肉断つ3 - 真白の受難
| 明雪 真白
ワールドマイン。
私、
他の事務所から移籍してきた私とセリアが未知瑠に運命的に出会い、スタートした。
初めて会った時の未知瑠の透き通るようなボーカルとキレのあるダンスに私とセリアは愕然とした。小さな頃から歌と踊りを習ってきた私とセリアが、中学から始めたという未知瑠に、最初は二人してとんでもなく嫉妬していた。けれど、稽古の最中の鬼気迫る練習姿に、いつの間にか目を奪われていた。
そんなにNo.1アイドルになりたいんだ。
小さい頃からの稽古にいつしか惰性でこなしていた事に気づいた私とセリアは心を入れ替えた。未知瑠に追いつきたい! この子を支えたい! そう思うようになり必死に稽古を頑張った。
それからは快進撃の始まりだった。いろいろな場所に呼ばれ、ライブを行い、ファンがつき、ついには若手No.1と呼ばれるようにまでなった。でも、まだ。まだまだ未知瑠はこんなもんじゃない。
同じ高校に入学してからは毎日のように会うことができるようになった。必死に稽古をこなし、三人の絆を確かめあっていた。
今日は春先から続いてきた全国ツアー地方公演、土日の2デイズライブのラスト。
圧倒的パフォーマンスの未知瑠に置いていかれないように必死だった。この週末、何かあったのか、いつもよりすごく良い表情で歌っていた。
そんなライブを終えて、興奮が一息ついたところで気づいた。
未知瑠、ミッチがいつものライブ後と違い、放心している。
確かに、今日はミッチの地元に近い場所でのライブだったから……気合いが入り過ぎた?
「ちょっと、ミッチ、大丈夫? まあ今日のダンス、かなりキレてたものね」
「は──────────っ…」
「随分長いため息じゃない。そんなに? 確かにいつもよりキレてたけど…にしても、何かあった? 干物みたいになってるわ。はい、スポドリ」
「う───ん、マッシ〜マッシ〜」
「おーよしよし。今日もバッチリだったわ! すっごく良かった! 何かあった?」
ミッチはほんとに可愛い。透き通る白い肌、ぱっちり二重に大きな黒目。髪色は亜麻色のように染めていて、まるで天使だ。同性の私でもドキドキすることが多い。抱きしめてあげると、すべすべの肌にミッチの汗と制汗剤の匂いが混じった、なんとも言えない匂いになって、私、もうこれは……
「……抱かれたの」
……突然何を言い出すの。
抱かれた? 抱かれたって、アレの話?! ミッチが?! え! ファンとかじゃないわよね?!
「…え、何何? ミッチの話…じゃないわよね?」
「違う……友人四人が、私の、好きな人に」
……突然何を言い出すの。
クズと被害者の話?
私達の歳で興味無いと言ったら嘘になるけど、そんな危ないクズに友達が…それは放心もするわね。…かわいそう。はぁ良い匂い…よ、よし、ちゃんとフォローしないと!
「…お友達がクズに引っかかったの? 最悪ね。そういうどうしようもないヤツに引っかかるなんて。そのお友達は大丈夫なの? そうね、そのクズはすぐに晒しましょう! ミッチもそういうの、その、気をつけよう、ね? アイドルなんだし! それにミッチはすっごく可愛いんだから…それに私はミッチがその……ミッチ? 何をブツブツと……」
「羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい……」
「まさかのクズ容認派?!」
そっち?! いくらミッチが世間知らずとはいえ、そんなクズを…もしかして本気じゃないでしょうね!? ダメダメダメ! いろいろダメに決まってるじゃない!
「ダメッ! 絶対駄目よ! それにミッチは逸材なんだから! ミッチは、未知瑠は! 私達は! まだまだこれから上に上がれるんだから!」
「………辞表、どうやって書けば良いか聞いてくる」
そんなに!? 嘘でしょ!?
「ひえっ! 何言ってんのっ! あ、コラ待ちなさいっ! ちょっと誰か! ミッチ止めて! くっ、コイツ一番ダンスキレてたのにまだこんな余力がっ! ちょっと待ちなさいってば───────!」
◆
他の控室に行っていたセリアを呼び出して手伝ってもらい、なんとか楽屋に連れ戻した。なんでこんなに……
クズが私達のミッチの邪魔してんじゃないわよ! 絶対許さないんだから!
「んで、その京介? ってクズがどしたって?」
「マッシー、ミッチーをそんな責めない責めない。まずは聞きましょうよぉ。……面白そうだし」
「セリア…あなたね…」
セリアはあまり真剣に捉えていないようだわ。何だったら茶化す気満々だし。もう、さっきの見てないからそんな事言えるんだわ! 目がもう血走っててなんというか、そう、危うかったんだから!
