サマーオブラブ4 - 魔女と水着とパンツと

| 音野 宇御



 期末テストも終わり、半日授業が続く中、放課後水着を買いに来ていた。


 私、御堂杏樹みどう あんじゅ五十嵐蘭華いがらし らんか大咲歌恋おおさき かれん朝宮雫あさみや しずく。みんなみんな黒髪の魔女。


 朝宮雫、しずしずだけ天養純心中等部の白ワンピースタイプの制服で、他はみんな大前女子の淡い青ワンピースタイプの盛夏服だ。



 そろそろ京介さんに仕掛けたい。


 ターゲット、中田大也はあの眠らせ姫にしてやられた。それに解決どころか、私の策なんかの斜め上の結果で、全員BL男子に変えられたそうだ。


 流石は京介さんだ。


 力になれず、少し悔しい。


 パンツも渡せてない。超悔しい。


 全部片付けてから渡そうと思ってたのに…



 天養駅前のファッションビル、クレバの一階、水着売り場、特設会場。


 男は目で恋をするという。だから今年のテーマは悩殺。


 去年までは子供って水着で、流石にあんなんじゃ振り向いてもらうのは難しい。それにここ一年で随分育ったのもある。Dはある。いける。


 間宮春風、はるはると飛鳥馬遊子、ゆーゆーは今日はいない。どうもあいつらは秘策があるみたいだ。


 はるはるは粘着妄想家宅侵入未遂ストーカー妹系ヒロイン。身長こそ低いが、私より乳もデカいし、多数の属性持ってんのにこれ以上何する気だ。


 それにどうやらあのゆーゆーがれんれん家のプールに誘うらしい。

 熱血天誅毒舌系ヒロインが、いったいどうやってかわからないが上手くするようだ。


 一番向いてなさそうなのにな…


 でもあの態度…。ゆーゆーもはるはるも妙な自信を持っていた。ゆーゆーはともかく、期末テスト期間だったのと、人和中学は少し遠い。だからはるはるとは最近会ってないが…


 あいつらの会話からそこはかとなく、上から目線を感じる。


 何かがおかしい。



「…うみうみ。いつもよりなんだか……大人っぽくない?」



 御堂杏樹、じゅじゅが花柄の水着を手にしながら話しかけてくる。こいつも京介さんに救われた一人。そこはいい。そこじゃなくて、私より2センチ、乳がデカい。いつもは仲が良いが、それとこれは別だ。



「ええ、いちいち煩いし、あんまり言わないでくれる? 選ぶのに、真剣なのよ」


「それ紐っすよ」



 大咲歌恋、れんれん。絞殺貧乳系ヒロイン。れんれんは、なんというか、平坦過ぎて相手にならない。

 こいつ、どうやって悩殺する気だ…私、言ったよな? 悩殺って首絞めるって意味じゃねーからな? 物理じゃねーからな?



