肉断つ5 - 満ちる
| 八文字 未知瑠
「ただいま…」
「おかえり、未知瑠。随分と遅かったわね」
「うん…ただいま、姉さん。久しぶり。母さんと父さんは? もう寝た?」
「…いったい何時だと思ってるの。とっくに寝たわよ。……未知瑠、それよりそのフリフリした格好は何? 今からライブでもするの?」
「…仕方なかったんだよ…あ、久しぶりに……稽古つけてくれない? 姉さん」
「…いったい…貴方に何が………うふっ、いいわよ。明日の朝一ね、うふふ」
◆
京介くん家で義妹ちゃんの長い長い匂い談義にそろそろ嫉妬袋がパンパンに膨らんだ頃。
純くんが突然こんな話をした。
『世界とパンツと思春期と』
世界=二人だけのラブコメ。
パンツ=私達。
思春期=京介くん。
そんな話だった。
詩乃んのブログにあった、魔女との話し合いの内容から、言い含めたのは魔女だ。
でもパンチライベントはみんなそれぞれ小学校で軽くこなしてるだろうし、なんで今更そんなことを……
つまり、
RE:パンツから始める私の恋愛生活、ってところかな。あれ? まさかしてない人いるんじゃ…ふふ、全員してると思ってた。
「どうだ」
「………い、いいと思うよー…」
「だろっ!」
……どうやら魔女は純くんの洗脳に成功したようだ。大事だから二回言うぞ! なんて言ってるから……いや、純くんだし簡単だよね。
「間違ってるわ、秦野さん。匂いは嗅ぐものであって、嗅がすものではないわ!」
「…何言ってんだ。一枚渡すだけだし、新品だぞ! 匂いなんかしないぞ」
……義妹ちゃんもすごいな。それにしても哀れな純くんを見ると、少し嫉妬ゲージが収まるよ。流石、円卓の癒し系。
それに『ギャルのパンティおくれ────っ!!』の伝説くらいは私も知ってる。七枚の脱ぎたてを渡すと願いが叶うという激ムズのあれだ。
一枚だけで、しかも新品なんて効果ないのに…ほんと哀れな純くん。
そのままおバカ可愛いままでいるんだよ。でも良い事を思い出した。ありがとう。
私もチャレンジしよう。
ふふ、伝説は新曲と同じで、丁寧に読み解かないと理解出来ないよ。表層だけ撫でても駄目なんだよ。
純くんはそうやって秦野流みたいに幻惑まみれにでもなってればいいんだよ。
「そ、それにしてもミッチが兄さんと同級生だなんて。まだまだ聞かせてください」
義妹ちゃんも純くんの
「もちろんだよっ!」
◆
天養市にいるとどうしてもエリカちゃんの影響が強いから、京介くんを夏休み中のライブの時にご招待して天養から出てもらい、私とナナちゃんとで私達の街を案内する計画を秒で立てた。
今日訪れたのは、その為の布石。
だと言うのに、海子の十徳ナイフに秘策を丸裸にされるとは思わなかった。応用まで含めて全て正解だったんだけど…。丸裸にされた策をそのまま使うのは沽券に関わる。
ライブのハプニングでもこんなに心を取り乱したりしないのに…この十徳ナイフめ…海の底に沈んで錆びてればいいのに…
何かないか、何かないか…
「あ、そうだ。みんな、アイドルになってみない?」
◆
八文字に生まれた私は姉に全てを押し付け、都会に出た。家の都合で京介くんと結ばれないのは嫌だった。
血のバレンタインの時、歌とダンスを褒められた。幼い頃からフリフリした可愛い格好に憧れていたからほんとに嬉しかった。
自分磨きももちろんあったけど、憧れていた芸能界で結果を出す事が、後々私を自由にするはず、そう思って京介くん断ちをし、頑張ってきた。
そんな中、中学三年の夏休み。突如として姉さんがツアーに付いてきた。その時のあの鋭い目線。
『未知瑠、芸で遊ぶのはやめなさい』
