GB2
| 藤堂 京介
一仕事終え、下出がオーリーに上がって来た。葛川一味の全貌が明らかになってわかったことは、だいたいこいつが悪いという事だった。
葛川達は、先週の金曜日辺りから出役の自覚が芽生えだし、率先して加害者たちをネコ役に変えていっていた。土日は大漁だった。
躾役の花屋は嬉しそうに伝えてくるから、その時は都度、意識を刈り取っておいた。具体的な話はいらねぇんだよ。
「藤堂きゅん」
「
「すみません、藤堂君。つい」
下出はクラスチェンジし過ぎて、僕をまるで狙うかのように接してきていた。
他の三人もだ。
この一週間、朝九時スタート、夜18時エンド残業アリアリの薔薇の狂宴の毎日。さすがに出突っ張りだと良いパフォーマンスが来場者にお披露目出来ないからと、平日の放課後や、来場者の多い土日は回復の魔法を四匹に使っていた。もちろん意識を刈り取ってからだ。
それが誤算だった。
なぜなら目覚めると僕が居て、何故か身体の疲れが取れている。それに何回かで気づいた下出が他三匹を扇動し出した。主に僕を崇めるカタチで。
最近はタコ殴りにしても叫び声に若干の艶が混じっているのがキツい。そしてそれに気づいた時が一番キツい。くそがっ
断頭台が欲しい。今一番四台欲しい。
どっか売ってないかな…
「…古タイヤが……真っ二つに……流石は藤堂……きゅん…バリカタァ…」
いや、さすがに勇者が悪魔な将軍の真似したら駄目か…
いや違う違う。
僕がするんじゃない。僕が落とすと落ちるシーンを俯瞰出来ない。やるなら一回で一気に寸分違わず四つ同時に、だ。
だから断頭台だ。四台だ。ロープは一箇所だ。
くそっ、売って無いか。
「下出…何?」
「今日の予約は全て終わりました。それで肩もみ──ぶへぇ♡」
「……」
「あふ、あへ…藤堂きゅん…殴るなんて…酷いよ♡」
「…語尾にハートをつけるんじゃ──」
「ご主人様! こっちよ! パフパフよ! 諦めないで!」
「あ"あ"っ! 長月ィィ!…先輩。 酷いぞォォ! 醜い駄乳を藤堂きゅんの顔に擦りつけやがってぇぇ!」
長月さんは、朋花に聞いたのか、よくパフパフしてくれる。下出と一緒だとだいたいしてくれる。むにゅり? この感じ……下着はノーだ。瞳はイエスだ。
違くて。
酷いのは下出、お前だよ。酷く醜いのもお前だよ。瞳の色マジだし…ネタじゃないのか。ネコなのか。このままこいつ、バリネコになりそうだな…くそがっ
しかも…殴っても色と艶を隠さなくなってきたな……駄目だ、長月さん。
タスケテ。
「あなたは何を言って… あ、ぁ、ぇ…やった…藤堂しゃん、ど、どうぞ、ん───」
「あ"、あ"、あ"、あ"─顎クイィィィ───長月ィィ! …先輩。 それは駄目だろぉぉぉ!」
「どうしたンだい、カズきゅん…あ"あ"あ"」
「早くどいてくれよ、カケルっち! 早く藤堂きゅ…きゅ、きゅ、きゅ──楓ェェェ!…先輩。 酷いじゃんよぉぉ──!」
「それはファンクじゃないにぇ───っ!」
続け様に葛川、上田、中田がオーリーに上がってきて奇声をあげる。揃いも揃って、くそがっ
ごめんね、長月さん。少し僕を助けてね。
「ちゅ、ん、れろ、んむ」
「あ、あ、あ、あ………これが……ネトラレ…僕らは、今までなんという絶望を振り撒いて……」
というか、女の子とのキスが一番効果的とか、断頭台がないこんな世の中でこの四匹をどうしたらいいんだ。
いくら人生が学びの連続とは言え、こんな事は学びたくない。もう僕も限界になってきた。早く学校を退学させないとこいつらの人生を退学させてしまう。
「ん、んちゅ、ちゅ、れろ」
「でも諦めないぞぉ! 諦めないんだぞぉぉ────!」
「カズきゅん…」
「へへっ、純愛とか、カッコいいじゃんよ…カズっち、応援するじゃんよ。な、ダイヤっち?」
「……それな…あぁぁ藤堂くぅん魔王スギィィ……」
そして今なら多分、とても地獄で鋭利な断頭台をしてしまう。斬り落とすイメージは出来てしまった。両足使うアレンジもだ。後はスクールバッグに目一杯詰め込んで出港だ。
つまり、殺害現場がオーリーで"檻"の上で、僕は檻の中。
……そんなの嫌すぎる。
だから。
──在れ、“フルアド"
──在れ、"タイダプ"
「ちゅ、あ………ふ───っ……素敵でした………ほぅ……────…あら? ら、ら、らぁ! みーなぎってきましたぁぁ!! ブタどもぉ! 四人まとめてお逝きなさい!!」
やってしまいなさい! 長月さんっ!
