2nd サマーオブラブ
憩いランド
| 藤堂 京介
僕は天養駅前で待ち合わせをしていた。
時刻はもうすぐ12時。待ち合わせ場所は卑猥像前の長いベンチ。
そこに座って待っていた。
少し前に何か捕物があったようで、少々騒ついていた。皆一様にネットで呟いているらしく、全裸で炎上がどうとか言っていた。
まあ、あまり珍しくはない。
天気は晴れ。なかなか日差しは強いけど、吹き抜ける風はひんやりしていた。
平日の天養駅は、結構な人通りだった。天養市の中心部にあるこの天養駅には大きなオフィスビル、飲食店街、地下街と多種多様な場があった。
そこら中に電線が張り巡らされ、召喚前までは何にも気にしなかった。
今更ながら、この様々な色の絵の具をぶちまけたような無秩序な感じは面白く思う。
アレフガルドでは街ごとにライバル意識があって、競い合っていた。
屋根の色や、建築の様式は街ごとに違っていたから、その街一つ一つに特色があり、均一に整理されていた。
厳密には法で縛られていて、領主や王政の国ならではと言える。もちろん電線などはない。
期末テストも終わり、季節は急速に夏に向かっていた。そのせいか、天養駅周辺の街行く人々は涼しげな格好だった。
僕は昔から半袖が苦手だったから、ロングのカットソーが多かった。
そして、召喚前は割とタイトな服を好んで着ていた。とクローゼットを見て思い出していた。
今日は濃い色のストレートジーンズに白のローテクスニーカー、長袖のカットソーと薄手のジャケット。ウエストポーチだ。
もちろんアレフガルドの時とは違い、ウエストにはつけない。
異世界での休息日は、緩めのものばかり着ていた。というか、それが一般的だ。
これは生地の分厚さと、自然素材のせいか、伸縮性など皆無であったためだ。
だからタイトなサイズだと激しく動けば簡単に破れてしまう。ゆったりサイズにも理由があったのだ。
だから緩く着ることが日常になっていたから、元世界でのタイトなサイズの違和感はずっとある。高校の制服はほど良かった。
生地色はだいたい自然ままの優しい生成り色が多く、カラフルなものは魔法で染色していた。彼らは染色を付与と呼んでいた。
通常生地は触媒と高温で色を定着させるはずだ。それを魔法で、なんて言われてもよくわからないけどすごかった。
どうやったら生地の端から順に虹色になるかなんて全然意味がわからなかった。
なんでそいつはそんな色にしたのかもわからなかった。
外套だっつってんだろ。
だけど、一度見れば僕にも出来てしまう。だから黒に変えた。けど、出来てしまう気持ち悪さはあった。
また、黒は神秘の色らしく、付与出来ないそうだ。宗教的に出来ないのか、してはいけないのかはわからなかったが、そいつは感動して泣き崩れた。
なんでだよ。虹色のがすごいだろ。
そういえば革もある。これも驚いた。鞣し…つまり皮であるスキンから、革、レザーに変えるには、魔法による鞣しが一般的だった。
異世界では様々な魔物がいた。だからその種類だけ革があった。
流石に人型の魔物の革には抵抗があったが、その感覚も最初だけで、徐々に摩耗していったな…
じゃなくて。
劣化があまりにないんだ。
例えば過去勇者の遺産、幻獣アルキマイラの革でできたマント。
耐魔、耐防、耐刃に優れた最高のマントだったが、その色はずっと真紅のままで、革だと言われてもわからないくらい薄くてしなやかで軽かった。
何百年、いや、それより遥か古代の時代のモノらしい。
なんでだよ。
なんで真っ赤にするんだよ。
色は変えれるけど、なんというか、悪い気がして出来なかった。出来るのに出来ない。なまじ出来るから、なんか辛かったな。
他にも装備だけはやたらと色彩が豊かだった。豊か過ぎたのだ。
平民の服みたいので良いのに…
厨二は小学生で卒業してたのに…