姉さんはそう言った。歩法が合わないのもあるけど、確かに全力は出していない。真白にも芹愛にも合わせないと駄目なんだよ、一人じゃダメなの。三人でアイドルなんだから。
暗に姉さんの信じる八文字を否定しながら本音を姉さんに言った。
その二人に合わせる為にと抑えた動きに、一上一下が信条の八文字にとって、停滞し、遊んでいるように見えたんだろう。
私にとってはこれも八文字なんだけどな。
そのツアー中はずっと私にプレッシャーを掛けてきた。姉は、私を諦めていなかった。
アイドルではなく、古流の方だ。
姉は昔から私の才能を信じていたのだ。
最初は自分が継ぎたくないからそう言うんだって思ってた。
小さな頃は仕方ないかな、なんて思って従っていた。ビビりだったし、姉に強く言われると言い返せなかったし。
それを変えてくれたのが京介くんだった。
夢を後押ししてくれた事は今でも忘れない。だから、まだまだ頑張るんだ。
それに、芸能界は一年程度の経験だから、そこまでいろいろ知ってるわけじゃない。まだスタート地点だ。そして、私はナナみたいな天才と違い、ソロでなんて無理だ。だから真白と芹愛のおかげなんだ。
◆
泣き虫ナナナ。
聖ちゃんやエリカちゃん達はそう思ってる。けど違うよ。
泣く振り姫のナナナ、だよ。
名付けたのは愛香ちゃんだ。
愛香ちゃんが姫と名付けたらターゲット認定された証だった。上げて落とす。愛香ちゃんのいつもの手口だった。でも、才能を認めているからこそ名付けていた。
聖ちゃん達は騙せても、私や純くん、愛香ちゃんは騙せない。それに永遠ちゃんだって。だから対した事ないなんて最初は思っていたけど、大衆を見事に魅了していた。
あの小学校での演技力は本物だった。
だから幼い頃から憧れていた芸能界を短期間にも関わらず破竹の勢いで有名になったナナを私は尊敬している。
今はまだメイドのダウンロードが済んでないらしい。意味はわからないけど、ナナとならシェアも大丈夫だ。
昨日、詩乃んのブログを見た時のどうしようもないゾワゾワした感じ。京介くんと遠く離れたことの寂しさが一気に膨らんだ。夢を簡単に諦めてしまうほどに。
なんてったって魔法使い様なんだから。
まあ、一夜経ってちょっと冷静になれたけど。昨日、真白と芹愛は二人とも何故かマジックで嘘の目を描いて死んでいた。まあ、ライブ、頑張ったもんね。そりゃはっちゃけるか。お疲れ様。
そして今日。
たとえ私達を煽り、その結果何かを得ようとする詩乃んの策だとしても。天才ナナと勝ち取る未来の為に!
私は今日ここに来たんだ!
「アイドル姿…ぷっ、似合うよ、純くん…」
「…未知瑠。こっちを見ろ、こっちを。つーか、見てから言え!」
純くんに衣装を貸して、着てもらった。まあ、似合わなくはないかな。胸ぶかぶかだけど。
そうだよ! 頭残念な純くんなんかに私達は負けないよ!
◆
「ただいま」
「京介! 〜〜こんな格好、見るなぁ───っ!! あべしっ!」
あ、京介くん! 京介くんだ! 久しぶりに対面したからか照れて動けない! しかもずーっとおかずにしてた人。ちょっとすぐには動けないよー!
「あ、ごめん、つい殴って………えっ、…純か?! えっ、女の子?! えっ、この格好…まさかアイドル?! ああああ、久しぶりに会えたのに、大丈夫!? 純! 純!」
「……これ、ミッチの策、丸被りじゃ…」
「…お嬢………大きくなって……ぐすっ」
純くんは死なぁす! 時は満ちた! 秦野と戦争じゃあぁぁぁぁぁ!!
「コロコロコロコロコロコロ………」
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