白日の至り姫
「麻理。そんな格好でどこへ行く」
明日の服装チェック中だったのに、兄に見つかってしまった。
「…夜には出掛けない。鏡を見るだけだ。明日出掛ける」
玄関にある大きな姿見で見ようと部屋を出たらこれだ。面倒な。
「にしてもお前…足を出し過ぎだ!」
「兄には関係ない」
兄、赤城剣一郎。剣の腕前は尊敬しているが、それ以外がきもい。
「おま、ふ、ふん。大方お友達に男っぽいなどと言われて慌ててそんな格好をごぉ! かはっ…ま、麻理…鳩尾は、いけない…」
いけないと言いつつ割と満更でもない顔がきもい。つい膝が出てしまったじゃないか。
普通にしていれば男前の良い兄なのだが。
「兄よ。これは仕合なのだ。いくら兄と言えど、それ以上はいけない。うっかり手が出てしまいそうだ」
「も、もう、出ている、だろ、うが…しかも足じゃないか!」
「手だって足だし、足だって足だ。大方私の美脚に見惚れた、という事にしておく。不愉快だが。いいか兄よ。女には戦わねばならぬ時があるのだ」
明日、莉里衣が藤堂くんと出掛けるようだ。だからクロエと後を尾ける。あいつは隠しているつもりだったのか知らないが、鼻歌を歌っていたことに自分で気づいてなさそうだった。わかりやす過ぎる。
「何を言って…お、おま、まさか…それ、男か! 男が出来たのか! お兄ちゃん許さないからな!」
「きも」
「ぐふッ! どこでそんな言葉を…! …ふ、ふん、なかなか良いな…そういうの。ちょっと憧れていた、可愛い妹の罵倒」
「死ね」
「おぐぅッ! いいぞ、いいぞ麻理! いや麻理たん!」
「きも、殺す」
「ぐっはぁぁぁぁ! はぁ、はぁ、はぁ…良い…あ、まだ話は終わってないぞ! だいたいそんな格好で男が簡単に落ちると思っているのが浅いんだ。男心はこの兄が手取り足取り教えて…ん? そうだ、やっと素直ぉあぎぃゃぁぁぁぁ膝あああ────」
やはり兄は気持ち悪い。
◆
「……夢…いや昨日のやつか…………はッ?! どこだ! ここは…何だ…?」
石造りの…倉庫? 部屋か? いや、ベッドで私は寝ていたのか…誰もいない……ん? ジャラ?
「なんだこの格好は!」
白ビキニの上下に貴金属の装飾品…これかジャラジャラした音は。これは…踊り子…か? というか…もしかして私は脱がされたのか?! 今日の下着は真っ赤だったんだぞ!
まさか…襲われて…?
頭が一発で起きたぞ、これは。
お股やお胸を触るが…何にもなってない…初めての時は…痛いと聞く。だから多分私の操は大丈夫だろう…いや、大丈夫か私…? 泣くぞ、私…? 新歓サークルで酔わされて暴漢を受けた田舎者女の子みたいな気分だ…
しかし、いったい誰がこんなところとこんな格好を用意して…
私の戦装束を! 許さん…!
「は! じゃない! 莉里衣! クロエ! と、藤堂くーん! …気配は…ないな…」
焦りは禁物だ。こんな時、まずは深呼吸だ。頭に酸素を送り、冷静に考えねば。
「す────は─────、よし」
窓は無く、扉のみ。とりあえず武器武器…あった。
あったけど…
「レイピア…違う、スモールソード…儀礼剣か…渋いな…脆くなければいいが…」
ヒュンヒュンと数度振ってみる。しなりは…ないか。少し不安だが、使えそうだ。
しかし、片手剣で、主に刺突か…使ったことはないが、あるだけマシか。使えるなら大丈夫だ…仕方ない。
「問題は…この格好か…」
南国のサンバみたいな格好だ。これは恥ずかしい…これは恥ずかしいぞ。
ちょっと待ってって…私のデルタゾーンは…大丈夫か…昨日お風呂できちんと…いや大丈夫とかじゃない! ほぁ! お尻! こんなに食い込むなんて! ほぼ丸出しじゃないか!
昔クロエにムカついてグイッとしたな…臀部を曝け出すとこんなに不安になるなんて…悪いことをした。
いや、忘れてるか。クロエだし。
そんな事より服は…くっ、無い、無いぞ! 私の勝負服をよくも! まだ藤堂くんに見せてないんだぞ! このビキニ上も凄い不安だ! こんなサイズのブラなんて着けたことがな、い…けど結構気分が…盛り上がるな…って違う違う! こんな細い紐なんて少し動いただけで外れそうなんだが! って誰がスカスカだ! でもこれいつもより女っぽいかもしれな……虚しい。
はー…
姿見ってないのかな…?
って違う違う!
でも…
「と、藤堂くんなら…見られても良いけど…いや恥ずかしいけど…いやむしろ見られたい…みたいな…なんて! なんて! なんて! なんて……」
…何をしてるんだ、私は。
早く莉里衣とクロエを見つけこの異常な状態から脱出しないといけないというのに…
でも普段の私ならこんな格好絶対出来ないから…不幸中の幸い、ということにしよう。というかそう思うしかない。
でもこんなに女を全面に出した格好なんて…端ないなんて思われないだろうか…
見た目はまるで痴女だ…というかお尻がスースーするし、何だか裸より恥ずかしい。
くっ…でも仕方ない!
「女は度胸! 行くぞ! …だが…」
他に男がいたら…迷わず斬る。
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