「………クズじゃない… 京介くんはクズじゃないの! 私がここに立ててるのは京介くんのおかげなの!」
「………マッシー」
「………セリア」
いや、そんな事言われても…あんなに努力してたのミッチだし、そのクズのおかげなわけないじゃない。それにミッチの友達4人となんて……セリアと目を合わせてシンクロした気持ちをミッチに伝える。
「「いや、クズでしょ」」
「…もう…駄目ね…私達………解散だよ…方向・性の違いだよ」
「いやいやいや、ミッチ騙されてる! その方向性の違いって意味違うでしょ!」
「でもミッチーがこんなに取り乱すなんて…芸能コースの先輩の告白とかいつもバッサリじゃない? そのミッチーが…? ね、その京介くんのこと、もっと教えてくれない?」
確かに、入学してからの三ヶ月、ミッチはひっきりなしに告白されていた。中でも同じ芸能コースの有名人、浅倉春馬にも告白されていた。ミッチは、あ、そーいうの興味ないんで。なんて言ってばっさりと切り捨てていたから恋愛なんて興味ないと思ってたし、何だったらわ、私のこと…なんて!なんて! でも大丈夫かな…噂では相当酷いやつって聞くけど…いやいやそれより解散だなんて!
……ん? また何かブツブツと…
「…京介くんと初めて出会ったのは小学校一年生三月二十五日の六時頃で私達の街は山を削って谷を埋めて出来た住宅街で小学校に上がる頃にお家買って越してきてみんな他所からきた子ばかりで私のお姉ちゃんはいつも私に男の格好させておじいちゃんとこの稽古に連れていっててある日同じ頃に引っ越してきた男の子達に薄暗い寂れた神社に連れて行かれたまま置いてきぼりにされて心細い私の手を引いてお家まで連れてってくれて…」
「早っ! こわっ! …でも割と、まともな? 出会い方だけど…」
「し! マッシー。ああ、ミッチー、続けて続けて」
◆
「──だからその時思ったのそれで小学校二年生のクラスの劇でわたしは──」
「ね、マッシー、初恋いつだった? セリア多分まだなんだけど」
「そ、そうね。セリアと同じで小さな頃から養成所とかオーディションとか受けてたし…まだなかった、かな。でも最近…いや、なんでもないない! でもミッチ見てると…」
「これが……拗らせってやつじゃない?」
「うん…そうだと思う……私、気をつける……」
「─その花瓶の花を替える時に京介くんは言ってくれて──」
◆
まだまだミッチのソロライブは続いていた。正直決定的な出来事は無かった、と思う。というか長過ぎてどの辺りで恋が始まったのか、どこに爆弾が埋まっているかわからない。いい加減ここを撤収しないといけないと思うけど…
「───で校外学習のとき怖い崖の横を歩かないといけなかった時に肩を抱き寄せ──」
「セリア、ちょっとセリア。いい加減あなた止めて。いくらなんでもライブ後にこれはキッツいわ……ん? セリア? あ、こいつマジックで目を描いて! 古い! ───ああ! そうそう! ミッチ! ミッチ! そ、その、友達がそんな事になってるのに、ミッチは何も思わないの?」
「? 羨ましいだけだけど? ちゃんと聞いてた? 人の話。仕方ないなあ。じゃあもう一回最初からね」
「! いや! わかった! 待って! わかったから! じ、じゃあ、その……ミッチは嫉妬とか……ないの?」
「……ふふふふふ。
「…コロコロする? …ナナ? ってもしかしてナナナ! マジなの! ちょっとミッチ紹介してよ! 私もあの映画見たの! ガチヤバ! 素敵だったわ〜!」
「? いいけど…ナナ、リモートでも良い? うん、切り替えるね」
「あ、私、未知瑠と同じワールドマインの明雪真白です! あの映画、見ま、し、た…あの、あれ? ナナナさん、ですよね?」
うわ。本物だ! ミッチには幼馴染って聞いてたけど、はー可愛い。アイドルとはまた違った透明感っていうか、お人形さんっていうか…無表情っていうか……目だけが血走ってるっていうか………まるで死体みたいな感じ、の人、だったかな……
「ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様…」
「あ、ナナもさっき知ってさ。羨ましいから仕事辞めるって」
「なんですと! まさかのクズ推し?! ナナナさんも!?」
ナナナさんまで!? 何そのクズ! 許せない! 正直、人の恋路に文句はつけたくないけど、ミッチの匂いと解散もかかってるんだ! これは目を覚まさせないと!!
「ご主人様ご主人様……あ"? クズですって? ───すり潰しますよ?」
「マッシー、いろいろお別れだね」
駄目だ! 目がガチクソヤバい! 怖い! これはミッチと同じだわ! これは絶対洗脳に違いないわ! でも今はそれじゃないわ! 嫌われたくないし、取り繕わないと! どうしようどうしよう! あ、そうだわ!!
「あ、あ、ああ推しの、推しの子! です!ミッチ、推しの、子! あの、ナナナさん! 京介さんの話、聞きたいなーって」
『キルキルキルキル───あ、ご主人様の話ですか? 仕方ないですね。あれは小学校四年生での体育祭の練習の時の出来事でしたご主人様が─────』
「そうそうあったあったあの時純くんが愛香ちゃんに勝負挑んだけど周りの根回し済みの──」
「……」
なんとかなったけど…これ、まだまだ続くんじゃ…もう心も身体もヘトヘトで限界なんだけど…あ、あ! 足が! つるわ! 足がっ!
ナナナさんに話を合わせ、適当な相槌をしながらチラッとセリアを見る。
黒マジックの嘘目にイラッとした。
「ぐ────、ぐ───、ぐえっ!」
とりあえずセリアのお腹にエルボーして起こす!
あんたもスリーデイズを防ぐのよ!
「あなたも聞くのよ! 起きなさいセリア! セリアァ!」
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