GB5

| 藤堂 京介



放課後、僕は一人で天養駅近くのファミレスに来ていた。チーズINハンバーグのお店だ。"檻"はおかしらと花屋に任せている。


上田と中田が随分とパフェを押すのだ。

なんて名前?って聞いたらロリパフェなんてはにかみながら言うから、殴っておいた。そして本当の名前は知らなかったから、とりあえずまた殴っておいた。


嬉しい悲鳴をあげていた。くそが。


いやなんか違うな……こんな使い方だったっけ?


まあいい。


僕は憂鬱なんだ。





「きょんくん」


「聖。こっちのクラスまで来て、どうしたの?」


「テスト勉強しましょう」


「あ… そ、そうだね。もうすぐ期末だしね。しないとね」


「? どうしたの? …ダメかしら?」


「ダメじゃないさ」





先週の事だ。四限と五限の間の休憩時間。聖とそう話して気づいたのだ。僕はいったいどれくらいの学力だったのかと。


五年前のテストの順位なんて覚えてなんていない。だから一緒に勉強しようにも、教えるのか教わるのかわからなかった。


だからと部屋を探すけど、テスト用紙がない。


調べると、どうも一学期中間テストの用紙は葛川達に破られていたようだった。


葛川達は泣きながら土下座して謝ってきたけど、ちょっとずつ四方向からずりずり近寄ってきたから目的はわかっていた。


くそっ。僕を狙う目的と合致した謝罪は瞳の色に嘘が混ざりにくいのが痛い。謀りの色が無いと気持ち悪い奴を気持ち良く殴りにくいだろ。大教会の神官を思い出す。くそがっ


なので、一人で闇勉するためにファミレスに来ていた。なぜなら家は家で、未羽がスンスン、スンスン近くでずっと嗅ぐから集中しにくいのだ。気づいたらテーブルの下から覗いていて、軽くホラーだった。


順位は多分愛香に聞けばわかるだろうけど、今日は帰りに寄るとこあるから、と言って居なくなっていた。


放課後は僕もオーリーに行くから愛香と一緒にいないことが多い。瞳の中は愛で溢れているから心配はしていない、けどなあ。


何かしてそうなんだよな…昼休みもいろいろはっちゃけてたし。こう、愛香特有の衝動というか病というか…


まあいい。今度聞こう。


今はパフェだ。名前は全然違ってた。



「お、お待たせしましゅた『ごろっと食べ頃ジュワとろ⭐︎マンゴーパフェ』になりましゅ」


「あ、ありがとう」



バイト、慣れたのかな? 商品名は滞りなく言えた。前回と違う。やっぱり成長って良いな。やっぱり僕もあげたいな、位階。いらないか。今は順位か。


おかしらの子分の子分に絡まれてた子だ。朗らかな笑顔とはにかむ表情が眩しい。



「あ、あの! この間はありがとうございました! 友人も助けていただいて…」


「ああ、気にしないで。僕もびっくりしたよ。あれから絡まれてない?」



「はい。大丈夫です! で、えっと。その…これっ!」



二つ折りしたアンティーク調の可愛い便箋を渡された。中には名前と連絡先とが書かれていた。



「名前と番号と…アド?」


「わ、わたしのでしゅ。です! 白崎と申します! 今度お礼したいので! 宜しければ連絡先の交換などなど! いかがでしょうか!」


「う、うん。お礼とかいいのに。言葉だけでも嬉しいよ。白崎さん、ありがとう」


「あ……そ、うですか…」


「これ、僕の。渡しておくね。でもバイト中に良いのかな? 僕は藤堂だよ。一応今送っておくよ。よろしくね、白崎さん」


「は、はい!」





パフェは美味しかった。少しお腹は気になったが、大丈夫だった。白崎さんはあれからコーヒーもおすすめでしゅ、と僕の席の前を通る時にさらっと言ってくれたので闇勉しながら飲んでいた。今回は何もなしのブラックだ。



反射をストロング0にし、家に向かって歩く。帰り道の途中にある川沿いの公園についた。


純や未知瑠とも良く来ていた割と大きな公園だった。


先週、純と未知瑠と三人で抱き合いながら少し思い出話をした。その時出てきた公園だった。


だから懐かしくなって足を止め、索敵を使い、中を除き込んだ。



そこにポツンと一人、女の子が立っていた。


スカートが少し短めの女子校生だ。


時刻は19時前。まだ完全に暗くはなっていないがすぐに暗くなるだろう。


だから松葉杖とか危ないと思うんだけど。


あと暗器とか危ないと思うんだけど。


そして、なぜ持っているのか全然わかんないんだけど。



……暗殺者かな? 公園に居るなんて渋いな…


だいたい細路地とか屋根上なんだけど。


決闘かな? …公園で? それも渋いな…なら一応見届けておくか。万が一とかあるかも知れないし。


脇にあるベンチに腰掛け、空を見上げる。


あ、ほらすぐ暗くなった。



月は朧げで存在感は無く、星を探しても見つからない。この暗い空を見上げながらアレフガルドに思いを馳せる。


あっちの空の思い出といえば、空一面の星の煌めきだった。それを背景に赤い大きな月と青い小さな月が浮かんでいた。ふいに思い出すくらい綺麗だった。


僕は見ていないが、豊穣の季節にその二つの月が重なった時、それを召喚の刻、と呼びます。そう聖女ルトワは言った。


僕が召喚された夜だった。


とても神秘的でした。あなたと同じように。彼女はそう言いながら微笑んでいた。それはまるでアレフガルドの夜の星の煌めきのように綺麗で、儚い笑みだった。



しんみりした感傷に浸りつつ、次の行動に移る。


一応ストロング0を解除し、もう一度、索敵の魔法を使っておこう。暗殺者VS暗殺者かもしれないし。


そう思った時、松葉杖の女の子がいつの間にか側にいた。


そして何故かカカト落としをしてきた。


暗殺ターゲット、まさかの僕?!


そういえば、肉体の枷も掛けていたことを思い出した。今は小六くらいだ。


索敵なし、反射なし、力なし。


あ、これもらいそう。


なら少しズラすか。


冷静に対処法を決め、ピンク。レース。サイド紐。そんな事実を確認しながら、



顎に蹴りをもらう。


瞬間、星が煌めいた。


なんで……あごだし…


そうして僕は意識を失った。





「ただいま、未羽……」


「連絡より、遅かったですね。ん?……スンスンスンスン………兄さんっ!」


「な、なに?」


「致した相手、連れてきてくださいってあれほど言ったじゃないですか! …これは…スン…今までの誰とも…違う……トップ…ランカーなのでは? スンスンスンスンスン」


「…………」



…僕今日誰とも致してないんですけど…


ホラーかな?

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