骨折り3

| 永瀬 永遠




放課後。


後藤くんと学校から駅まで一緒に帰る。途中、男子生徒たちに冷やかされながら。


それもそのはず。わたしがニコニコなのだ。そのせいで、後藤くんが照れる照れる。


地雷系メイクのわたしが気分良くしてたら、それは周りも本人も勘違いもするか。



京くんがわたしの地雷を遠隔で爆破したのだ。そのせいで、わたしの心の箱の蓋が勢いよく吹っ飛んだ。


そこから永く眠らせていた永遠ニャンコが出てきてしまった。


円卓のみんなは生涯眠らせておいて。なんて言ってたけど、失礼な話だ。


ひーちゃんのウマ娘化よりマシだと思う。あれもいつパドックから走り出すか。


ウマ娘が京くんの背に跨ってんじゃねーよ。

跨っていいのはおヘソの下……


にゃ。


瑠璃ちんの嬉ションよりマシだと思う。あれもいつジョジョバーするか。


京くんに汚ねーの掛けてんじゃねーよ。

掛けられていいのは顔かおヘソの下……


にゃ。


後藤くんは完全なるとばっちりを受け、テレテレだ。


……可哀想に。





「確かに居ないね」


「ぁあ、こんなに居ないなんて不気味だぜ」



いつも亀工生が屯している駅前。


コンビニ、駐輪場、茶店、駅中の端っこ。亀が全然いない。


昼休憩に聞いた話では不良チームはボランティアクルーとして再出発したらしい。どうやったらそうなるかわかんないけど、多分京くんだ。


というか後藤くん。ぜ、じゃない。ぜ、じゃ。


あ〜京くんもこういう言葉使わないかな。oO


─永遠


──なに…京くん…


────不気味だぜ


…………………。



「痛っ!…なんだ?」


「…また神経痛?ピリっとするよね〜アレ」



後藤くん、あんまりソワソワしないで。背中針で刺されたくらいでキョロキョロとか恥ずかしいし。だから最期、間違えたんじゃん。


はー…。明日から量産型メイクに変えようかな……だめか。


後藤くんがもっと勘違いしちゃうか。ごめんね、推しはいつだって京くんなんだよ。


また再確信しちゃったなぁ。


京くん。逢いたいなぁ。


「京くん…」


わたしの漏らした儚い呟きに、弾除け後藤くんはなぜかテレていた。なんだこいつ。





駅の改札に着くと、そこには亀工生はやっぱりおらず、代わりに円卓の忍、首藤絹子。絹ちんが居た。……絹ちんがお洒落して人前に?



「永遠ちゃん」


「……絹ちん」



ただならぬ様子のわたしを見て、後藤くんはわたしを背に庇いながら心配そうに聞いてくる。



「…友達か?」


「う、うん…そう友達」


「…あんまり嬉しそうじゃねーな。あんた、永遠に何の用だ?」



こいつ…ドサクサ紛れに名前呼びしやがった。あー…ヤバ。これはキレそう。



「誰?この人」


「……後藤恭児くん。学校のクラスメイトだよ」


「……キョウ……自傷?」



絶対言うと思った。違うよ。たまたまだよ。たまたま弾除けだよ。たまに弾除けの舎弟の流れ弾がわたしにたまたま当たるだけだよ。




「自称?いや、本当に永遠のクラスメイトだぜ。永遠に用があるなら俺が聞くぜ」


「そうなの? …意外」



ちげぇーよ。


それに、後藤くん。ぜ、じゃない。ぜ、じゃ。


そしてこの彼氏ヅラ…これがエリちんの言っていた前方彼氏面か。なるほど…。


いや、それよりも…なに? この絹ちんの自信ありげなツラ。堂々としていて、駅中で一際輝いている。周りの学生もチラチラ見ているし、この忍びの風上にも置けない感じ…背もピンとして…


…あ!ヒール履いてる!絹ちんのくせに色気づきやがって…どこへでも足元にはあの日から白いラバーソールだったじゃん!


………なんだろう。


なんか……なんか刺したい。


うん?絹ちんはリストに入ってないのになぜ?


ふー…。


仕方ない。事情聴取といきますか。へんしーん。



「ふふっ、大丈夫。幼馴染だし。後藤くん、ありがとう。ここまでで良いよ。絹ちんと話してくるね。あと……名前呼びされるの、わたしキライなんだ。次からやめてね」


「え?」



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