だってそんなことを。
魔力の収集だとしても微量すぎて何の意味もないと思うのだが。
いや、もしかすると魔力を持つ人間でも作ろうとしてるのか? あるいは素質を探してる? いや、元世界の魔力は俺の知るものではない?
そんな力に絹ちゃんがもし目覚めていたら、俺はいったいどうなってしまうのか。
いや、精霊の思惑に乗ってはいけない。意味の無いことに意味があったり拘りがあったりする。あいつらの考えを理解しようとしても疲れるだけで無駄だ。
そんなことを考えながら殲滅していると、やはり扉が無くなっていた。
とりあえず一人一人に張り付いている魔物は全て殲滅したが、どうにも出口は現れない。ボスも出てこないし壁や床に手を滑らせてみても何もない。
何も無い。出られない部屋だ。
いったい何をすれば出られるのか。
「……ふむ…。いや、まさかな…」
とりあえず起こそうか。
まずは回復と洗浄のエリア浄化魔法と。
「
それから安否確認と情報収集だな。
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