骨折り2

| 永瀬 永遠




昼休憩。


いつものように退屈な授業をまじめに受けたあとの昼食だ。引き摺る足を食堂に向ける。


鶴ヶ峰の学生食堂は狭い。生徒全員は入れない。せいぜい学年別くらいがギリギリかな。

だからいつも満席だ。


でも一番奥の角。

そこだけポッカリと空いていた。



鶴ヶ峰の美少女と野獣。


そう呼ばれるわたしと後藤くんの席だった。後藤くんはこの辺りでは割と有名らしく、鶴ヶ峰では敵なし。舎弟には先輩も同輩も多い。だからかいつもわたしを連れ立ってそこに行く。


後藤くんの友達だろう男子生徒達に囃し立てられながら席に座る。


正直、放課後だけで良いんだけど、接点を作りたいんだろうな。


でもその恋、通行止めなんだよね。

一通だし。今工事中だし。進入禁止だし。


やっぱり通行止めかな。


ひーちゃんが言ってた胸キュン?はやっぱりどこにも無かった。最終的には京くんのものになるのだとしても、一応確認だけはしておきたかった。だから別の高校に進学したのだし。


柔軟でしょ、わたし。


まー、むだむだむだむだむだだった。


鶴ヶ峰のマックスが後藤くんだとすると、

まー、むだ。



「いつもありがとうね」


「気にしなくていいぜ」



ぜ、じゃない。ぜ、じゃ。


はー…、最近調子に乗ってるなあ。

まあ、仕方ないか。


ポケットの中の手縫い針をクリクリと触る。レザー用だから先は少し丸い。1番太い麻糸でも縫える太さの針だった。それが六本。



「恭くーん、聞いた? 亀工の話」


「いや、なんだ?」



キョウクンの単語にピクリと反応する。後藤くんの友達舎弟が三人来て、後藤くんに呼び掛ける。紛らわしい。


針を触る指の本数が増える。いま三本。足りる。



「なんか天養駅の高架でさ、多分ふかしだと思うんだけどさ。全滅だって。こいつがさ」


「…ファミレスの近くのか?何が?」


「ザラタン達。全滅だってさ」



ザラタン。亀工の不良グループ。半グレとも付き合いのあるという田淵のグループだ。そうそうそういう愛の無いやつらは浄化されるべきだ。



「嘘っしょ」


「はい嘘ー」


「ほんとだって。昨日さ、昼くらいにファミレスに居たツレがさ、見たんだって」


「何を?」


「ファミレスに東野達が居てさ、騒いでたの。店員に絡んだりして。そんで一人の優男がさ、そいつら連れ出して一人でボコったって」



亀工の東野。田淵と肩を並べてる武闘派だ。へーなんだ、いい気味じゃん。



「なんでそんなこと知ってんだ、そいつ」


「連れ出した後、店員の女の子のツレがさ、何を思ったかあとを尾けるって聞こえて。その子ら可愛かったから気になって尾けたんだって」


「ただのストーカーじゃん」


「ちげーって、最期まで聞けよ」


「それで?」


「…その優男が、さ。もうじゃんじゃんザラタン呼ぶの。もうこれでもかって言うくらい」


「…って事は全員負けたのか? その男に」


「そう! 田淵が膝ガクガクさせて、その優男の言うことハイハイ聞いて」



ふふ。いい気味だ。

そうそう。神は時として試練を与えるの。田淵とかに。その男子は神の使徒だね。


…もしかしたら胸キュンするかな?



「あの田淵が〜うそだろ〜」

「しかも一人でだろ?ないない」


「なあ?」


「いやなんかそれがさ。気の毒になるくらい人格変わってたらしくてさ、田淵がやられた仲間を殴りながら、ずっと呟くんだって」


「なんて?」


「…嘘は良くないね、って」


「………」



───キュン。京くん?


──トクン。京くんだよね?


─トゥンク。京くんに決まってるよね?



ふー…。



もぉ〜そんな特殊な決め台詞使う人ぉ〜京くん以外にいないよぉ〜もぉ、バカバカバカぁ〜あぁ〜かっこいぃよぉぉ〜 


あ"ぁっ! 針おもっきり手にぶっ刺しちゃった!


もぅ、京くんのアホォ〜!間接胸キュンしちゃったよぉ〜!


後藤くんは刺す!ひーちゃんもついでに刺す!

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