サマーオブラブ3 - 鷲崎ネクサス
| 鷲崎 堅輔
最近娘の様子がおかしい。年頃の娘だ。仕方ない部分もある。が、浮ついた空気感が、あいつにそっくりだった。
「和光か…」
「はい。なんでも和光の娘の仕切る会に参加したとかで。そっからおかしいんですわ…」
「何というか…こないだ部屋の前を通ったら…奇妙な笑い声が…いだぁっ! 何すんだ、テメェ!」
「阿呆か。お嬢になんて言い草だ!」
笑い声か…最近はどうも家の事で悩んでいたのか、めっきりなくなってたな。まあ、部屋の中のポスターが女だったし、あまり心配はしていなかった。
叩き出されたが…だが。
「いい、それで?」
「下のもん使って調べさせたんですが…」
「いや……俺たちも大概でしたけど…」
下からの報告ではどうもその和光の会に行ってからおかしいという。和光とは知らなかったが、調べさせていた。親の感ってやつだ。
こいつらも大概だったが、拾ってから躾直して今じゃ礼儀も弁えだした。そのこいつらが渋い顔をしやがる。
「なんだ、言ってみろ」
「…どうも…この男が怪しいと…」
こいつらが、言い淀むなんて何があったらそうなる。夜光なんかよりうちは鍛えさせているんだぞ。福利厚生という名目で。
「…藤堂…京介… 強姦、脅迫、恐喝…暴行…15でこれか…この国はどうなってやがる…シマは?」
俺も昔は悪かった。が、どちらかというと硬派な世界だ。弱きを助け、強きを挫く。そういった世界だ。だから天養一のレディースの姫、あいつを口説き落とせたんだ。その大事な一人娘が…聖奈が…こんな奴に?
絶対に許せねぇ。
「こいつの地区…山神地区でして…微妙なんですよ…」
山神か…仕方ない。あの辺りは多数の武道の家が連なる地区だ。地主も強い。サツと繋がってる秦野もある。迂闊に手を出せばこっちが痛い目に遭う。
「山神…ああ、あの辺は仕方ねぇ。そうか…ならとりあえず街で歩いてるところを連れてこい。学校帰りとか日曜とかあんだろ。それかもう夏休みか。聖奈にちょっかい出すやつは死なす」
「わかりました」
「はい」
◆
比良町駅前の雑居ビルの二階。うちの稼業の金貸し業だ。そこにアポ無しで背筋がピンと張った、デケェジジイが訪ねてきた。
「久しぶりじゃの、鷲崎の倅」
夜光銀次…夜光組先代組長、仏の銀次。この天養で知らない奴はいやしねえし、何よりこの笑顔がおっかねぇ。この笑顔のままドツキ倒す。ドツかれた奴は皆素直になりやがる。
何しに来やがった…金貸しに何の用だ。テメェはまだマル暴にマークされてんだろ…
相変わらず自由なジジイだ。せめて連絡くらい寄越せよな。
「…突然なんです、夜光の御隠居。表は無しって話でしょう」
「かかっ。今日はこのジジイの相談事じゃ。ぷらいべえとってやつじゃ。ちょっとこの老いぼれの話に乗ってくれんかの?」
相談事…あの夜光が? なんだ? それにテメェは老いぼれってガタイじゃねぇだろうが。
なんだその丸太みたいな腕は…
「…はあ。何か…」
「藤堂京介いう名前に聞き覚えはないかの?」
夜光銀次の口から藤堂だと? 15で何やらかしたらそうなる? ならあの資料は間違って無いのか…
「……そいつならうちの若いもんに探らせてますが…?」
「そうか! 儂の感も捨てたもんじゃ無いのぉ。どうにもうちの孫が執心していての。もう夏休みじゃろ? こっちに帰って来たんじゃが、どうにも落ち込んでおっての。儂の育てておった富貴蘭で花占いして…一喜一憂しておったり、な。可愛いもんじゃ」
…富貴蘭で花占い…だと…? 狂ってんのか、その孫…
夜光の当代が猫可愛がりしてる双子の娘に、なんだジジイもかよ。
まあ、良い目をしてやがったな…あの双子。
それが藤堂に執心だぁ? 粉掛けてんの、うちの聖奈だけじゃねぇのかよ。
やっぱり死なす。
「…うちのもんを使いたいと?」
「いやいや、そこまでは言わん。ただ鷲崎も探しとるなら丁度ええわ。もし見つけたらわしにも一報が欲しいんじゃ」
言ってるじゃねぇか。しかし、うちを使ってだと? なんで自分とこでしねぇ?
……けど、これはチャンスだ。
最近の夜光はギスギスしていていけねぇ。多分和光絡みだろうが…それもこれもあの葛川のボケがヘタ打つからだ。
勘のいいやつはすぐに手を引いてたがな。
本当に色ボケた政治屋には困るな。
「…そりゃ構いませんが…ただ…もう少し締め付けを…緩めて貰えるんなら。夜光の当代はその…」
「わかったわかった。息子に伝えておこう。そのかわり、な。よろしく頼むぞい」
なんだ、この立ち姿。全然隙がありゃしねぇ。眼光も…本当にジジイかよ。こいつ。
まあ、いい。たかが坊主一匹で夜光に恩が売れりゃあ、でけぇお釣りが来る。
「聞いてたな?」
「早速出ます」
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