骨折り4
| 永瀬 永遠
久しぶりに会った絹ちんは、なんか大人になっていた。いつものアウトドアMIX姿ではなく、女子。ガーリーな姿。LEDに映えていた。
薄暗闇が似合い過ぎるこの根暗女にいったい何があったらこうなるの?
わたしは円卓の悪口や文句は気にしない。言われても構わない。だいたい元々敵なんだし。
不必要に不和を招かないよう毒は吐かなかったけど、内心は自由じゃん?
絹ちんはー、無表情ー、口数少ないー、二つあるこいつの部屋の一室はー、びっしり京くんの写真貼ってるー、そのこと誰にも言ってないー、間違えて見つけたわたしー、いちおー本人にも黙ってるー、そんな女がー、
チークとか使ってんじゃん!
頬に泥つけて至高の一枚を狙ってた絹ちんが、チィークッ!!
……なんだろう。今更女だと意識して欲しくなったとか?
しかも、この大きなトートバッグに後方彼女ヅラ&ガーリー風コーデの絹ちん。
………ん?
彼女ヅラ?
こいつの艶………え? 脱童貞してない?
……いや…ないか。絹ちんだし。
ファインダー越しに会話するのが楽しいってアタマおかしいこと言ってたし。
そもそもそんな女抱く特殊なやつ居ないだろうし。体型もお子ちゃまだし。
「永遠ちゃん、いやさ、永遠ちん」
「…好きに呼んでも良いけどさ……なんか久しぶりに会って、絹ちんイキってない?」
「イキがってない。…ほんとは昔から呼びたかった」
だからその動機、源を知りたいんだよね…なんか刺したくなる衝動はそこから?
うーん。
◆
絹ちんに連れられて、やって来たのは天養駅。それからファミレスに入り、ゴトのあらましを聞いた。
京くんを暴行した四匹。そのうちの一匹。
「あいつ」
「あれが、中田大也か。ふーん。なかなか強そうじゃん。純は?」
「純ちゃんは温存」
「…言うじゃない」
円卓は、一匹ずつプロファイルをすでに済ませていた。エリちんと詩ちんだろう。絹ちんのターゲットはこいつ。わたしは実行班。協力とか興味ないんだけど、京くんをボコったんなら別。殺るっしょ。普通に。
けど絹ちんの策はなんというか、外連味というか…
「そもそもそんなこと出来るの、絹ちんに」
「問題ない」
「そういうんじゃないと思うんだけど…」
そもそも普通にボコったらダメなの?あいつ、後藤くんより弱いよ?
「大丈夫。合法ローリーに、私はなる」
「…いや、だから、そういう亜流じゃなくって…」
「ちょっと待ってて」
そう言って、絹ちんは化粧室に行ってしまった。
もう、なんなの…
◆
あの絹ちんの強気な自信の源はいったい…
カッカッカッカッカッカッカッカカカカ…
それに京くんが沈む?ザラタン無双して…
カッカカカカカカッ カッカッカカカカ…
無抵抗…?その後どうか絹ちんは触れない…
カカカッ カッカッカカッカッカッカッカ…
なんか臭うな…
カッカカカッ…
「あ、あの、お、ぉ、お客様?…そ、そのテーブルで、その高速ハンド・ナイフ・トリックはちょっと…」
「あ、ごめんなさい…ボーっとして…つい」
「ボーっとしてたら余計危ないんじゃ…。怪我しますよ!や、やめてくださいね!お、お願いしますね!」
こくりと頷く。
それは、そうか。地雷系メイクのヤツがテーブルでアイスピック、カッカッ、カッカッしてたら怖いか。可愛い店員さん、ごめんなさい。
…ふむ。なら何が。
…ヒュ ヒュンヒュ
動画は京くんが無抵抗で愛ちんが薄モザ。
ヒュンヒュヒュヒュンヒュヒュヒュンヒュ
まあ愛ちんがそんなことしないだろうから
ヒュンヒュヒュンヒュンヒュヒュンヒュン
嵌められたのは間違いないけど…
ヒュヒュヒュンヒュヒュヒュン…
うーん。
ヒュヒュッ
結論。絹ちんは何か隠している。
ヒュ ヒュンヒュンヒュンヒュ
「あ、あの、お客様? あ、あのア、アイスピックでフレア?ジャグリング?はちょっと…」
「あ、ごめんなさい。考え事してたら、つい…」
「考え事してたら余計危ないんじゃ…も、もういろいろやっちゃダメですからね!ほんとに怪我しちゃいますよ!」
こくりと頷く。
優しいなこの子。
地雷系メイクのヤツがフレアしたら似合うじゃん? 遠目ピエロみたいだし。あまり目立たないと思ってチョイスしたのに……しかもなんと控えめ三本使い。
見つかっても、なーんだジャグリングか〜はいはい、みたいに流してくれるかなーと思ったけど…まあ、ごめんなさい。
「お姉ちゃん」
お姉ちゃん? ふと顔を上げると、絹ちんが小学校の制服を着て立っていた。
「…………」
小学校の制服が似合う…だと…? …。
私達の通っていた小学校は、普段は私服だけどイベント時のみ制服着用だった。流石に背の高かったエリちんか、ひーちゃんに借りたんだろうけど、それを着て…少し濃いめのチークはそういう事か………くっ、似合う。
じゃなくてっ!
…あんなに大きな胸に憧れていた絹ちんが?
パッドの数いつも数えて悲しい顔してた絹ちんが?口に出さずともみんなが知ってて優しさで触れなかった激コンプレックスを………
武器化し釣り餌にする……だと…?…。
「…絹子、今日は給食ちゃんと食べれた?」
「食べた。お姉ちゃんは?」
「………………針、ぶっ刺してた」
動揺して、つい設定に乗ってしまった。
絹ちんも返すんじゃねーよ。
私も答えんじゃねーよ。
ほんとにいったい何があったの、絹ちん……
ジャッジャジャッジャジャッジャジャッ……
わたしはとりあえず心を落ち着かせるために、アイスピックをダイヤモンドヤスリで研ぐことにした。
ジャジャジャジャジャジャジャ…
「お、お、お客様〜!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます