骨折り5 - 眠らせ姫
| 永瀬 永遠
………わたしは今、何を見せられているんだろうか。
「こんにちはぁ、お兄〜さぁん」
「…?!…おぉ」
「今ぁ…お暇ですかぁ?」
「……ぁああ! 暇だよぉ〜〜。キミ…可愛いね、いくつ? その制服…大前付属? 名前は? 何年生?」
「えっとぉ、わたしはぁ〜…」
物陰から覗いた先にはターゲットの中田大也と小学生コスの女。
中田大也は、わたしからすると有象無象でしかないけど、所謂、クール系イケメンらしい。そいつが小学生コス相手に蕩けながら早口で話しかけている。はっきりいってヤバい顔だ。
チラリと横にいる絹ちんを見る。かつて、こんな顔を彼女が見せたことがあっただろうか。
いや、見たことないよ。見たことない形相で歯をギリギリさせ、悔しがってるよ。
はっきり言わなくてもヤバい顔だし…
小学生コスで悔しさを滲ませながら、同じく小学生コスの相手を睨んでいる。
なんなのこいつら…
◆
絹ちんが言うには、策をパクられた。らしい。しかもニコイチなこっちと違って、あっちは一人で完結しているという。
「お姉ちゃん、どっちが可愛い?」
…魔女れんれん。
「やっぱり偽物はダメね。ね?お姉ちゃん」
…そいつが小学生の格好をしている。しかも、お嬢様学校の制服だ。こっちは市立。品が違う。
「アイテムで誤魔化すなんて、はっ」
そう、ランドセルは薄茶色で、ピカピカだ。言われなければ中学二年なんて信じれない。なんでそんなアイテムまであるの…
そして、魔女随一の猛者らしい。
小柄だからかスピードは一級品で、あいつに捕まれると逃げられないくらいの握力と絞技で落とされるという。
服を着ていたら終わりらしい。
「服着なきゃ楽勝だよ、お姉ちゃん」
いや、楽勝、じゃねぇよ。そういう問題じゃねよ。どんな戦いだし。企画モノじゃねーか。ヌルヌルしてるやつじゃねーか。
しかも誰がニコイチだし。絹ちんが弱っちいせいじゃん、って言ったら、お姉ちゃんは機械に弱いからイーブンじゃない! なんて返された。
つか、まだその設定やるの…。
もう、そいつに任せたら良いじゃん。
「これ……見る意味ある?」
「しっ、待って、お姉ちゃん。まだあいつ、顔が緩みきってない」
「…」
「ふっ。所詮紛い物だよ、お姉ちゃん。撮れ高がまるで足りてないよ、ウケる」
「…」
「絶対近くに撮ってる魔女がいるよ、お姉ちゃん」
「…」
「私も行ってくるから。あんな紛い物コスになんて負けないから。お姉ちゃんはここにいて。絹子を見てて」
「えっ?………あっ」
呆けてたらいっちゃった……。
なんで小学生の格好でならいつもよりガンガン滑らかに喋れるの…もう、ツッコミもしねーよ。
しようとしている事はわかる。多分普通にボコっても治ればおしまい。またこいつは普段を普通に過ごすんだろう。聞いた話じゃ殴る趣味があるらしいから当然負けたこともあるだろうし。
女の子に殴られたところだけじゃ同じジャンルだからダメなんだってさ。
だから別ジャンルでまずこいつのクールな面を剥がしてイメージダウン素材回収してから後にボコる。
詩ちんのプロファイリングでは、どうやら一応こいつはクールキャラぶっていて、幼女趣味は流石にダメなことくらいはわかってるらしい。事実、周りに人が居ないからと饒舌に口説いている。
そして、京くんが暴行されたシーンを四匹たちの情けない格好でレイアウトまんま上書きする。ってエリちんの筋書きだった。
魔女れんれんはどちらも揃ってて、しかも撮影に集中できる他の魔女も近くにいるらしいから絹ちんは悔しがってたんだろう。
しかし、あの絹ちんが喜怒哀楽をあんなに…
これは………京くんと何かあったのかもしれない。
───ヒュッゥゥン
アイスピックはともかく、とりあえず膝にサポしとこう。
◆
円卓にいた頃、居心地は良かった。ほんとにみんな良い子で、楽しかった。
けど、その間煮込まれ続けたわたしの恋心は、悲鳴をあげ出した。このままいたらいずれみんなを壊しちゃう。
そう思った。
それが中学一年。純のところに通いつつ、いろいろな道場とジムで発散しつつ、他に何かないかなと探しに山神神社に行った。そこで会った山伏に聞き、山に通うようになった。
山は良かった。そこには純粋な思いだけしかなかった。それに山は狡猾だった。アクシデントだらけ。
……そして、どこか懐かしかった。
野山を駆け回り、その経験から試合でも柔軟に対応できるようになった。