◆
僕は四匹をオーリーに残して長月さんを家に送っていた。最寄り駅まではおかしらに送らせ、そこからは徒歩だった。
「───それにしても…あんなに辛くって、いろいろ諦めて…友人関係もおざなりになって…行きたかった学校もやめて。本当、私どうなるんだろうなって思ってました」
「バスケ、だった? もうしないの?」
「……まだわからないです。もう高二ですし…けど、身体を動かすことはやっぱり、その、好き、だなって。だから前向きに捉えてみます。ふふっ。でも助けてもらって、生まれ変わって! 価値観、すっごく変わりました! 藤堂さんのおかげです!」
彼女はとても気持ちの良い笑顔でそう言った。
◆
小さな公園に差し掛かり長月さんがもう少しでお家です。そう言った時だった。
目の前に一人の男子高校生があらわれた。
薄茶色の髪、黒の学ラン、中肉中背、街の商人…の息子。村人レベル5、上田と同じくらい。そんな男だった。
「か、楓」
「知ってる人?」
「…幼馴染…でした……」
長月さんは少し身を固くしていた。幼馴染でした、か。ならこいつが悟りで見えていた。長月さんの───過去の絶望だ。
「君は?」
「森本だ。堅司だ。楓の幼馴染だ。…お前は?」
「……ケンちゃ、森本くんには関係ないでしょう」
「いいよ、長月さん。僕は藤堂だよ」
回復と悟りの魔法をかけていた時のことだ。過去、長月さんが絶望した瞬間。誰か男の顔が長月さんの瞳に見えていた。
「藤堂。楓は酷い目に遭ってて。昔から心配してたんだ。でも最近、昔みたいに戻ったから何かあったんじゃないかって、気になってここで待ってたんだ」
「……嘘。何にも心配してくれなかったじゃない…ケンちゃん…逃げたじゃない!」
「楓…俺は逃げてない。お前を守るために証拠を探してたんだ。ほら、見てくれ! この記事! これで楓を自由に出来る!」
それ、エリカの流したやつ…男子高校生が知ってるってことは結構広まってるのか…
「学校の廊下で……手を払い退けたじゃない。お家、隣なのに…私が目で訴えてもケンちゃん無視したよね…部屋に引きこもってても、知らないフリしてたよね。確かに…助けてなんて言ってないよ……でもね、ずっとね、ずっと助けて欲しかった。助けて欲しかったよ………」
「…楓。 ごめん! これからは俺が守ってみせる! だから!」
長月さんは僕の前に立ち、彼、森本くんと対峙する。僕に頼らずに、絶望を自力で乗り越えようとするのか。なら長月さんの頑張りを見届けようか。
「ううん、違うの……これなーんだ?」
「…? スマホ? 楓のじゃない…誰の……」
「あっは! まだわからないんだ……上田のよ」
「え、あ、あ、あ…なんでなんで……やめろ…」
「藤堂さんが葛川達をやっつけてくれたの。一応ね、心のどっかではまだ信じてたんだよ。ケンちゃんのこと。 ふふふ、あははは、は───っ。最近上田と連絡取れないから、ここで待ち伏せしてたんでしょ? 読もっか? ……動画ありがとう。今回も素敵な楓だった? 追加で金払うからそろそろ俺も一緒に混ぜてくれても良いだろ? だって。あっは。あはは。あはははははははははは────このゲス野郎」
「ち、違う! あいつらの場所を特定するのに…話を合わせて! 助けるために…信じてくれっ! 楓!」
「……ケンちゃん、今日私、藤堂さんと初めて結ばれたの! すごかった〜! あんなにトんだの初めて! ……その時のえっちなえっちの内容………聞きたい?」
「っ! ………………ごくっ」
「その顔でわかったわ……最低ね。二度と話し掛けないで。さよなら」
「ま、待ってくれ! ご、誤解なんだ! まだ見てない、まだ少ししか見てないんだ! 楓と一緒に見た──────」
あっ。こいつもう手遅れだ。
僕は森本の意識を刈り取った。
瞳の色、欲望と謀りが半々で明滅してたし。最後は騎士崩れ、山賊下っぱ、みたいな色だったし。
だから…多分最初は本当に助けたかったんだろうな。そして、いつの間にか歪んだんだろう。タコのせいで。
まったくあのタコは……あいつは手足も追加だ。バラバラだ。十日以内なら死なないって筋肉の悪魔な将軍の漫画に書いてた。
…やってみるか。
「はは…はは………バイバイ、ケンちゃん…昔から…好きだったよ………ぐすっ、藤堂さぁん」
「うんうん。よく頑張ったね」
タコ達がいなければ、本来は彼と結ばれるはずだったんだろう。気持ちが宙ぶらりんのまま、ここまで来てしまったんだろうな…なら、これでやっとスタート出来たのかな。
良かった良かった。
◆
「落ち着いた?」
「…はい…もう、大丈夫です。 漸く心の整理がつきました。正直、一人でケンちゃんに会う勇気なくて。あれを見てからどんな風に話したら良いのかもわからなくて……実らなかった初恋も終わらせたくて。ありがとうございました」
「気にしなくて良いんだよ…生まれ変われるよって宣言したしね」
「この公園、ケンちゃんとの思い出の公園なんです! だから……その…ちょっとだけ寄りませんか?」
「? それは構わないけど…」
「それと……ごめんなさい。その、結ばれたなんて嘘ついて…あんなにトんだの初めて!なんて嘘ついて…………ね?……嘘の嫌いな……ご主人様?」
「……嘘は……良くないね」
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