全身真っ黒にしたらそれはそれで痛いし…
色彩豊かなのは娼館だけで良いのに…
昔、耳にしたある芸術家の一言。
『似合わない色同士はない』だったか。
……超硬い青い鎧に、超バフのかかった真っ赤なマントに僕と聖剣シュピリアータを足すと……なんか…辛かったな。
クール推しアートリリィと実利推しティアクロィエのまさかのダブル褒めだった。ローゼンマリーも鼻、ふんふんしてたな。
なんか…辛かったな。
◆
「お待たせ、しました! ごめんなさい、遅れてしまいました!」
「いや、時間ぴったりだよ」
息を切らしながら早足で来たのは白崎さん。亜麻色の髪をセミロングに切り揃え、店員の時とは違い、サラリとおろしていた。くっきり二重の大きな目。スタイルもよく、柔らかい表情を絶やさない美姫だった。
白のノースリーブに太めのカーキ色のズボンを履いていた。足元はハイヒールの黒パンプスだ。大丈夫だろうか。
重そうに持つ大きなキャンバス地のトートバッグはオフホワイトで、なんかいろいろと入っていた。手ぶらで良いですからと、何度も言われていたから本当に手ぶらで来ていた。
「持つよ」
「あ、ありがとうございます…」
トートを受け取る際に見えた爪は丸く綺麗に揃えられていて、多分、コート剤を薄くしているくらいで、何もしていなかったのが良かった。
僕はどうしても長いのは苦手だ。
通常フェチズムは先端に向かう傾向にある。指先は尖らせ、足下の靴も尖らせ。その現れだ。
だけど、そうは言うが全然伸ばさなく良い。僕はナチュラル派なんだ。
そして僕は、違う意味で常に深爪だ。
「今日はありがとうございます。私のわがままに付き合ってもらって。本当に憩いランドで良かったんですか?」
「うん。懐かしいしね。嬉しいよ」
天養市西区にある総合運動公園。通称憩いランド。広い敷地には林や森、芝生に池も散歩コースも遊具もある。
天養市の小学校中学校では、学校行事で必ず行く事になる場所。
ピクニックにはぴったりだ。
◆
天養駅前からバスに乗り、憩いランドに着いた。
案内図を頼りに、ルートを歩く。
緑、水、光、風、土がそこかしこにある。
どうやら失った魔力は自然の環境、あるいは心への清涼感。そういったもので回復するらしい。城建てたんだ。結構減るか。
ここは休日は特に人が多い。広い駐車場に、近くを通る高速道路からのアクセスの良さ。そのため、他県からの家族連れも多い。今日は平日だから記憶にある人数より少ない。
それは、良い。
それは良いんだけど。
「ここ、小さな時に来ました。幼馴染の麻理ちゃんと、クロエちゃん。懐かしいでしゅ…」
「そ、そう。僕は中学の…多分二年以来かな…」
彼女は先日のお礼のため、お弁当をご馳走したいと言っていた。そして憩いランドに行きませんか、と。
お礼にしてはなかなか思い切ったことを言うなあと思って喜んで快諾した。
この元世界のお弁当、旨い。好きだ。
それに、異世界では外で食べることの方が圧倒的に多かったから、僕にとっては日常みたいなもの。抵抗自体がない。
僕たちはそのお弁当を食べる場所を探しながら歩いていた。
白崎さんはやはり少し噛んでしまうが、そこに動揺しているのではない。
移動している僕らと一定距離をずっと保ち続けている人たちがいる。
具体的には七人。
最初はこれだけの人がいるのだし、偶然かと思っていたけど、なんとなく視線を感じ、魔法を振った。
そこから一人二人と増え、最終的には七人で固定されている。
なんだったら少し見えている人もいる。
なんだったら知ってる子もいた。
「あ! あそこはどうでしょうか?」
「木陰だしね。良さそう。そこにしようか」
ま、食べてからでいいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます