精霊のダンジョン
| 藤堂 京介
夢の中で僕はなぜか聖剣と戯れていた。
次はアレを切れ、次はコレ。あと次コレも。なんてシュピリアータに言われるがままに斬っていた。
最初は扉だった。次からは革製の服だったり、鎧だったり、鎖だったり、足枷だったり、おおきな木だったり、小さなアクセだったり、ギロチンだったり、磔の十字架だったり、また扉だったり。棺桶だったり、ワラだったり、帽子だったり、馬車の荷台だったり。
まるでビックリ箱のように大量に飛び出して僕に向かって飛んできた。
夢の中の僕は位階120だった。久しぶりに身体の隅々まで魔力が行き渡っていた。
だんだんと夢中になって斬りまくった。
気分の乗ってきた僕はシュピリアータを次第に無視し、魔法を操り、身体を操り、聖剣を操り、シュピリアータが焦るまで、かつて身に付けた力を全力で解放した。
心の中はいつの間にか魔王へトドメを刺せなかった悔しさでいっぱいになっていた。
何処の国か都市かはわからないけど、めちゃくちゃにしてと頼まれたので、本当にめちゃくちゃにした。
人の居ない捨てられた灰色の都市だった。
建築様式はアレフガルドでは見たことがないものだった。が、どうも既視感はあった。
二つの塔が特徴的なお城が真ん中にあった。
そこに魔法をぶち込み、破壊した。
それからは無我夢中で破壊した。
おかげで夢の中とはいえ、満足した。だけど、見渡す限り、辺り一帯は焦土と化した。
真っ黒な焼け野原になってしまった。
まあ、勇者特有の最上位雷魔法を何百発もぶっ放したのだ。さもありなん。
しかし、なんだかヒエネオスの丘っぽい。
そして真っ黒な焦土の中からモコモコとボロボロのシュピリアータが出てきた。そしてなぜかメス顔でホクホクしていた。
顔なんて、身体なんて見たことないけど、何故かその女の子がシュピリアータだとわかった。
そして、次の扉をヨロヨロと出してきて…
「…っ、ぁ…ここは…石造り…の部屋…?」
とりあえず何処だここはと索敵の魔法を瞬間的に振る。しかし、返ってきた反応は薄かった。
石造りの部屋で、窓はなく、木の扉が一つ。今寝てるベッドが一つ。あと、魔力と魔力とは違う何かしらの力でこの空間が満たされていることはわかる。
ぼんやりとした意識に戸惑う。
まだ夢の中か。いや、違う。
位階が戻ってる。だるおもだ。
「ここは…現実だよな…?」
最後の記憶は憩いランドで白崎さんとご飯を食べて横になって膝枕で……そうだ。あれは盛られた。神経を乱された感覚があったから、かっちりと盛られたと思う。
しかし、盛ったとして白崎さんは何がしたかったんだろうか。瞳の色には慈愛しかなかったし。
慈愛で盛るかな…? 斬新だな…
もしかして期末テストの疲れが見えてたとか? 強制的に眠らせたい的な? 永遠ちゃんかな? いや、あれは物理だった。
「ま、いっか」
それよりこの状況だ。こんなこと出来るとすればシュピリアータくらいしか思いつかない。なら白崎さんは無事だろう。
いらないことさえ言わなければ。
あいつの区別、苛烈だからな…
しかし、それよりも、だ。
「ダンジョンか…? 何故に元世界に…」
雰囲気が、様式があの白いシュピリアータ城とは違う。単純に壁を形作る石の大きさが不揃い過ぎる。こんな雑なことはあいつは…するか。
やはりダンジョンな気がする。聖剣にそんな権能あったっけ? いや、ないない。
聞いてないだけで持ってたのか?
謎だな。謎。
謎は僕には到底無理だ。
僕は学んだんだ。
とりあえず邪悪な雰囲気は漂っていない。だけど捕食しようとする意思は……あるね、これ。アリ寄りのナシくらいか。
やっぱダンジョンじゃん。
嘘だろ…今、位階1だよ。
難易度によってはまあまあまずい。
そもそも位階1でクリア出来るダンジョンなどない。最低5はいる。
「ふんっ! ダメか…」
壁を殴ってみるが、なんとなく壊せない感触だ。やはり位階1なら無理か…まあ索敵が効かないんだ。殴っても仕方ないか。
上も下も…同じか。
ふむ。
弱くてコンティニュー状態…か。
まあまあまずいな。
しかもさっきまで位階120だったからか落差がキツい。めちゃくちゃ身体が重い。しかも魔力が足りない。魔法でぶち抜こうにもすぐにガス欠になりそうだ。
それにこの木の扉。そこはかとなく嫌な予感がする。多分これを開けるとスタートだろうな。シュピリアータダンジョンの。
だから多分観察もしている。呼びかけても答えないけど、いるにはいる。
しかし、そんなことより。
それよりだ。
「あと10分。あと10分だけプリーズ」
ぶっちゃけ身体がほんとだるい。だるおもだ。多分この空間か、僕一人にかわからないが、デバフも効いてると思う。
だけど、薬物の効果が主だ。薬物系はこれだから嫌なんだよ。ハヌマットの森でも翌日は白目だった。
咲守の姫もだったけど。
違う失神だったけど。
結局その日はずっと起きれなかった。
それからの旅では耐性がつくまで大変だった。だけど、この身体にそんなものはない。
だからもう少し寝させて欲しい。
10分後の未来に目を覚ましたことにしたい。いや、30分は欲しい。いや、ここは一時間だ。
これは嘘じゃないから。
だから、おやみー。
◆
「あの。勇者京介くん、壁殴って早速寝てます」
「ぐぬぬ。すっかり忘れてたの。図太いの。仕方ないの。仲間を足すの」
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