サマーオブラブ6 - パンツじゃん
| 藤堂 京介
「藤堂だけど、諦めてくれないかな」
「隠すか…ちっ、いいから早く出せ。広げて見せろ」
……数多くの異世界経験からある程度の理解はあるけど、こんな明け透けなムキムキこっちにもいるのか。というかこんなとこで広げたら僕が変態ってことになるんだけど…
あのさ、そうするとさ、ある意味勇者なんだけどさ、そういう意味で使われるとちょっとさ。そのさ、本物の勇者やってた身としてはさ、困るんだよ、ムキムキくん。
ぶちのめされたいのかな? ん? ん?
「兄さん。兄さん。変態です。変態がいます。でもあれくらいで私に命令してくれてもいいと思いませんか? ねぇねぇねぇ?」
おまえは耳元で何を言ってるんだ。変態はおまえだろ。ぶっちぎりだろ。
「藤堂さま! わたくしの…この方はどなたですか?」
また晴風ちゃんと同じ仲良しグループであろう子がやってきた。黒髪でピンクリボンしてるし、多分一方的知人、か。
この子もさっきの子と同じノノメちゃんのとこの制服だ。でも随分と…小さな子だな。そういえばノノメちゃんところって初等部と中等部もあったな。
「…パンツ好きかな」
「変態っすか!? あ! わたくしったら…失礼しました…友人にも一人おりますので、つい…お知り合いですか?」
パンツスティールがまだ居るのか…そんなにおパンツって欲しいかな…価値観が違い過ぎて困惑するんだけど。
「…いや、知らない人だね。君は?」
「大咲歌恋と申します。覚えていただけているか…小さな頃、危ないところを助けていただきました。あの時はお礼も出来ず大変失礼致しました。お会いしとうございました……」
「…気にしなくて良いんだよ。君が無事ならね」
キラキラした目で僕を見上げてくる、大咲さん。昔助けた…か。いや、全然覚えてないな。どうもこのパターンが多い。
やっぱり過去視、使うか…でもなーやだなー血の涙やだなー。
「それにしても変態って結構居るんですね…兄さん、怖いです」
ぶっちぎりで他を置き去りにしてるこの棚上げトップランナーは何を言っているのか。
「誰が下着好きの変態だ。いいから早く見せろ」
「藤堂さまのを?!」
「違うわ! さっきの女からのやつだ。お前が粉掛けてんだろ。その証拠だろうが」
「らんらんのを!? …はて、何故でしょうか…?…あんな性格きっついのが欲しいなんて変わってますね…さては上級者! この痴れ者! 早く立ち去りなさい!」
「うるせーぞチビガキ! 話きけや。良く口が回る…ちっと黙ってろ」
「……ガキ?」
「しょんべんくせーガキに用はねーんだ。今から大事な話があんだよ、おにーさんには。だから邪魔すんな。そこをどけ」
あー、女の子って子供扱いすると落ち込むとか不機嫌とかになるのに…ほらー俯いたじゃん。多分落ち込んでもしかしたら泣いたり──
「……くぅーくっくっくー! よくぞ言ってくれましたね! この破廉恥漢! 果たして! これを見ても! まだガキだと言うのでしょうかッ!」
違った! 全然落ち込んでなんかなかった!
彼女が自信を持ってポケットから取り出したのは!
両手で高く持ち上げたのは!
ピンク花柄総レースの透け透けおパンツだった!
いや、またパンツじゃん。
おパンツじゃん。
なんなの? 流行ってんの?
異世界帰りにはちょっとそのウェーブ高すぎて乗るの難しいんだけど。現状破廉恥なのはむしろ君なんだけど。
「小学生が何てもん履いてやがる! …やっぱよぇーな。ちっ、さっきの女の出せ。確認してぇだけだ」
このムキムキも何でも良いってわけじゃないのか。こいつのストライクゾーンなんて知りたくなんてないんだけど。……確認とな?
「変態って一辺倒じゃないのね…ねぇ兄さん。ちなみに、兄さんはどのジャンル? 幼女? 中坊? じょしこ? じょしこよね? 一つ屋根の下のテーブルの下のじょしこよね? 幼馴染系より血の繋がらない家族系よね? 禁断の恋系よね? ぎもうと一択よね? ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇってばー?」
「ちょっと黙っとこっか」
微回復ナデナデしてあげるから、濁った瞳のおまえは黙ってなさい。どこに濁らせる要素あったし。
「有名パンティ職人によるオートクチュールの逸品が…らんらんの大量生産品に…ショックっす…」
多分、彼女は中学生だろう。
体格はともかく、やや幼い顔立ちながらメイクは少しだけしている。やり過ぎたり背伸び感はないし、慣れてる。そして品があって、良く似合ってる。なんでわかるかって?
