接触・白日+円卓+魔女

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 莉里衣は京介を太ももに乗せると、軽く耳に息を吹きかけ、反応を確認した。


 今日莉里衣が用意した睡眠薬は入眠障害用で依存性と苦味はないものの即効性があるものだった。それをお弁当の中の様々な食材に散りばめていた。


 白崎莉里衣にとっては悟りの魔法では追えないくらい、当たり前の行動だった。


 そしてスマホに手を伸ばし、どこかへ連絡を入れる。



 「ふふ。良く眠っていますね。待っていてください。ちょーっとわからせるだけですから。まずは…クロちゃん、麻理ちゃん、いるんでしょう?」



 近くの木からは莉里衣のよく知るスイカップがチラチラしていて、よく知る美脚もチラチラしていた。隠れる気がないし、むしろ早く見つけろと言わんばかりで莉里衣はさっきから腹が立っていた。



「莉里衣。ぐ、偶然だな」


「やーリリィ。ここ懐かしいよねー?」



 出てきたのは莉里衣の幼馴染、赤城麻理と雨宮クロエだった。二人のスマホには、出てきなさい。そう一言だけ書かれていたため、すぐさま早足で莉里衣の元に出てきた。



「もー…何でわかったの? というか、何その格好」


「い、いつもと同じだが? あとたまたまだぞ!」


「そ、そーそー。可愛さが滲み出てるだけっていうか。今日は麻理と二人でたまたま来たのさ」



 赤城麻理、彼女は白のゆったりとしたTシャツに、デニムのショートパンツだった。丈はこれでもかと折っていて、黒の革ベルトを装備。赤城ファンクラブの会員がいれば、鼻血ものの格好だった。


 雨宮クロエ、彼女はぴったりとした黒の胸元オープンのハイネック半袖ニットで、薄い色のデニムストレッチジーンズだった。胸元のカッティング部分からは色白な肌が眩しく、ドキッとするような谷間メイクで、男性ならまず間違いなく目が吸い込まれてしまう。



「……二人とも、自分の武器を晒すなんて、今までなかったでしょ。麻理ちゃんは足を超見せつけたショーパンだし、クロちゃんは何その谷間…まあいいけど」



 クロエは普段なら絶対に隠す胸の谷間をこれでもかと見せつけていて、麻理は真っ白くスラッとした美脚をこれでもかと見せつけた格好だった。二人とも顔が赤い。



「それで、その合流しあだっ。何をする」


「馬鹿。さりげなくって言っただろ」


「はー…。もー今日のさくりゃ…デートが台無しじゃない。せっかく円卓さんがいらっしゃるのに」



 莉里衣にはマルチタスクをしてしまう癖があった。大事な人とのデートでもそれは変わらない。短時間で最大の効果を常に期待する莉里衣の信条だった。


 そして、今回のデートに欠かせないのが、円卓の乙女との接触だった。



「円卓? 何だそれは」


「藤堂さんの周りを囲む、丸い壁。各個撃破が基本だし、たまたまだけど釣れたのに…でも何であんなに大量に居たのかな…凄いプレッシャーを感じた…誰かがあの銅像前に誘導した?」



 実は今日、莉里衣は三時間近く前から天養の駅前にいた。クロエからクロエの幼馴染、和光エリカを通して仕入れた情報では、円卓の三人ほどしか銅像前に来ないはずだった。


 そこに京介と共に登場し、牽制という名の挨拶をする予定だった。


 だというのに、倍どころではない人数が集まり出し、急ぎ京介に連絡を入れ、時間をずらしてもらったのだ。それから何やら変質者が現れ、捕物があり、京介が来た。


 変質者が現れるまで、莉里衣はずっと見えないプレッシャーを感じていた。


 だが、そこに円卓のメンバーが居れば、すぐに答えてくれただろう。絶対やつだと。



「莉里衣、何の話をしている?」


「マリ、リリィの話は聞かなくて良いの。それよりそのシートに招待してくれないの?」


「…わかったよ。でもだいたい三、四時間くらいで起きるから、それまでに帰っ───」


「こんにちは」

「こんにちわー」



 その時、莉里衣達の前に、二人の小柄な女の子が現れた。



「…誰だい?」


「しもべ」

「しもべの舎弟です」



 首藤絹子と間宮晴風。京介・円卓・魔女、全てが認めるダブルストーカーだった。


 なお、自分で認めるのはやめた。ただの愛だから。愛のカタチだから。仕方ないから。二人の出した結論だった。



「…円卓じゃない? いや、円卓ね。なら座りませんか? 生憎わたしは動けませんが」



 莉里衣は少しだけ京介の頭に手を添えつつ、シートに促した。軽いジャブである。


 しかししもべと名乗る円卓メンバーと舎弟は意に介さない。



「座る。京介くんをどうしたの? 盛ったの?」


「ちょ、ちょっとちょっと、き…先輩、いきなり冤罪なんて…」


「違う。京介くんは初めて会う子にそんな醜態は晒さない」



 京介のことは誰よりも詳しいと自薦している絹子は、ゆったりとした緑色のトップスに完全に隠れた無い胸を張って自信満々に答える。



「…あなた、お名前は?」


「言わない。京介くんのステディ。メスは?」


「…白崎莉里衣です」


「舎弟」


「がってん。すぐ丸裸にしちゃ…ひ!」



 晴風がスマホに手をかけ覗き込もうとした瞬間、どこからともなく黒の鉄の棒が、目の前に伸びてきた。


 護身用の特殊警棒だった。


 ほぼ微動だにせずに繰り出された赤城麻理の神速の一手が、晴風に釘を刺す。



「それは良くないぞ」


「どこにそんなの持ってるんだよ。あ、なおすならここどーぞ」



 すぐに棒を短くした麻理はどこに直そうかとキョロキョロした。ポンコツたる所以だ。それを目ざとく見たクロエ。胸元が光る!



