GB3 - 姫認定イベント
| 藤堂 京介
学校での昼休み。今日は食堂で食べよう。そう愛香に言われていた。
廊下を歩き、生徒とすれ違う度にいろいろな視線と小言を貰う。勇者だったからそういうのはまあまあ慣れている。
だいたいは自国の権威を格上げしたい王や領主の歓待だった。城塞都市なら外壁入り口から。城があるなら城の正門から。まあ、客寄せみたいなものだ。ご飯は期待できないからあまり乗り気ではなかった。けど、大教会がどうしてもと言うから、姫巫女達の立場も考えての参加が多かった。
そして、今見られるのは仕方ない。両隣の女の子が輝いているから仕方ない。
「あれが、一年の藤堂か。殺したくなる噂ばっかりだけど、本当かよ」
「というか、先週ギャルじゃなかった? 成瀬さん」
「今日は一転して清楚系か。メガネとか…」
「横の金髪なのに清楚な感じの子も、誰だ? そっちも良いな。」
今日の愛香は清楚系だった。太めの黒縁の伊達メガネをして、髪は黒髪に染めていた。若干緑色が混ざってる。
朋花も清楚系なのかしっとりしていた。少し低めのポニーテールに赤の細縁のメガネだった。いつもはコンタクトレンズで、お家ではいつも掛けているメガネだと言う。金髪なのに、何というかしっくりくる。
「京ちゃん。今日の愛香はどうですか?」
「可愛いよ。すっごく。でもメガネ姿は…小学校以来だね。うん、似合ってる」
「んふ、嬉しい…です」
「…愛香、あなた本当にすごいわね。ギャルも違和感なかったけど…」
「朋ちゃんも似合っていますよ。ね? 京ちゃん」
「うん、とても」
「んっ、そ、そう。嬉しいわ…」
今週は二人とも丁寧な言葉使いだった。制服もきちんと着こなし、靴下の魔物は履いていない。今日一日もこれでいくのだろう。
愛香は強化月間だよ。そう言っていた。何を強化するのか僕は知らない。強化して何をするのかも僕は知らない。
聞かない方が良いこともあるって僕はもう知ってるんだ。
そんな会話をしながら食堂に向かった。
◆
享和高校の食堂は結構広い。二階が体育館で、食堂は体育館そのままの広さだった。
未羽達は…いた。右手の壁側真ん中付近に未羽、由真、響子が陣取っていた。聖と瑠璃ちゃんはおしゃべりクラスメイトと中庭で食べるらしい。軽く手を振りながら近づくと、何やら由真がプルプル震えていた。
「な、な、成瀬さん! 被せないでよぉ! 初芝さんまで! 一緒になって!」
「あら、ごめんなさい……そんなつもりはなかったのですけれど…京ちゃんに見て欲しくって」
「そうですよ。それに私は元々ですよ」
「ん〜〜絶っ対! 当てつけだよ! しかもなんでチョイス丸被りだよ! 差がっ! はっきりしちゃうじゃんっ!」
由真はぷんぷん怒っていた。足もじったんばったんして。
由真は愛香と同じ太い黒縁メガネを今日は掛けていた。以前、メガネは日替わりランダムだよ、って言ってたけど、確かにほぼ同じ、というかこれ、同じメガネだ。
響子は身体をプルプルさせながら俯いていた。あ、笑ってるな。
「まあまあ、ぷっ、い、いいじゃないですか、…くくく、伊達眼鏡なんて所詮飾りですよ。そんな事で、くく、由真さんの個性は消えませんよ。ぷっくっくっ…」
「響子! 漏れてるよ! 隠す気ないじゃん! なに笑ってんの!」
「ぷくくく、笑ってま、せんよ。くっくく」
「……響子。愛香のやり口、知らないの?」
笑いを抑えられない響子に、未羽は呆れながらそう言った。僕はとりあえず未羽達の対面の席につきお弁当を広げておく。
愛香と朋花も隣に座る。
「ぷくくくっ……え? …未羽さん、それはどういう意味… あ、ああああ、それはカチューシャ! 成瀬さん! 何をする気ですか!」
「何って、ご飯をいただくのですけれど。髪が邪魔でしょう?」
「色まで同じじゃないですか!」
「せっかくですし、午後はこのままカチューシャで授業を受けましょうか。朋花さん、どうですか?」
「良いんじゃないかしら、愛香さん」
愛香はメガネを外し、白のカチューシャを装備する。これもほぼ、いや響子と同じカチューシャだ。
つるりとしたカタチの良いおでこが出てくる。
「あ、あああ──やめて、被らない…で、被らせないで……ください…歴然とした差が…浮き彫りに……」
「あはは、響子、カチューシャは飾りだよ。むしろおでこが出る分圧倒的に地力勝負だよ。まあ、頑張ってね。わたしは成瀬さんに喧嘩なんて絶対売らないから! だって! …だって、…だっ、て……小学校の時の…ことを……今…思い出し、たの……たしか…誰かと…同じ格好を… 一週間…まったく…おんなじ格好を…髪型も…服も…靴も…下着も…ヘアピンだって!……毎日被ってて…あれ? 偶然だね、なんて毎日…成瀬さんはニコニコして……言ってて……その…女の子は……たしか…日に…日に……気が……ふれ────」
「どうしたのですか? 浅葱さん。……何か……」
「──っひぃぃ! 何にもない! ないよ、成瀬さん! うん、ない! 思い出さ、ない! わたし! 由真、知らない!」
「……そうです…そうでした………まさかあの『本当に酷い目にあった怖い話!!』が自分の身に降りかかろうとは……」
由真と響子は俯きながら小刻みに震えだした。何か、過去のトラウマスイッチが入ってしまったようだ。
……みんなにとっては五年くらい前だけど、僕はプラス五年だからなあ…
たしかに、何かそんなような噂があったような…ドッペルさんとか、トイレ某さんとか…ノコギリ女さんとかの七伝説だっけ? そもそもあんまり男子にはその話は回ってこなかったような…
「狭川さんは……何か…」
「───ぁひぃぃ! わ、私は林組の、左の路傍の木! 姫! 無視してどうぞ! 弱気退散!」
「ゆ、由真は右の道端の木だよ! 姫様! 過ぎ去ってどうぞ! 弱気退散…弱気退散…弱気退散…」
響子と由真は、立ち上がり、二人でトンネルアーチを作りながらそう言った。ガタガタ震え、今にも崩れそうなアーチだった。
静かに立ち上がった愛香はゆっくりと優雅にそのアーチをくぐる……なにこれ?
あ、小学校の時の劇…のアレンジ、かな? 懐かしいなあ…っていうか、食堂の端っことはいえ、周りのみんなに見られてるんだけど…見られるのには慣れてるから僕はいいんだけど…まあまあざわざわしてるんだけど。
「いい木ね。いったい何姫にしてあげようかしら」
「愛香! ……もういいでしょ? さあ、ご飯を食べましょう。兄さんも待ってるわ」
「それはそうですね。待たせてごめんなさい。私の王子様。ふふっ」
「…愛香…このやり方、年季入ってたんだ……小学生で何してんのよ…」
愛香は満足したのか、カチューシャを外し、席に着いた。未羽と朋花は呆れている。由真と響子はまだアーチを作ったままだ。あ、崩れた。
まあ……いっか。
「…いただきます」
◆
「これが……姫認定イベ…"試練"だったんだ……響子。わたし…頑張るよ! 響子!」
「由真さん、今ちょっと黙っててくれます? 腰が…抜けて…」
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