合法なのはだいたい経験済みなんだ。
僕は異世界の森でだいたい学んできたんだ。
「藤堂さま。わたくしのおパンティをどうかお守りくださいませ。あのお救いいただいた、ありし日のこのわたくしのように…抱きしめて……」
「………うん?」
もじもじしながらほとんど透けているおパンツ渡してきたけど、これ受け取ったら君の言ってた変態そのものになっちゃうんだけど…そもそもこれが君の大事なトコ守ってくれると思うんだけど? あれ? 僕間違ってる?
「すんす…おっ」
「やめときなさい」
すかさず我が家の風紀の手が伸びる。この義妹は何を新発売見つけたって顔してるのか。このメーカーやるじゃんって顔しない。
「もういいか? どけ、ガキ。あ? な! あがっ! 何?!」
「はぁ〜ん? 今は大事な大事な藤堂さまと世界とおパンティとわたくしを刻む時間っすよー? 何邪魔してんすかー? はぁん?」
彼女は素早くムキムキの背後に回り込み、背中に取り憑き絞めにかかった。
上手いな。ノノメちゃんみたいだ。
けど、何言ってるのか全然わかんない。なぜ絞めにかかったのかもわかんない。何より守って欲しいとはいったい何だったのか。
だけど人の戦闘はやはりソワソワするな。というか後ろから見られると彼女不味いんじゃなかろうか。いろいろ守れないんじゃなかろうか。そもそも今履いてるか履いてないのかソワソワする。
仕方ない。僕がパンツの代わりに君を守るよ。
認識阻害の魔法を彼女のスカートの中、大事な部分だけにピンポイントに強く絞って振る。ついでに水着売り場も薄く包んでおこう。
「てめ、だろが、変態は、チビガキ、なんだ、コイツ、力つえー、ぞ」
ムキムキが背中の彼女を振り解こうとぐるぐると回る。声と動作は絞っているからなんか親子の戯れっぽいな。あまり騒ぎにはしたくないのか。ふむ。
そして予想通り、彼女は脚を大きく広げてムキムキの背中に取り付いていた。
「……」
魔法を振った本人には認識阻害は効かないんだ。
大人だな。
いや、違くて。
「ぅぷ、ぷぷ…兄さん、兄さん、なんか、ちょっと古い放映禁止のモザイクってあるじゃないですか。ベタ塗りの。芸人とかもやるやつ…ぷ、ダメ…あの子のあそこ、そんな感じなんですけどぉ…ぷ、ぷっ…」
「やめてあげなさい」
冤罪から葉っぱで逃げ出した反省から生み出した魔法の使い方だ。彼女のスカートの中の大事なところは見えそうになる度に、まるで白くて丸いパネルでサッと隠しているように見えるだろう。
ギャグっぽくなるけど、そこは許して欲しい。それに僕は真剣だ。一度とっ捕まったらわかる。
「あはっ! ダメ、笑っちゃう! あっは、は、もー兄さんの馬鹿!! もう! うく、くく…あははははっ、ひー、ひー」
「…見えたら可哀想だろ」
何故ばれたし。でももう少し不思議に思ってくれてもいいと思うけど、シュピリアータか?
それよりこのムキムキをどうしよ…うん? もうひとり…いやもう二人やってきた。黒髪リボンか。
「こいつ…邪魔をして……れんれん! 説明!」
「うみうみ! こいつ藤堂さまのおパンツを狙ってるっす! っす!」
「あが! ぞんな、ごと、ずるか」
「…あのですね。おじさん。よぉーっく聞きなさい。そもそもパンツはですね。強請るものでも奪うものでも勝ち取るものでもないの。与えるもので世界に刻むものなのよ! あなたも恋をしなさい!」
パンツにそんな意味が?! いやいや、んなわけ無い…って瞳の色マジじゃん。これが、恋、か…いや、変じゃないかな?
「違いますよ、嗅ぐもので使うものです。まったく最近の中学生は嘆かわしい」
「ちょっと黙っとこっか」
「あが、んなこと、するか、ぐぅ、離せ、ガキィ、おい、そのパンツ、はよ出せ」
「このくそ変態が……んん、お久しぶりです。京介さん、音野、音野宇御です。今度、こそ、私の、その、気持ち、今度こそ! 受け取ってくださ、おー、っと、と、あー きゃー あ、ぅえへっ…ぁりがとぅございます…ぅ」
「…うん、大丈夫かい?」
青リボンの子は何も無いところで躓いたようにして僕の左手を取った。
かなり大根な役者具合だが、まあ気にせずに抱きとめてあげる。でもやはり見覚えは…ない。
「藤堂さまその女ドサ役者ですから!」
「もーうるさいな…あー私たらいっけな〜い! 忘れてた〜! これを…宇御の気持ち、受け取ってください!」
気持ち、か。嬉しいよ。少し潤んだ瞳の彼女はとても澱んだ目をして明滅しているってなんでだよ。なんで濁ってんだよ。
しかし、いったい何くれたんだろ。生暖かい薄いブルーのサラサラとした手触りをした光沢のある生地ってパンツじゃん。
またおパンツじゃん。
なんなの? やっぱ流行ってんの? このまま五枚とか七枚とか集めたら良いの? 戦隊系なの? 願い叶う系なの?