「でっかっ! き、先輩! デカいですよ!スイカ? まあ私は食べ頃メロンですが」



 相手を使いつつ、きっちり絹子に攻撃を入れる晴風!



「ふ。京介くんには胸の大きさなんて武器にならない。寧ろ脱ぐ前からわかっている分、マイナス。サプライズをあげれない」



 しかし、絹子には効かない! 最近は胸派ではないと勘繰っていた。最大の敵は東雲詩乃、やつだ!



「「んぐぅ…」」



 クロエと晴風に100のダメージ! 二人は今までの人生で男性の視線が自身の胸に集まることを知っていた。

 しかし、同時に、二人とも京介がそこに目を向けていないことに気づいていた!



「なんで初対面の二人で同じリアクションしてるの。なんで麻理ちゃんは露骨にホッとしてるの…首藤さんの今日のご予定は?」


「…京介くんが起きてから。あなたは?」



 莉里衣は会話から円卓の首藤絹子だと確信し、さらっと身バレを伝える! 絹子は一旦脅威度をA−からAに引き上げる!



「今日は藤堂さんと初デートです。部外者は帰っていただけますか?」


「京介くんとは幼馴染。部外者はあなた」


「ああ、幼馴染って負けヒロインでしたね」


「違う。どの作品を見ても大衆が認めた立派なメインヒロイン。ポッと出と違う。一緒に歩んだ歴史が違う」


「誰がポッと出ですかぁ! やんのかこらー!」



 絹子の攻撃! 晴風に100のダメージ! 幼馴染って本当に羨ましい! 晴風は裏切りを視野に入れた!



「うるさい、はるはる、うるさい」


「はるはる…ああ、あなた、魔女ですか。これはこれは…思い掛けずに…」



 絹子は幼馴染負けヒロイン説もきっちり押さえていた! だからこの話はあまり長引かせたくないと魔女を召喚し、莉里衣の意識を逸らした!


 酷い女である。



「ねえ、マリ、この子達は何を言ってるの? ボクにはさっぱり」


「…手合わせだ。見ているがいあたっ。何をする」



「何言ってんの。説明になってないよ」


「漫画をバカにして読まないからだ」



 完全に外野なクロエと麻理の二人はいつもの掛け合いをする。


 絹子は続けてカードを切る。今日の予定はお姫様抱っこだ!



「京介くんをどうするつもり?」


「そうですね。今日のプランではいろいろと足りませんね。ですが、お城に行くのは決まっています」


「な! 駄目です! お城は私達と行くんです!」


「当然」


 

 絹子と晴風の答えに、莉里衣は混乱した!



「…複数人で…入れるものなんですか?」


「当たり前。でも門を潜るのは一人ずつ」



「そういうものなんですか…勉強不足です」



 ここでお城違い! 莉里衣の計算が狂う!



「クロ。彼女達は何を言ってるんだ?」


「し。今良いところだから黙ってて。麻理にはちょっと早すぎあだぁ! 何すんのさ!」


「今私を馬鹿にしたな。私だって殿方の事は勉強したんだ。これを見るがいい!」



 麻理は秘蔵のアイテムを高々と頭上に掲げた! みんながそれに気を取られる!



「…麻理ちゃん…何の勉強をしているの」


「もちろん殿方に尽くすための奥義を勉強したのだ。お母様に相談したらくれたのだ。この四十八手──いたっ。何をする」


「はー。マリがポンコツなのは知ってるけどさ。男の子はそんなの出されたら引くからね。女子もだけど。でもちょっと貸して」


「私も。確認する」

「あ、見たいです。私も」


「いいだろう。見るがいい」


「もう。何なんですか…わわ! すごい…体勢…ですね…これ、ストレッチが要るよね…」



 京介はぐっすりと寝ていて、憩いランドの木漏れ日が頭上から綺羅綺羅と降り注ぎ、優しい風が頬を撫でていた。その鳩尾には、48ある奥義の書が開かれた。


 テーブルである。そしてその京介テーブルの脚はいつの間にかそれぞれ、右手クロエ、右脚麻理、左手絹子、左脚晴風、そして頭が莉里衣。


 表情はそれぞれ違うが、みんなにサワサワギュッギュッされていた。


 結局、一旦、話しを止め、頭を突き合わせての女同士の猥談がそれから始まった。



 初夏の憩いランド。その木陰には、ピヨピヨと鳥のヒナの声が可愛いらしく聞こえていた。

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