アイムアノットフェアリー

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「…白崎はまあまあ酷い」


「…ですね。何というか、キツネ?」



 一部始終を見届けた絹子と晴風。


 絹子は思った。この大掛かりな仕掛けは、多分、示威行為。情報を円卓に持ち帰る私への武威。そう考え、莉里衣の脅威度をSまであげることにする。


 あとは特殊な特技。それで決まる。


 絹子は自分のことをB++くらいに考えていた。ちなみに晴風はB−。舎弟だから仕方ない。


 自分には追跡能力しかなく、京介くんとちゃんと話せたのは、山神神社が初めてだ。


 なのにこの三人は初めてのデートなのにここまで京介くんと近づいた。京介くんを、円卓を優先し、自分を殺すことに慣れていた絹子には、絶対にない積極性だった。


 ましてや、薬を盛るなんて。


 そうだ。それは特技じゃない。


 絹子は心の奥底では狂愛モンスター愛香に憧れていた。確かに今まで酷い目に合わされてきた。小学校時代は特に酷かった。


 子供の悪戯とギリギリ言えるラインをいつも攻めてくる女の子。された方はたまったものじゃないが、一人一人の怒りのラインは大きく超させない。細やかな気配り。


 そして、なんだかんだで京介ラブなのだ。彼女が京介にしたのは、後でバレて怒られても良いからとお父さんの死のショックを催眠で小さくした事くらいだ。それに、きちんとみんなに泣きながら説明もしてくれた。


 それに比べて、このメスはどうだ。


 こんな女をS Sクラスだなんて認められない。絶対に引き剥がす! そう絹子は決意した。



 その絹子の決意にクロエが水を差してくる。だが様子がおかしい。



「リリィの悪口は許さな…いやでも確かにキツネっぽいよね。それにだいたい噛み癖もさあ、前からおかしいと思ってたんだ」


「クロ、おい」



「男の前だけ噛むなんてさ。普通さ、ある? さっき噛んでなかったじゃん。いまキツネって聞いて女狐っていうの? それが浮かんだよ。リリィは昔から狡猾でさ。派閥に入らない子を」