その山経験のおかげか、わたしの足裏のアーチはかなり高い。だからかなりバネが効く。
アイスピックや千枚通しで目を逸らし、一撃で仕留めるのは左足。
膝だけで蹴るんじゃなくて、腰の捻り、股関節、膝、足首、リスフラン、ショパール、それら全ての足の関節を鞭のようにしならせてカミナリのように素早く、刺す。
威力が無いのは、柔軟性と連動性、これが揃わないからだ。揃うとわたしのような女でも衝撃は逃げず、威力はあがる。
だいたい試したのはナンパと強姦魔だったけど。
それから純のところを辞め、足を折り、円卓のみんなと別れ、心にもっと蓋をし、ぐつぐつと純粋な想いを煮込む事にした。
高校に入ってからもう少し防御を下げて、後藤くん達に対応してきた。それすらも煮込む材料になるだろうと思って。
高校を捨て、大学で京くんと出会い、想いを爆発させ、そのままゴールインするために。
でもその計画は、遠隔地雷撤去で爆破され、再度確信させられた。
蓋が開いたらやっぱりダメだった。
修行が足りない…………ん? あれ? 仕留めていいのか。
そうだ、仕留めたいんだ、わたし。
京くんにカミナリ落としたいんだ。
◆
「でさ、これどーすんの?」
「すぐやられるこいつが悪いんだよお姉ちゃん」
「違いますよ! きぬきぬが永瀬先輩煽るから! まだ、参りました聞いてないのに! っでも、あれが……あの有名な眠らせ姫の一撃……こっわっ! こっわっ!」
「落ち着いて落ち着いてはるはる〜」
「はっ! れんれんも! 何ですぐ絞めようとするんですか! 筋書き無視しないで!」
「だってぇ仕方なかったんだもん! 藤堂さんにした仕打ち思い出したら絞めるもん! ふん! おらっ!」
「フゴッ」
「ふーん、歌恋だっけ。キック、良いしなりじゃん。ま、仕留めちゃうよね?」
「ふぇ!えーと、えーと、そりゃ服着てますし、絞めちゃいますよ〜へへへへ」
「優しい眼差し、ズルい。お姉ちゃん」
「もうそいつビクンビクン! お釣りで蹴らないで! きぬきぬももうそれ良いから! それよりずらかりますよ! このへんザラタンとか出るし!」
「あいつらボランティアにクラチェンしたから出ないよ〜」
「そうなんですか? …なら、大丈夫ですね、ホッ…じゃなーい! これただの暴行現場ですって! だから早くずらかりましょう! きぬきぬ、撮れ高!」
「バッチリ舎弟」
「ふぇ!…舎、弟? はぁん? うちのはるはるに何したんすかぁ〜?」
「何って…」
「わー! わー! いいの! それはいいの! やめて! 掘りさげないで! ほら、れんれん、ずらかりますよ! あなたお嬢なんだし! 見つかるとまずい! そして私がもっとまずいんです! バレたらうみが荒れる! うみうみの筋書き変えたから難破する!」
「はるはる、落ち着いて」
「はっ! あ、はい…」
「……」
ずっと観察してたけど…こいつ、
何か大事なものを共有してる? そもそも魔女と円卓が? 今も頬を染めあって… 百合…? いや、違う…。まるで…まるで本当の姉妹のような信頼の瞬間が……ぁ…る…
「!」
絹ちんの容姿、啖呵、ツヤ、態度、喜怒哀楽、コンプレックスの武器化、ヒール、よく見ればマネキュアも…
つまり、少女から女への変貌…
京くんへの想いも変わってない…
改めて二人を見る。
…………………これは、アレだ。
……… アレ姉妹だ。
…。
んぅ〜〜〜! わたしのこの手で童貞殺したかったのにぃ~っ!!
泣いたって叫んだってやめてって言ったって許してあげないんだからぁ! 土曜の夜は子供を作る日なんだからぁ! ふぇぇぇ〜ん! ダーリンのばかぁ〜!
つか、何呑気に寝てんだぁ、こいつはぁ! ゥシャッア!
「フゴォッ」
とりあえず倒れている中何某にもう一度カミナリを落とし、絹ちんと向き合う。
「絹ち〜ん?…聞き出したいこと…あるんだけど、良いかな〜? ていうか〜……きっちり吐いてもらうから」
「………待ってた、永遠ちん」
そっかぁ今日は終始マウントだったのね……
へーごきげんじゃん………ゥッ、シャァア"!
「ボゴッォォ」
あ、骨折れた。なんだこいつ。
中…
ま、いっか。
「あわわわ……永遠に…眠らせ姫が……起きた…」
待っててね、ダーリン。永遠に寝かさないから。
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