「中学生で痛いわよ? まあ、うみうみ、身体は大人だけど…こういうのは隠す方が見たいって欲求に訴求するのではなくて?」



 私の持つ水着を見て、しずしずがそう言った。こいつはいつも余裕だな…一番育ってるが…



「言うじゃない。じゃあ、しずしずはどんなのにしたのかしら?」


「私ですか? 私はこれです!」



 リボンに合わせた呂色の水着か。つーか、紐じゃねーか。



「いや、めちゃくちゃ紐じゃない」


「わかってませんね、うみうみ。ブラジリアンって言うそうです。ブラジル。情熱で、私の気持ちです!」


「それ、明るい性格で、黒くてムチっとした人じゃないと似合わないわ。あなた暗くて、痛いくらい真っ白じゃない。まあ、ムチっとはしてるけど」


「ムチムチっす。あと情熱じゃなくて情念って感じっす」



「…急に恥ずかしくなってきました。というか、誰が根暗ムチムチ情念野郎ですか」



 呂色の魔女、朝宮雫。しずしず。


 黒髪ロングのストレート、前髪は眉まで伸ばし、左こめかみのところにミドルの三つ編み。その編み込みをリボンでまとめている。

 中二ですでに大人っぽい仕草に170近い背丈に猫被り。色白で太腿なんかもムチッとしていて、ボンキュボンって身体。こいつにはいつも劣等感を感じる。

 まあ本人は太腿をえらく気にしてたが…それもラブコメヒロインには標準装備の要素だ。ムカつく。

 ただ、天養純心の白ワンピースタイプの盛夏服がすこぶる似合ってない。腰のベルトが緩いのか、乳に押されて妊婦みたいに見える。


 もっとギュッとしろや。それに、お前はセーラー服とかのが似合うだろ。


 あと、お前はド変態だろ。



「わかって無いのはみんなっすよ! スクミズに決まってるっしょ!」


「いや、れんれんは…ねぇ?」


「ええ、れんれんは良いでしょうけど…」


「あなた似合い過ぎてみじゅぎって感じじゃない。女じゃなくて児童って感じ」



 このぺったんこお嬢様は、どこにそんな自信を持ってやがんだ。それに口調もずっと魔女モードのまま…盛夏服で…まあ周りはみんなしか居ないからいいか。



「そっすよ? 当たり前じゃないですか。皆さん武器を履き違えています! 二度と来ないJC時代! 円卓のババアどもの過ぎ去った過去に我々は今いるっす! あいつらと違い、我々が推すのは弾ける若さ! っす!」


「いや、れんれんはJCっていうか、JSっていうか」


「似合いすぎて幼く見えます」


「あなた弾け過ぎて凹凸ないじゃ無い」


「あるっすよ! 失礼な! やわらかプニプニの可愛いのが! 付いてるっすよ!」


「ならせめて眼帯ビキニとかにしなさいよ」



 男が目を向けるパーツランキング一位と二位はまあ魔女間なら同列だ。綺麗なぱっちりお目目に、手入れの行き届いた黒髪だ。


 どう見ても美少女だろ。


 だけどパーツランキング三位は平らな丘のれんれん。どうする気かこっちがハラハラする。


 テンパって首絞めねぇよな…?…


 それに、男の生態も生の声も知らない女が五人集まったところで、特に発展は無い。

 このままだとまた何も無い暗い夏休みが来てしまう。


 まあみんな元は根暗な陰キャだから慣れっこだけど。



「はー。似合うか意見欲しい…Gストリングとかはどうかな…そういえば、らんらんは?」


「みんな〜! わたし出来たよ! 超上手く出来たよ! 褒めて〜」



 そんな私の呟きに被せるように、はあ、はあと息を切らしてらんらんが何処からともなく走って戻ってきた。

 そんなにバタバタ走ると、スカート捲れるだろ。

 大前女子うちの盛夏服で走ると何言われるかわからないだろ。


 せめて人の多いところでは取り繕えや。


 つーかどこ行ってやがった。この金糸雀の根暗性悪煽り系ヒロインは。



「何を?」


「何すか?」


「何です?」


「何でしょうか?」



 私、れんれん、じゅじゅ、しずしずの順で、息を切らすらんらんに問いかける。


 はよ答えろ。褒めれないだろ。



「パっ、はーっ、パ、はーっ、はー」


「あなたあまり運動得意じゃないのだから、全力で走っちゃ駄目でしょう? パがどうしたの、パが。まさかパパ活じゃあるまいし」


「いや似合い過ぎて怖いっすけど」


「こういう真面目ぽいやつがやらかすって聞きますし、ほら三組にもいたじゃない」


「みんなあんまりスタイル変わらないじゃないですか。れんれん以外」


「何ですとー!」



 膝をつくらんらんを囲み、あーだこーだ言いたい放題だ。

 ようやく息を整え…れてないな。それでも彼女は頑張って作ったキメ顔で言った。



「はーっ、はーっ、パンツ、はーっ、渡せた!」


「…え? この人何言ってるんですか…?… 本当にパパ活…?…」



 しずしずは相変わらずトンチンカンな事を! んなもん、やり遂げたらんらんのキラキラ笑顔見りゃわかんだろーが! 