「ク、クロ、お、おい」



「何さ! 今長年の疑問がやっと解けようと…ウボッ! 何すんのさ! …ってなんだサンドウィッチか、あ! 美味しいじゃん。麻理も食べなよ」


「え、いや、私は、いい。嫌な予感がする」


「噛むもん。旦那様に触れてたら治ったんだもん。本当は怖かったもん。旦那様に恥を欠かせたくないもん。運命だもん」


「だ、だな! 莉里衣は噛まないな!」



 なんだかんだで、白日三人はこうやって上手く回っていた。


 サンドウィッチを美味しそうに頬張るクロエを見た晴風は途端にお腹が空いてきた。



「そういえばお腹空きましたね」


「空いた」



 そこにズイと出されたもう一つのバスケット。


「何も入ってないよ? ほら、私も食べるから。おひとつどうぞ」


「わーい! 美味しそう! けど白崎さんのと交換してください! …美味しい!」



「ふふふ……。中等部の子は可愛いね」


「馬鹿。はるはる、馬鹿」



 それくらい相手は読むだろうに。これだから魔女は。やれやれ。絹子は少し様子を伺ってからもう一つ考えた。


 これは使えるかもしれないと。



「ふふ、ほら何も入ってないから、ね?」


「確かにお腹空いた。…いただく」


「うむ。き、き、絹ちゃんが食べるなら…いただこう」



 猥談の時、麻理お姉ちゃんと呼ばれていた麻理は、絹ちゃんといつの間にか呼んでいた。今までお姉様呼ばわりばかりだったので、新鮮だったのだ。


 全員が食べた事を確認した莉里衣が言った。



「ね、美味しくって、美味しくって、とっても眠たくなるよね?」





 莉里衣は、全員が折り重なるように眠った事を確認すると、次のプランのために、再度百合を呼び出そうとスマホを構えた。


 そこに待ったをかけてきた女の子がいた。彼女にとってもこの状況は歓迎だった。



「私は眠らない。最近勘がいい。お前は、これとこれ、あとこれに仕込んでる」



 絹子は眠らなかった。そして綺麗な四角に切り揃えられていた残りのサンドウィッチを指差し、莉里衣に言った。


 莉里衣は本気で目を丸くして驚いた。そして願望を口にする。



「…すごい。勘ってレベルじゃない…欲しい」


「これが愛。彼を守る…欲しい?」



「ええ、あなたが気に入りました。欲しくなりました。円卓さんを離れませんか?」


「離間の計は私には効かない」



「魔女とも一緒に居てるよね?」


「……お前には関係がない」



「ふふ。ちなみに藤堂さんが起きる時間は知ってるの? 起きた時に私がイジメられたって泣いてたら?」



 これも莉里衣の癖だ。情報は何より大事なもの。だから仕方ないといくらでも話を膨らませてしまう。


 だがここに居るのは円卓の忍び、首藤絹子。狂愛に名付けられた名前は跡追い姫。


 ──いつも後手しか取れないからお似合いじゃないかな? 追いかけても無駄だけど───


 それも今や過去のこと。


 今の彼女は自然とマウントを先んじて取るスタイルだ。



「京介君に嘘は通じない。やめてって言っても無駄だった」


「…何の話? 女の涙は通じない、と。…ならあなたを口説けばいいのね」



「口説けるものなら口説いてみて。京介くんは口説いてくれた。彼に捧げた。素敵だった」


「…ぃぐぬ……んん。じゃあ、遠慮な───」



 絹子を本気で口説き落とすことに決めた莉里衣。


 しかしその時、大の字でグースカ寝ている京介の股間が白く光った! それと共に少しのハウリング音と怒鳴り声が何やら頭に直接響いてきた!



「あーうっさいのー!」



 光が収まると、身長わずが30センチほどの裸にパンツ一枚の女の子が股間からニョキニョキと生えてきた。もっとも、いつの間にか股間を覆っていた48の奥義書を待ち上げながらだったから、莉里衣も絹子も最初は盛大な勘違いしていたが。


 その女の子はペイっと奥義書を麻里に投げつける。その時、やっと莉里衣と絹子はその者の姿を捉えた。


 透き通る白金のような長いウェーブヘアーは赤や青といったメッシュがところどころ入っていて、緩くふわふわと宙に浮いていた。


 顔は白人でもアジア人でもないが、美少女顔だ。ただジトッとした赤い目と膨らませたピンクの頬のせいでよくはわからない。

 

 年齢と体型はおおよそ16〜18歳くらいのスラっとした八頭身。


 真っ白で透き通るかのような肌をした彼女は形が良くほど良い大きさの胸を潰すように腕を組みながら京介の股間を地団駄していた。


 八つ当たりだ。


 その度に少しだけ京介はビクンビクンしていた。


 それは精霊。


 精霊シュピリアータだった。



「な、な、な、何これ?! 妖精?! 動いてる! 喋ってる! 喋ってるよぉ!?」


「………はっ! 京介くん! 京介くん! 股間から生えてる! 何か映えてる! あれ? どっち? ううん、バエてるっ!」



 莉里衣と絹子は混乱した!


 それを見たシュピリアータが文句を言う。



「さっきから邪な波動がうっさいの! せっかく夢の中でイチャイチャしてたのに台無しなの! やっとパンツ一枚まできたのにぃ! 静かにするの! それに妖精なんかと一緒にしないでなの! だいたい…んー? ぬーん? んー? …お前どこかであったの…?」



 シュピリアータは莉里衣を見上げると顔を傾げて目を細めて言った。


 二人はまじまじと見つめ合う。



「私はあなたとは…初めてだけど…どなたですか……?」


「……何だ人族違いなの。びっくりしたの。でも妖精呼ばわりは精霊には禁句なの! 対価はもらうの!」



 そう言ってシュピリアータは垂直に浮かび、しゅぱっと莉里衣の心臓に飛び込んだ!



「え?! 何、何!? 入ってきた!? 気持ち悪い! いや、いや、と、藤、堂、さ……んふー。なかなか…居心地………悪いの…この身体変なの… あ、魔力ないからなの。んー、ぬーん。んーん? 何してるの、お前」



 莉里衣の意識を乗っ取り、身体を動かすシュピリアータ。両腕を水平に伸ばし、ウェーブのように揺らしながら使用感を確かめていた。


 それを見た絹子は勝負所だと刹那の瞬間に判断した!


 平伏しながら、莉里衣の薬物サンドウィッチが入ったバスケットを持ち上げ、シュピリアータに言う!



「精霊様。お初。絹子。よろしく。どうぞ」


「わーい美味しそうなの。味覚は久しぶりなの。よろしくなの。もぎゅもぎゅ、ああ、クスリはわたしには、もぎゅ、無意味なの。罰として、お前も京介の贄になってもらうの」



「…ぃよっし……! いやーやめてーそんなーらめー」


「そーやって恐るがいいの! 私と京介のお城に連れてくの! 恐怖に泣き喚くといいの!」



「…ぃよっし、よし……!」



 絹子の瞬間思いつき綱渡り大作戦は、精霊相手にノーミスでスポッと決まった! 小さくも力強いガッツポーズを思わずキメる!


 だがそれが疑われることになる!



「…なんか、お前…嬉しそうなの」


「ッ! いやーやめてーらめー」



「んー? なんか怪しいの。なら京介をお前が抱えるの。力を貸してあげるの。落としちゃダメなの。名前を言ったからなの。操るの簡単なの」



 大雑把な精霊で助かった。そう思った絹子だったが、身体強化の魔法がかかり、意識とは別に身体が動き、京介を持ち上げさせられた。


 絹子は顔を青ざめさせた!



「……これ、逆姫抱っこ──いやぁぁぁあやめてぇぇえらめぇえ───!」


「さあ、城へ、転移メタスタシー! なの!」



 絹子の夢は、こうして儚く散ったのだった。

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