リ・ダブルストーカー

 天養駅、少し日陰のある通路で待ち合わせをしていた円卓の首藤絹子と魔女の森の間宮晴風。


 二人はある情報を確かめるためにここにいた。


 瞬間的にSNSに上がって、すぐに消えた情報。通称夜鳴き城。その内容は世間的にはホラーだったが、絹子と晴風、二人のディスカッションから導き出した答えはメルヘン一択。


 間違いなく魔法だ。


 そして女が絡んでいる。


 絹子は自信を持っていた。京介の学校からの帰宅時刻には絶対に行けない時間とお城騒ぎが被っている。あまり皆はファンタジーを読まない。そこに隙がある。こんなものはファンタジーなら当たり前だ。


 つまり。


 京介くんは城にいるわたしの元に時間を超えてやってくる。もしかしたら飛んでかも。


 そのシチュエーションを叶えるために、泊まり込みで張り込む準備をすぐさま整えた。


 絹子だけでは侵入できないかも知れないが、今は頼れる舎弟、家宅侵入に長けた魔女がいる。


 家宅侵入を繰り返すルーリーも考えたが、同じルートしか進めないニューゲーム勇者はいらないと切った。


 そして自分の直感を皆に言えば、間違いなく騒ぎになる。そう思って事実のみを伝えていた。


 あとはファンタジーに詳しくないエリカの出す当たり前の結論に皆は納得するだろう。ふふ。完璧だ。

 それに、もしかしたら隠したい魔法かも知れない。それを知るとどうなるか。


 京介くんが家に飛んで来ちゃう。攫われちゃう。奪われちゃう。


 それと、あえて京介に尋ねないのは、見つかってお仕置きされることも視野に入れているからだ。


 どっちも美味しい。

 

 絹子は自信の笑みを浮かべていた。妄想ではもう致していた。えへ、えへ、と、あまり他所さまに見せられない表情で絹子は明後日に溶けていた。


 そこに晴風が待ったをかけてくる。



「ちょっとちょっとちょっと! きぬきぬ! な、メス顔?! なんで!? じゃない! あれ見てあれ、アレ、あーれ!」



 Tシャツの袖が伸びるくらいグリングリン引っ張る晴風の指差す方向には、京介と知らないメスがいた。


 しかも京介は私服だ。


 しかもあれは京介の行きつけの服屋breezeで去年の9月14日に買ったものだ。わたしも持ってるからよく覚えている。


 二人はそんな事を同時に思った。



「…ペアルックを他で着るなんて」

「…まったくです。うん? 何か言いましたか?」


「…バージョン1の京介くん」

「フェイズ1です! さっきなんて言ったんですか?」


 

 その事実を絹子は知っていたが言わない。今はどうするかだ。今日はとりあえず三日間張り込むための荷物を持っていて、二人とも動きやすいスポーティーな格好だ。


 対するメスは仕上げてきている。


 なら、流石にこんな格好じゃ会えない。いつだって女の子は最高の一番を相手に見せたいものなのだ。絹子はすぐにメスの観察を始めた。



「…誰? うわき?」



 見たところ辿々しさがある。が、あれは計算だ。初めてを演出する距離の作り方が上手い…。服装には少し手抜きっぽさも…あり…あえて隙を作っている。これも演出…誰だあのメスは。


 絹子は脅威度をとりあえず聖クラスまで引き上げた。脅威度A−だ。ちなみに聖がポンコツ化すると絹子お姉ちゃんの相手にはならない。B−だ。紐だけ注意すれば良い。



「ガッツリ浮気ですよ! あ、なんか大人…色っぽい…違う! すぐに森に言わないと! 誰か調べないと…あーもう! ストーカーしないとすぐ変な虫が付くんだから!」



 晴風はプンプンしていた。最近ストーキングがあまりできていなかった事に後悔していた。メッセでやりとりしているからと油断していた。やはり見張らないといけない。私以外とエッチなのはいけないと思います! 



「…待って。あれは違う。ピクニック」


「ピクニック? 何を…憩いランド…行き? あんなの人和中にんわちゅうならみんな飽き飽きしてるところ…今更…あ、だからですか?」



 バスを待つ京介とメスの二人。行き先は憩いランドになっている。

 晴風が言うように人和中学出身ならわざわざ誘ったりしない。小学校の時からイベントで毎度毎度行ってるし、休みの時に行くところがなくて困った家がだいたい連れて行くところがそこなのだ。


 ならあのメスが用意した罠があると仮定するとどうだ? S Sクラスの狂愛モンスター、愛香ならそうする。実際そうだった。純は見事に池に落ちた。


 A−クラス聖はどうだ。浮かれるだけだ。ないか。それに、そう何人も S Sクラスが居てたまるか。絹子はそう結論づけた。


 とりあえず晴風にはピクニックと言っておく。あとでメッセ内で会話した方が晴風には向いている。


 そう思った時だった。



「わざわざ誘って行かない。だからあのメスが───!」


「…どうしたんですか? キョロキョロして。トイレ?」



 絹子は一瞬視線を感じた。



「見られてる」


「…私達を? まさか。人一倍溶け込むのに長けた二人ですよ? 京介さんも太鼓判くれましたし。このきぬきぬよりおっきな胸に…あ、これのせいですね」



「舎弟。ふざけ…ない」



 晴風は浮かれた雰囲気を出しながらもスマホをパノラマモードにし、180度、ゆっくりとパンさせて撮っていた。それに気づいた絹子はすぐに合わせ、談話しているように振る舞う。


 撮り終え、すぐさま送られてきた写真を確認する。



「テヘヘ。すみません。つい。私服で逢えるなんて。浮かれてました。でも誰も…そんな人は…いませんよ?」



 どうやらこの写真にはいないようだ。だけど、絹子は直感を信じていた。京介に抱かれてからすごく冴えているのだ。廃工場で永遠を見つけたのも直感に従って尾けた結果だった。



「別ルートのバスで尾ける。それでわかる」


「あの…お城はどうするんですか? 保留?」



 絹子は別プランを既に頭の中に完成させていた。だから今日一のテンションで晴風に答えた。

 


「お姫様抱っこ入城。これしかない」



 正しく伝わった晴風は蕩けた表情でこう言った。


「……乗りました。えへっ」

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