 こいつ世界に刻みやがった!



「らんらん! どこにいた!」


「うみうみ、急に叫ばないでください! 今らんらんが道を踏み外しかけていますのに──」


「あっちに、はぁ、義妹と一緒に、はぁ、いた、の…もう駄目…」


「義妹…やはり藤堂さまが! 渡してくるっす!」



 早! まあ、れんれんは動きはピカイチなのにドジ使いだからな。ぺったんこだからドジエッチ使いにはなれねー。大方迷子になるか、手前でこけてクマさんパンツ見せるくらいだろ。


 あいつ、そんなの渡さないよな…?…


 つーかあいつ一人でまた誘拐され…ないか。今のあいつは握力馬鹿強いし。



「あ、れんれん! 走ったらこけますよ! 何なんですか…じゅじゅ、何事ですか? 藤堂様がいらっしゃるの?」


「しずしずいなかったものね…うみうみが、その…藤堂さんに…パンツを渡して世界に刻むって」


「ここにもアタマおかしいやつがいらっしゃる! パンツで世界ってどういう意味ですか!?」


「うっせー! パンツ渡しに行くぞ! そしてあわよくば水着を選んでもらうぞ!」


「いきなり魔女モード?! それにうるさいって何ですか!」


「ちょっとぉ、それはぁ…でもじゅじゅもぉ…おパ、おパンツはともかくお逢いしたいでし。そしてぇ…あ、鼻血が…」



 そりゃじゅじゅも回想すりゃあ鼻血くらい出すか。しかし、こいつも良いアクション持ってやがるな…回想鼻血系ヒロインか…。

 円卓の濡れ衣姫もお漏らし系ヒロインって聞く。


 何か身体から出す奴はキャラ強いな…ズルい。他なんかねーか?



「じゅじゅが回想あんあんモードに…ああ、血が……勿体ない…じゃなくて! 水着もパンツもどちらもハードル高いでしょう!? その後どうするんですか! あ、ちょっと! このしなしなの自称ノーパン女どうするんですか!」



 しずしずなんかはこんな綺麗な顔とスタイルで、さも普通を振る舞うが、ド変態自傷系ヒロインだしな…手首にはしないが…あ、そういえばこいつ、水着のときどうすんだ! 京介さんが引くかも知れねーだろ!


 しかし、見事に私だけが特に何にも無い。ただの毒舌美少女だ。


 願わくば、メインヒロインの道、王道のドジエッチ使いになりたい…! 


 いや、今はそんな事は後回しだ!



「選んでもらった水着で帰りゃいーだろがッ! 馬鹿か! らんらんは試着室キープッ! しずしずは傷隠れるやつ何か選んどけッ! テーマは悩殺だ! じゅじゅ! 行くぞ!」


「はい! 鼻血、気合いで止めてみせますぅ!」





「ああ…行ってしまいました…しかも馬鹿って言った。馬鹿な事しようとする女に、馬鹿って………らんらん本当に渡したんで──見せなくていいです! 狂ってんのかよ…あなた達今日体育あったって言ってませんでしたか…?…雫、そこまでは出来ないです…匂いとか…」


「義妹は、はぁ、蘭華の、はぁ、まあまあ、ヨシって」


「……その義妹も変態かよ…藤堂様に変な趣味押し付けてたら……引っカいてやる! …はぁ……雫、ちょっとお花摘みに行ってきます」



「えぐりすぎには〜気をつけなよ〜」


「お花摘みっだっつってんだろぉがッ! 煽ってんじゃねぇよッ! …でも、ちょっと文房具屋さんに寄ってから行ってきます」



「……こいつ……絶対コンパスだろ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る