肉を断つ少女

肉断つ1

| 秦野 純



高校からの帰宅を終え、さくっとシャワーを浴び、さっと着替え、颯爽と俺は家を出る…寸前で捕まっちまった。



「お嬢、お嬢、お嬢ってば! 待ってくださいってば!」



引き止めたのは海子かいこネリア、俺の昔っからの付き人だ。肩口より少し長い銀髪をハーフアップツインにし、フニャっとしたカワイイ顔にボンキュボンの身体。ちっ! とりあえず取り繕うか。



「あん?」


「ランペイジのお嬢ちゃんに今日は止められてたでしょう?」



今一番聞かれたくない事を…



「ちげーよ。ちっと出てくるだけだ」


「嘘ですね。なんか足取りがソワソワして乱れてます。何するんですか?」



確かに。俺とした事が気が急いていたのか。いや、普通は誰も気付かないが、ネリア姉には見抜かれるか。



「あー、そのなんだ、俺の勘だ」


「でた。お嬢の俺の勘。当たった試しないじゃないですか。きっと大ハズレしますから大人しくしておきましょ?」



「…胸騒ぎがするんだよ」


「ふはっ、胸騒ぐほど無いじゃな…あだ!」



あるわ! 絹子よりあるわ! だからひとまず安心している。でもこいつの胸デケーからな、とりあえずグーだ。



「ふん。だから…円卓行くだけだって」


「…もう、すぐ手が出る…ならなんで一回帰ってきたんですか」



そこはお前、突っ込むなよ。

こいつはいっつも先手を取る。だから試合で俺に勝てないんだよ。



「そりゃお前……」


「しかもワンピなんて着て……まさかっ!」



「はっ、気づかれちまったか………そう…」


「ソロ美人局?! お嬢が? うはははははって、そんなのまず誰も釣れない釣れな痛い痛い痛い痛い────」



「あ"あ"ん? ちげーよ! 京介に会えるかもしれないだろ! ふん!」


「はー、はー、はー、もう! すぐアイアンクローはやめてください! ゴリラ並みなんですから…でも今日はやめてください。ランペイジのお嬢ちゃんがしつらえてくれるんでしょ? あの子、自分の策を潰されたら怒りますよ」



そうじゃねーんだ。あいつの策に乗ることが危険なんだ。願いは叶うだろう、けど、な。



「……今日のエリカ見ただろ! くそっ」


「あー、なんかお花畑でしたね。詩乃嬢、口の端から血、流してましたし。エリカ嬢、気付かずまだまだ踏み抜くし。普段一番冴えてる人が周りの見えないポンコツになると、まあ、悪夢ですね」



ネリアはうちの高校の三年生だ。学校帰りには俺の教室に来ることが多い。今日のエリカは酷かった。詩乃…かなりキレてたな。あいつの今日の京介日記はドス黒くて直視できないだろうな。


明日がこえーよ。



「そうだろ! 何が、黒子の数、教えて差し上げますの、だ! 何が、ソプラニーノくらいの長さだったかしら、だ!」



そんな長いわけねーだろ! 24センチだぞ!武器か! 戦えちまうだろ!



「浮かれてますね〜 そんな事学校でバレたら問題でしょうに。派閥も食い破られますよ」



まあお嬢学校だしな。

それに、エリカの和光、一つ上の先輩の雨宮あまみや、二つ上の先輩の火威ひおどし。大きくわけて学年をきれいに跨いだ三つの派閥がある。

まあ、家の力だからと、本人達は気にしていないやつばかりだ。ただ、蔑ろにも出来ないのが厄介だ。うちの秦野はたのもなあ…



「まあ、そんな事はいい。…すっかり忘れてたよ。俺たちはかつて、敵同士だったってことを…」


「お嬢…」



「よし! 京介んち、やっぱり乗り込む!」


「やっぱり円卓じゃないじゃないですか。でも行って何するんです?」



「ふっふー。聞いて驚け、プレゼントを渡すんだ! 丸めて開いてドン、だ」



魔女が良い事を教えてくれた。ふっ、敵に塩を送るとはな。ほんと馬鹿ばっかりだな、魔女。



「丸めて? 開いて? …ドン? ……おなら?」


「ちげーよ! パンツだ! パンツ! 何言ってんだお前は! 下品か!」


「お嬢の方が何言ってんですか! 下品なのはお嬢でしょ! パンツ渡してどーするんです! バカだ! バカがここにいる! ね…お嬢? その、ランペイジのお嬢ちゃんに任せましょ? ね? お嬢が動くと碌なことにならないですって、ね?」



なんでだよ! 世界に刻むんだぞ! パンツが! 俺と京介を!



「…そのかわいそうなやつを見る目はやめろ。……いや、だめだ。これは……陣取りだ。このままだと最終的には絹子にやられる」


「…俺の勘ですか?」



違う。死合いと一緒だ。俺の本能が告げている。



「いや、俺の……本能だ。…愛香が現れた時に似てる。愛香は内に、絹子は外に広げている、ただその違いなだけだ。昔はその本能を無視したから愛香にやられた」


「むむ…。本能なら仕方ないですね。はー。わかりましたよ。私も藤堂くんに、ここ継いでほしいですし。それに………おこぼれ…欲しいですし」



「てめっ、はー…まあいい。なら付き合え」


「喜んで! あー、あの子いまどうなってるのっかなっ? 可愛く成長したのっかなっ? あ、かっこかわいい系かなっ? お姉さんにはっ! たっまりませんっ! ………じゅるっ」



あー、そうだ。こいつ年下好きだった。ネリアもおかしいが、こいつの三つ子の姉妹もそうだったな。血か。



「…やっぱ一人で行く」


「お嬢、お嬢、お嬢ってば! 嘘です! 二番でも三番でもご一緒でも大丈夫ですって! 待って待って〜 あ、縄、縄。縄要りますよね!」



「要らねーよ! どこの世界に好きな男のところに縄持ってくやつがいんだよ!」


「ラブコメ漫画には以外と出てきますよ〜縄。それに…策は多くないとランペイジのお嬢ちゃんに負けますよ〜!」



「…そうなのか? 負けるのは嫌だ…」


「そうですよ〜 それに…お忘れですか? 昔々、円卓のメンバーが悉く渡せなかったチョコを渡せたのはいったい誰のおかげでしたか〜? はい、この私、ネリアお姉さんのお陰です! もう大人なんですから、まずは縄。そして縛って既成事実です! ラブはその後でしっぽり育めばいいじゃないですか〜!」


「それは…そうか、そうだな! 待ってろよ! 京介!」





「ぬふふふ。お嬢はおバカカワイイですね〜そのチョコのせいで、多分まだ誤解解けてないと思いますけど。待っててくださいね、美味しく実った藤堂きゅん。お嬢を困らせるワァるい男の子は青いうちに綺麗に刈り刈りしましょうね〜」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る