「すんすん…強いて言うなら…私系…アリね」
「そろそろやめときなさい」
「私も! 遂に! 世界に! 刻んだわー! やったぁー!」
「やったっすね! あ、きゃっ!」
「ごはっ、ごほっ、ごほっ、ふー、やっと抜けたか…くそガキが…もういい。藤堂京介! お前がクズ野郎なのは確認できた。大人しく着いでごぉッ!? ……な、んだ…と」
先程から少し後ろに控えていた子がいつの間にかムキムキの横に音を立てず移動し、ハイキックを顎に食らわせ、仕留めた。死角だったな…あれは躱せない。
会心の一撃だな。
その際、スカートの中がふわりと広がり、ばっちりこちらに見えてしまう。
痛恨の一撃だな、僕に。
いや、違くて。
子供だな。
いや、それも違くて。
良い蹴りだ。
「あ"あ? 誰がクズですって? 藤堂さんの敵はこの御堂杏樹の敵。ぶち殺しますよ? …あ、…駄目……」
「おっと」
「あ! じゅじゅずりぃ!」
「ズルいっすよ!」
ムキムキを仕留めた途端に膝から崩れそうになる赤リボンの子を抱き止めてあげた。この子は大根じゃないな。単純に貧血気味か?
「大丈夫?……これは?」
「あ、あ、腕の、中、あああ杏樹のききき気持ちですぅぅぅ」
彼女は握りしめていた何かを僕にくれた。
気持ち、か…さっきの音野さんと違って、彼女の瞳は澄んでいた。じゃあ何だろ…ってまたパンツじゃん。痛恨の一撃の枷じゃん。
しかし、なぜに僕の元にこんなにパンツばかりが…もしかして背中に紙とか貼られてんの? あ、もしかして、この仲良しグループの遊びかも……しかし元世界はすごいな。異世界アレフガルドが霞んでしまう。主に変態って方向で。
いや、これも平和のなせる業か…
だが、安心して欲しい。さっきまでの困惑は僕の元世界に対する固定観念からだ。一日4回も続いたなら、これは必然。ならば更新しようじゃないか。
女の子はパンツをくれるものだと!
ついでにどう保管すれば正解なのかも教えてくれないか! 使い方と装備の仕方も!
防具は持ってるだけじゃ意味ないんだ!
そう、ならば、ならばありがたくこの平和の象徴、女の子の希望の脱ぎ立て血まみれおパンツを受け取ろうじゃないか!
うん? なぜに血まみれ?
……まあ、いい。
女性にはいろいろある。聞いてはいけない。僕の見て見ぬフリもカンストしてるんだ。主にベッド以外で!
「…嬉しいよ、ありがとう」
「あ…え? 嬉しいんだぁ。杏樹のぱんてぃ。んふふっ」
「………」
いやさぁ、そういう言い方はさぁ、あのさぁ、ズルくないかなぁ? 気持ちね、気持ち。気持ちがね、嬉しいんだよ?
「いや、気持ちが嬉し──」
「〜〜兄さんの変態! 馬鹿! もー貸して! すん…す、ん……こ、これは……!!」
これは、じゃないよ。どっかの味の王さまか。頂点か。何試しをさっきからしてるんだ。それにおまえにだけは言われたくないんだよ。
しかし、この泡食ってるムキムキどうしようか…見事に決まったな。
「藤堂さま。これから少しお時間いただけないでしょうか…? この水着売り場でわたくし達の…その…水着を選んでいただきたく…その、パン…下履きの代わりに…そしてこの悪漢はお任せください。支配人に連絡をしますので。すぐに警察へ突き出します」
なるほど。彼女達のパンツはそういう意味だったのか。
変わった……引き換え券だな…
奴隷とすら交換できるカジノの街でもそんなのなかったんだけど…異世界すぎる。
「兄さん、私も水着欲しいです。また感謝祭したいです」
「……わかったよ。なら大咲さんに任せるよ。選ぶのは構わないよ。でもあんまり流行りとかわからないから教えてね」
まあ、みんな可愛いから何でもいっか。
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