GB4 - ひろゆきの受難

| 斉藤 博之



あれが一年の藤堂か。


なんか最近やたらと聞くからどんなもんかと探しに食堂に来てみたが…


確かに男前だ。綺麗な整った顔立ち、清潔感もある…背は180は無い…が、立ち姿が綺麗だな、あいつ……そして何より華がある。本当に一年かよ。


で、美少女まみれ。



…管理、大変だろうな。


まあ、そういうのはいる。そういう星の下に生まれるやつは。勇者みたいなやつ。そんな事は知ってるし、羨ましくは……ちょっとはある。


でも、こないだまで誰も知らない目立たないやつだったらしい。


…高校デビューでディレイかますとか聞いたことないけどな。夏休み入るまで待てなかったのか…変なやつではあるか。


が、ありゃ…モテる。嫉妬なんておきねーほどに。こりゃ…顔だけじゃねーな。


…さりげなく全員に気遣ってるのは見えるし、あれは…養殖の俺と違って天然だ。考えるより感覚で動いてる。多分本人何も考えてねーだろ。


常にゾーンでスター無敵状態…


そして周りの美少女たちの何か危ない仄暗い感じ…丸い雰囲気のやつが一人もいねー…もしかしてヤンデレってやつか?


ならバッドエンド行きか。じゃ、スター状態も納得だ。無意識に死期を察知して、脳内物質垂れ流しなんだろ。無自覚の必死、ってか。南無。



あとは…騒ついてる男子…一年の高橋、中川と…二年の石嶋、富田、そして、三年の阿部。こいつらは男子ランキング上位のやつら。ははっ、藤堂をめちゃくちゃ睨んでる。


総合評価なら藤堂が断トツトップだ。あんな華のあるやつに勝てるわけねーだろ。


あとは学力くらいか。あんなナリしてんだ。頭も完璧じゃなきゃ嘘だろ。



自尊心と周りの美少女に目を奪われて、藤堂をきちんと評価出来ずにヘイトだけ垂れ流し、悪戯に高校生活を棒に振りそうなやつに美少女は微笑まないだろ。


男の嫉妬ほど馬鹿な行為はないしな。


まあ、でもぶっちゃけ、ワンパンだろ。あれ。


優男って感じだしな。


だから、ありゃあ…絡まれるだろうな。

嫉妬ホイホイだ。辛いだろうな。



一年は知らねぇけど睨んでるやつらはだいたい手が早くて強引って話だったな。NTRかBSSにならなきゃ良いけどな。



いや、生徒会がいるから大丈夫か。


噂では生徒会長の青銅院言花せいどういん ことかが裏掲示板を仕切ってるって話だ。俺の代の美少女といえば、こいつだった。


三年連続女子ランキングNo.1。生徒会に女しか集めないから百合疑惑は常にあるやつだ。男が入ってもすぐに辞めてた。追加に女。最終的には全員女。そりゃ疑うだろ。



しっかし、この学校は平和だな。藤堂睨んでるやつはわかりやすい地雷だし、モテそうでモテない。良い思いはしてない。だから強引に自分から行く。


結果裏掲示板行き。でモテなくなる。それに少しでもオイタが漏れりゃやっぱり裏掲示板行きだ。


普通に付き合えよ。もしくは彼女を公言すんなよ。してるのにいくなよ。バカなのか。


噂では他校にもばら撒かれているらしい。ま、だから何も知らない一年狙いたかったんだろうな。


けど葛川ニュースがあったばかりだしな。動きたいけど動けない。だから睨む、ってとこか。



だからまあ、俺みたいな人畜無害風なヤツが結果的に一番のクズになる。笑っちまう。



超小物なのにな。





中学の頃、パシられ陰キャでボッチの俺はこのままじゃ嫌だと高校デビューした。と言っても清潔感と社交性だけに絞り、あまり尖らない方向でデビューした。


もっとも顔もまあブサイクよりの普通だし、デビューってほどの素質なんてなかった。


ボクシングジムにも通い始め筋トレは頑張った。まだ二年とは言え自信もつく。才能なんて無いけどな。


そして少しずつゆっくりと動いた。パシられた経験から人の観察はよくしていた。だから痒いところに手が届く、そんなくらいでセコセコ好感度稼ぎをあらゆるシーンでしてきた。まずはいい人に見られるように。


高校二年生。ついにキメた。他校の女だった。


そしてこの頃わかったのは、好感度、肯定的会話、瞬間的勢い、それとボッチ。これがあれば結構いけるって事だった。


パシられ陰キャボッチ経験者の俺はだいたいボッチの気持ちがわかるしな。ならそれを埋めればいいだけだ。


いい人になるまで肯定的な話し役になり、認められたら肯定的聞き役になる。話したいなら話してくれた方が楽だ。あまりしつこくない程度のジャブでだ。


それにボッチは無口に見えても頭ん中は結構おしゃべりだ。俺もだったしな。ただ外に出す訓練してないだけで。


俺は頑張って話した。が、話しながらヒートアップして周りが見えなくなった。何せ自分が場の空気を作ってるなんて知らなかったしな。そんな恥ずかしい経験は一年時に終わらせた。


