肉断つ2

| 秦野 純



「あ、でもやっぱりまずは着替えましょう」


「なんでだよ」



気分が盛り上がった時にまた萎えさせやがる。いっつもストレートに行かせない。なんなんだこの海子の次女は!それは試合でいいだろ! 長女を見習え! つか、試合でやれ!



「いいですか、藤堂きゅんはまずお嬢のことを…」


「俺のことを…?」



「女の子だとは思っていませ痛い痛い」


「なんでだよ」



ついハーフアップツインテを両手で掴み持ち上げてしまう。純なんて女の名前だろ?純情、純粋、純愛、その他諸々、女に決まってんじゃねーか。



「酷い…髪が…もう! いいですか、昔のお嬢、そうですね、チョコをあげた日にしましょう。その時のこと、覚えてますか?」


「そりゃあ、お前…へへ…覚えてるに決まってんだろ…だっはー! 言わせんな!」



お前、やめろよ、照れるじゃねーか! 急にそんなこと言うなよな! つい殴っちまったじゃねーか!



「痛い! 照れ殴りはやめて! 昔の暴力系ヒロインですか! もう! お嬢はどんな格好でしたかっ?!」


「悪かったよ。怒んなって。…どんなって…短パンで」



「デニムのですね。あとTシャツと野球帽」


「…そうだな。へへ、懐かしいな」


「髪は?」

「黒くて短かったな」


「肌は?」

「黒く焼けてたな」


「胸は?」

「…無かったな」


「膝は?」

「……擦りむいてたな」


「絆創膏は?」

「………いっぱいだったな」


「鼻は垂れてました」

「垂れてたな…いや、ねーよ! あれ? 垂れてなかったよな?」


「そんな子を見かけたら、男の子と女の子、どちらに見えますか?」


「……………女の子」


「はい嘘はっけーん。足、四半歩分下がりましたよ。そうです。紛うことなく少年に見えます」



そういえば、肩組んでたの俺と未知瑠だけだった…あとは、愛香くらいか。あれ? でも愛香は……



「俺、男と思われてたのか…ならそれこそワンピで良いだろ!」


「はー…。良いですか? これはアドバンテージで溜め技です」



またわからない話を斜め上から持ってきやがる。だから試合でやれ! そういうのは! まあ、技とつくなら聞くけどさ。


「溜め技だと?」


「そんな何の策もなくワンピ着ていったら、あ、女の子だったんだ、へー、で終わるでしょ? ドッキンコしますか?」


「…しない、かも、しれない」


「かも、じゃなく、しません。全然しません。しかもそこからスタートしてエリカ嬢や聖嬢に勝てますか? だから逆を取るのです。長年男だと思われていたことをアドバンテージにして。つまりなんの気概もなく近寄れます。そして女を匂わすのは、幻が晴れるように少しずつ、肉を断つのはわかった瞬間。──秦野の極意は?」



霞一殺かすみいっさつ…」


「そう、まるで幻惑のように誘い込み一撃で仕留めるのです。あなたの得意技です。幸い藤堂きゅんとは学校が違う、エリカ嬢は他の方の話は藤堂きゅんに漏らさない。つまりなんと!! 『え? 男だとずっと思っていた幼馴染が成長したら実は女の子だった?!』 が使えるので──あだっ! 何するんですかっ!」


「なんなんだそれは! 長すぎなんだよ! だからワンピ着ていったらい…その可哀想なやつを見る目はやめろ!」



お前の話もそのタイトルと同じで長いんだよ! もっとシンプルに言え! 手が出るだろ! そしてそんな目すんな!



「おバカ! いいですか! 最終的にバレる瞬間に策は打ち込むんですよ! 試合でもそうでしょ! 初手から手の内を明かして良いのは強者だけです! ……さて、お嬢。あなたは恋愛というフィールドでの死合いにおいて、強者足り得ますか?」



ぐぬぬね…はー、こいつの言う通りだ。試合に例えりゃそうだ。つーか最初からそう言えよ! 説明ヘタか! でも恋愛試合か…



「…ねえ。…どうしようもなく、弱者だ…」


「良い子です。なんで試合に例えたらすぐ素直になるのかは置いておきますがっ! ですから打ち明けるのは最後です。向こうにじわじわと気付かせながらレッドゾーンで! カリカリする! だから溜め技。わかりましたか? ふふん、これが弱者の戦い方です」



「……お前、よえーもんな」


こいつ、なんでこんなに考えられるのに、試合になったら堪えられないんだよ。すぐ特攻かましてきて美味しい餌になりやがる。



「あ、あ、あ、あ、あ、言ってしまいましたね! 言ってしまいましたね!! 言ってしまいましたね!!! 純ちゃん!」



あ、しまった。腹立つからつい言っちまった。ネリア姉、こっから長かったんだ。しゃーねー。精一杯謝っとくか。



「めんごめんご」


「それ絶対謝ってないやつぅ! もう! せっかくネリアが策をネリネリしてあげたのに! それにネリアは決して弱くないし! ツールがあれば純ちゃんに負けないしー! 海子一族舐めんなよなーああーん?! 刈り刈りすんぞごらー! ていうか、純ちゃんが素早いゴリラなだけ! アタマん中筋肉ダルマなだけ! 身体が男女なだけ! お尻のあ痛い痛い痛い痛い痛い痛い───────!」



「おい…ケツの話はやめろ。…肉、断ちたくなるだろ?」


「しゅみ、ましぇ、ん───けど、私は、カワイイと思います────っ、ぶはーっ、はーっ、はーっ、はーっ、もう! お嬢! こめかみとっ! 喉をっ! 同時に締めるのやめてくださ、い……お嬢?」



「…かわいい、か? お尻のやつ」


「? はい、もちろんですけど…?」



嘘は…言ってなさそうだな。 かわいかったのか、お尻の痣。昔から気にしていた。京介には一度見られた事が……あったような…



「よし。お前の策でいこう」



しゃーなしで乗ってやるとするか。ネリア姉の策。しゃーなしだぞ!



「………急になんなんですかっ! ネリアの説明の時間、返して! ほんっと刈りますよ!」


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