そしてボッチ特有の猜疑心と自己低評価。これを舐めちゃいけない。だから安易に褒めちゃいけない。けど褒めないとこっちには傾かない。本当に面倒くさい。けどそれだけだ。傾けば早い。傾けるのと押す時に瞬間的な勢いが要る。それだけだ。


正直可愛いとは言えないやつばかりを貪った。ぶっちゃけ顔より身体目当てだったし、俺も人のことは言えねーブサイクだしな。身体だけ立派だ。あいつらも身体を誉めると嬉しがり満足し、俺も気持ち良い。そして練習しまくった。


進級して三か月経った今、他校の一年生は一人ゲットしたし、あと一人くらいは欲しい。


ただなー。そろそろランキング上位と近づきたい。美人や美少女の具合が知りたい。この身につけたテクを試したい。


高一風情には負けねーよ。



そういう意味では藤堂にはムカつくな。どうせ、ラブコメ主人公ばりに鈍感でヘタレなんだろう。勿体ねー。俺なら天国に連れてってやるのに。残りの高校生活でワンチャン狙うか。


いや、ないな。


俺の小物センサーがビシバシ受信してる。こんな時は陰キャパシられボッチの経験が役に立つ。


関わっちゃいけない。ってな。


まあ今はそれよりボッチ女だ。出来ればランキング内にいてソロが良いが、だいたいはコミュ力高いやつばっかだし、カースト上位だ。だから当然連れか男がいる。



そういう人付き合いがそもそも出来ない女が良い。狙うは後天的美少女、つまり大学デビュー組だ。





いつもの食堂で飯を味わう振りをしながらの観察。



「…御手洗みたらい、えのる…2年C組…ランク外」



こいつ、いいな。ボッチだから笑顔が無いだけで、笑えば絶対上位食うだろ。


俺はそういう発掘も好きなんだよ。妄想ばっかだったけどな。なんせ先天的美少女は気後れしてしまう。


よくラブコメであるだろ? 俺みたいな陰キャで普通の外見のやつに美少女が! って。ないない。お前がそもそもイケてるじゃねーか。コミュ力たけーじゃねーか。周りの本当のモブと見比べろ。陰キャ界にくんな。


最近はモブの中にもいる。モブな俺が美少女と! なんてやつもいるが、モブにそもそも美少女はこねーんだよ。


本当に陰キャでモブなやつは美少女に気後れするし、そんな近くに居ると疲れるんだよ。


自己低評価舐めんな。四六時中ドキドキしてみろ、死ぬわ。だからブス最高。自己評価低い分、サービス頑張るし。俺もブサイクだから頑張るし。



だから陰キャ系アニメとか漫画は違和感がすごいんだ。一人語りの内容とお前の顔と声、合ってねーよ。ってな。



それはそうと、発掘だ。


そのためのテクをブサイクな俺はブスで磨いてきた。ただもう高三だ。そろそろ美少女か美人をいってみたい。


後天的美少女は最初から美人よりこっちのハードルも競争率も低い。


なんせ未来の大学デビュー組だ。まだ埋もれてんだ。これなら俺くらいの小物ブサイクでも主人公になれる。


願わくば、過去に誰か初恋してない事を祈ろう。思い出と争うのは不毛だ。勝てないしな。



御手洗えのる。高校二年、17歳。


ブランコに一人寂しく乗ってそうな雰囲気。黒髪セミロングのストレートヘア。左片目を長い前髪で隠し、黒縁メガネで目元マスキング。目は…多分大きめだ。鼻筋も美人系だ。存在感を感じさせないような小さな仕草。少し背を丸めてるのはわざとか? 多分ありゃでかい。良いね。それか過去になんかあったな。


あ、マスクした。普段はマスクか。あーウリしてなきゃいいけどな…


もしくはトラウマか。なら、ハートに巻かれた包帯をってか。じっくり解きに行きますかね。じっくりと。


そして最後に勢いよくチョキっとな。





放課後、御手洗えのるを尾ける。


学校であんな姿してるんだ。学校内で接点を持ちたくねーってこった。なら外だろ。


つーか、どこ行くんだ? 


天養で地下鉄乗り換えして、鎌田? …こんな工場だらけの何も無いとこに女子高生が用事…


……なんだなんだ。この危うい感じ…俺の小物センサーがビシバシ反応してる。


小道に入り、正面の真っ青な二階建ての建物の前で止まった。


「あ? グロース、鶴ヶ峰、大前女子、天養純心、…他にも…」


他校生…女子…しかもみんなマスクにメガネ…ぱっと見根暗そうな女ばかりだ…続々と集まってきたぞ…いち、に、さん……全部で11人…入っていった…


いくら色とりどりの制服が並んでもさすがに根暗そうなやつが11人もいれば異質だ。特に女子は男より周りを気にするから競い合うのが常だ。……同好の士、か?


いやいやいや、何の集会だ?! こえーよ!


いやいや、でも待てよ… さっきのやつら…御手洗えのると… 一緒だとすれば…


まさかこいつら大学デビュー組……後天的美少女ばっかじゃねーのか?!


………最高じゃねーか。



これ、斉藤ハーレム、きたんじゃね?



「……最高じゃん」



「…お前、誰だ? まあいい。死んでおけ」


「え?」


振り返るとマスクメガネの根暗な女が一人、俺の顎を蹴り上げた。この制服は……


俺は意識を手放した。

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